【INTERVIEW】奇妙で美しい世界へと誘う映画『白の花実』が12月26日に公開。“ファントム・ファンタジー”というジャンルに挑戦した池端杏慈に話を聞いた。
2024年に映画『矢野くんの普通の日々』のヒロイン・吉田さんを演じ、今年は『ストロベリームーン 余命半年の恋』、そして『白の花実』と出演作が続いている池端杏慈。今後さらなる活躍が期待される彼女に、オーディションを受けて決まったという『白の花実』への思いを聞いた。
撮影/浦田大作 スタイリスト/中澤咲希 ヘアメイク/加勢翼 文/平井晶子

――『白の花実』の穂乃川栞役は、オーディションで選ばれたと伺いました。どんな気持ちで臨まれましたか?
「学校帰りに、制服のままオーディションに参加しました。その時は高校1年生か2年生だったので、演じる役と歳が近いこともあってとりあえず“自分らしくいこう”と。オーディションとなると“うまく見せなきゃ”という気持ちにもなるのですが、なるべく素のままで監督とはお話しようと思っていました。」
――出演が決まった時の気持ちを教えて下さい。
「『栞役を池端さんにお願いします』と聞いた時は、すごくホッとしました。最初は嬉しいというより、安心したという気持ちのほうが大きかったです」
――脚本を読んでみて、どんな印象を持ちましたか?
「最初はちょっと落ち着いた雰囲気の作品だなと思いました。読んでいると、少し寂しい気持ちにもなって。自分が演じる栞にとって大切な幼馴染みという存在がいなくなった時に、どういう感情になるのかなということを考えました。私には栞と莉花のような関係の幼馴染みがいないので、お揃いのブレスレットを買ったり、一緒に先生に怒られたことがあったり…そういうところがすごく綺麗というか、素敵な思い出ばかりだなと読んでいて嬉しくて。そして、最後には莉花から背中を押してもらえるようなセリフもあって。寂しい気持ちがありつつも、後味よくというか、背中を押してもらえる物語だなと思いました」

――作品を拝見して、セリフ以外の部分もとても丁寧に描かれている印象を受けました。
「確かにそうですね。最初に坂本(悠花里)監督とお会いした時も、監督自身がゆったり時間が流れているような方で、一緒にいると落ち着く方だったんです。物語自体もどちらかと言うとスローテンポで進んでいくので、“死”というテーマを取り入れつつもファンタジーな要素もあったので。作品を観ていて心地よさを感じました」
――撮影に入る前にワークショップが行なわれたそうですが、監督からはどんなお話がありましたか?
「撮影に入る2,3カ月前から、杏菜役の美絽さんと莉花役の虹子さんと一緒にワークショップを受けました。栞は3人の中で一番大人びているというか、現実的で冷静さを常に保っているキャラクターで、感情が上下することはあまりないんです。監督からは最初に、『本当に莉花のことを大切に思うという気持ちは忘れないでほしい』というお話をしていただいて。“そこは大切にしておこう”って自分でも思いました」
――中学三年生の役でしたが、年齢という部分は意識されましたか?
「あまり意識はしていなかったです。脚本を読んでみて、杏菜と栞はあまり“逃げていない”というか、現実にしっかり目を向けているなというところが中学3年生らしくないというか(笑)。お互いが心強いパートナーになっていくところがかっこいいなと思いました。大人っぽくいなきゃとかを考えず、素のままでいました。特に美絽とお芝居をする時間が長かったので、一緒にお話をしたことでありのままで演じられたのかなと思います」

――美絽さん、虹子さんと共演してみての印象を教えて下さい。
「美絽は同じ年で、虹子がひとつ下なんですが、3人でいるととてもほんわかした雰囲気で。好きな食べ物の話をしたり、役名のネームタグ的なものをペットボトルに貼るんですけど、それをみんなで書き合ったりしていました。でも、カメラが回ると美絽は目がキリっと変わるんです。大人に対する敵意の目や、栞といる時の優しい目をする美絽が素敵でしたし、虹子は、莉花として落ち着きがあってすんなり入ってくる声がとても素敵でした。ふたりともそれぞれ違う素敵な一面があるんですけど、一緒にお芝居をすると、また全然違う感じに見えると思います」
――杏菜との関係性が時間の経過とともに変化していくのを感じました。演じる上で意識したことはありますか?
「最初に杏菜と話す時、“栞は杏菜のことをちょっと嫌い”というのは自分の中にありました。莉花のことをなんでも知っているように話す杏菜に対して栞としては“なんだろう、この子”っていう感覚だったと思うんです。でも、莉花の日記を見つけてから杏菜の雰囲気が変わったり、莉花を連想させるしぐさがあったりして。“本当に莉花が近くにいるんじゃないか”という希望というか、切実な願いを栞は持つようになるので、最終的には杏菜のことを好きになって、いい友達としていられるようにという部分は意識し演じていました」
――栞を演じるうえで大切にしようと心がけていた部分はありますか?
「坂本監督と事前にお話しした時に、『莉花への愛情は忘れないでおいて下さい』と言われていて。私もそこは絶対に大事だなと思って、台本にもちゃんと“莉花への愛情”って書き込んでいました(笑)。栞は、常に莉花に対しての強い気持ちがあったので。莉花のことを忘れて杏菜と仲良くなろうというのはまた違うかな、と。莉花という大切な幼馴染みの存在を通して杏菜と仲良くなる、杏菜を見ている部分はあったと思います。莉花を思う気持ちは演じる上でずっと忘れないようにしていました」

