【インタビュー】ドラマプロデューサー祖父江里奈さん【第2回/全3回】エロいシーンほど面白く! 受け入れられるエロの線引き

【インタビュー】ドラマプロデューサー祖父江里奈さん【第2回/全3回】エロいシーンほど面白く! 受け入れられるエロの線引き



BOOKOUTジャーナルとは

知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。


撮影/長谷川 梓
文/小嶋優子

テレビ東京の大人気ドラマ『来世ではちゃんとします3』の制作が決定! 『来世ちゃん』の配信は、スマホ視聴が約7割と、テレビドラマの世界も「テレビで観る」ものから、「スマホで観る」ものへと変化。よりパーソナルに突き刺さるドラマが求められる中で、今まで未開拓だった「女性のエロ」にもスポットを当てる『来世ちゃん』プロデューサーの祖父江里奈さんに、「シン・ドラマの需要」を伺います。

 

ドラマで、受け入れられるエロ、受け入れられないエロとはーー?

――『来世ではちゃんとします』では、緊縛された主人公がオムライスを食べるシーンを観て、衝撃を受けました! 祖父江さんの作られるドラマは、知らない世界を覗き見させてもらえる刺激があって、食い入るように観てしまいます。女性が今まで表立って言えなかった本音や共感したい部分を形にしてくれていますが、“受け入れられるエロ”、“受け入れられないエロ”のさじ加減や線引きは意識されていますか?

特に『来世ちゃん』がそうなんですけど、私は、「エロいシーンほど面白く」っていうのをテーマにしていて(笑)。脚本家にも監督にも現場スタッフにも、「いいか、エロいシーンほど面白くだぞ!」っていうのは口をすっぱくして言ってます。
 テレビなので当然限界はあって、表現の仕方については審査部と何度も相談と交渉を繰り返しました。よく言われたのが、「生々しい表現は避けてほしい」「視聴者が不快になる表現はしないように」ということ。その結果、コメディタッチにすることで明るくライトな印象の作品になりました。主演の内田理央さんも肌を露出するような露骨なエロシーンはありません。

 ポルノが作りたいわけじゃないんですよね。それはもっと専門の人たちがいるし、その人 たちに対するリスペクトもあるし。私はテレビドラマの中でできるエロをやればいいと思ってるので、エロの限界に挑戦、みたいなことは目指していません。会社・視聴者・事務所、これらが全部納得して、みんなが怒らないレベルを常に微調整するのを心がけてます。シリアスに描写するのもひとつのやり方かもしれませんが、私は娯楽で包む方が好きですね。

――役者さんを選ぶときはどう決めていますか? 美しい女優さんもちょっと情けなかったり惨めな部分がリアルだったり、クズ男キャラの俳優さんも、なんでこんなにハマるんだろう? って思うのですが、この役とこの人はマッチするなというのはどうやって見抜くんでしょう?

これは本当に役によるんですよね。内田理央さんが主演した『来世ではちゃんとします』も、山口紗弥加さんが主演した『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』も、まずは絶対に女性視聴者から嫌われない人にしようって思いました。ちょっとエロい内容だし、ともすればふしだらなキャラだから、女の人から嫌われたら終わりだと。だからとにかく女性の視聴者から好かれるキャスティングをしようって思った時に、内田理央さんは当時『おっさんずラブ』に出ていて、主人公に叶わぬ恋をしながらも支えていく幼なじみという役どころで、それがすごく女性の共感を呼んでいて。あと彼女はオタクなところがあって、マニアックな話を嬉々として話したりする。彼女だったら女性にも好かれるだろうなと思ってお願いしました。

「マッチングアプリ」は品。上品さ。この役が下品に見えたら終わると思ったので。山口紗弥加さんは、年下男性との軽薄な行為を演じても失われない品性がある女優さんなので、最高だと思いました。
このドラマは、マッチングアプリを推奨するわけではないんですよ。でもマッチングアプリを使えば38歳でも若いイケメンとデートができる。それをあなたがわかってやってるんだったらいいんじゃない? っていうメッセージなんです。
だって、ためらってる人がいたらもったいないじゃないですか。やりたいんだったらやればいいよって。
もしも主人公が、真剣に結婚相手を探しているような状況だったら別だけど、あの主人公はバツイチで、失われた青春を取り戻したいって思ってるから、そのときにマッチングアプリは最高に便利だし、女の人が“ヤリモク”でアプリを使って何が悪いっていうのが最大のメッセージだったんです。

――ともするとアプリの危険性を描く方向に行きがちかなとも思います。

そうですね。もちろん、ひどい男に会ってしまったり犯罪まがいの目にあうようなシーンもありましたが、それはメインで描きたいことじゃない。あのドラマはただただアプリで浮かれた恋愛を描くだけじゃなくて、アラフォーならではの葛藤や人生の行き詰まりだとかがあって、後半でそれがしっかり描かれるところが原作の魅力だなと思っていました。これがまさに「これは私のことだ」ですよね。だからドラマを観た友達から、「アンタなんてものを作ってくれたんだ」って言われました。なんてものを世に放ったんだって(笑)。

――最後に、ちょっと意地悪な質問を。他局のドラマで「このドラマは自分が手がけてみたかった!」と思った作品はありますか?

MBS制作の『明日カノ(明日、私は誰かのカノジョ)』です! どこがやるんだろうと思ってたら、あ〜MBS。だよねだよね。え? 監督・酒井麻衣? 最高だ〜って思いました(笑)。MBS+明日カノ+酒井麻衣、この組み合わせを考えたプロデューサーは天才だなと思いました。

――どの辺がさすがだなと思うポイントだったのでしょう?

やっぱり酒井麻衣監督を組み合わせたことですよね。私は女性監督に注目しているんですが、彼女は『マッチングアプリ』を撮ってくれた監督で、若い女の子の欲望を不快感なくキャッチーに、美しく描けるという点で、今、一番の監督だと思います。その監督と、まさに今時の女の子たちのあらゆる種類の欲望を描いた『明日カノ』という原作、そして、実はテレビ東京なんかよりはるかに尖っていると私が思っているMBSの深夜枠「ドラマイズム」。さらにはディズニープラスで配信まで! もうもう完璧な布陣です!(笑)
MBSのあの枠、ライバルなんですよ。うちと。私は勝手に、テレビ東京深夜のライバル枠はあそこって思ってます!

第3回は、「祖父江P式のアンテナの張り方」についてうかがいます!
*12月9日(金)に配信予定です。お楽しみに!

祖父江 里奈(そぶえ・りな)

一橋大学社会学部卒。テレビ東京プロデューサー。2008年に入社し、10年間のバラエティ番組担当を経て、2018年より制作局ドラマ室に異動。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』『生きるとか死ぬとか父親とか』等、主に女性向けのドラマのほか、トークバラエティ『喋ってお焚き上げ』を手がける。