――ゆったりとした時間が流れる中で、声のトーンを抑えているような印象を受けました。
「最初に本読みをした時、みんなで会うのが初めてだったこともあり、私も美絽も虹子も緊張していたと思います。いざ監督も一緒に本読みをした時、どうしても演じようとする感じが出ていたと思うんです。でも、坂本監督は『池端さんは池端さんのままで、美絽さんは美絽さんのままで。もうそのままでいいので』と言って下さいました。『棒読みで一度読んでみましょう』と提案して下さって。感情を入れず、ただそこにある言葉に声を発するだけということをしました」
――とても興味深い方法ですね。
「そういうところから始まって、より自然な会話というか、自然なお芝居になっていったのかなと思います。何も考えずにただ読むだけでいいから、そこに少しずつ感情を乗せていくという感じで。新しいやり方だって思いました。でも、坂本監督からそのアドバイスをいただいたことでとてもやりやすかったですし、楽しかったです。新たな気付きもありました」
――事前に行なわれたワークショップとダンスレッスンから感じたことはありましたか?
「ダンスレッスンは、美絽とふたりでやる時もありましたし、他の女学校のキャストの方達と10人くらいで集まってやることもありました。ダンスの監修して下さった寺杣彩さんという先生がずっと教えて下さったんですが、彩さんが『空間認識を大切にしてほしい』と言っていて。コンテンポラリー要素のあるダンスなので、『隣に誰かがいることによって、その誰かの存在や雰囲気を感じながら動いて下さい』というようなことを話して下さいました」

――言葉で聞くと難しそうです。
「ずっと“これで合っているのかな?”という気持ちもありました。何が正解なのかなという思いもありましたが、どうやっても正解になるような感じがあったので。“名前のない踊り”という感じで、すごく楽しかったです」
――特に印象に残っているシーンはありますか?
「最後のほうに、杏菜と栞が一緒に話すシーンがあるんです。そのシーンは結構撮り直しをしました。最初はスタッフさん達がどういう角度から撮るのか、カメラを移動させながら撮るのかそのまま撮るのかなど話し合いをしていて。そういう話し合いを重ねたあとに撮影を行なったんです。ただ、そこが自然の中の湖の近くてとても寒くて。寒いと体が動かなくなってしまうので、空き時間に坂本監督と一緒に動いたり、美絽とも手持ちカイロを持ってストレッチをしたりしていました(笑)。栞の感情を出す場面でもあったので、大変なシーンではあったのですが、見ごたえのあるシーンになったのかなと思っています」
――とても素敵なシーンでした。この映画は魅力を持った作品だと思いますか?
「このお話は、“生と死”という、初めて自分の身近な人の死に触れたことで杏菜と栞の物語が動き出すんです。私自身、自分が生きている中で、今まで“死”という部分にしっかり向き合って考えたことがなかったなと思いました。登場するのは、まだ中学3年生の女の子ということで、未完成な部分もあって、心が揺らぐ様子とかもあります。そういう部分を感じられる映画になっているのかなと思います」
●プロフィール
いけはた・あんじ
2007年9月8日生まれ、東京都出身。2021年にファッション誌『ニコラ』のオーディションでグランプリを獲得し、専属モデルに。2023年には、ポカリスエットのCMキャラクターに抜擢され、2025年にはゼクシィ15代目CMガールに抜擢される。さらに、高校サッカー選手権21代目応援マネージャーに就任し、注目を集める。俳優デビュー作は、2022年のドラマ『オールドルーキー』。2024年には映画『矢野くんの普通の日々』で実写映画初出演を果たし、現在『ストロベリームーン 余命半年の恋』が公開中。
●作品紹介
『白の花実』
監督・脚本・編集/坂本悠花里
出演/美絽 池端杏慈 蒼戸虹子 河井青葉 岩瀬亮 山村祟子 永野宗典 田中佐季 伊藤歩 吉原光夫 / 門脇麦
配給/ビターズ・エンド
周囲に馴染めず、転校を繰り返していた中学三年生の杏菜(美絽)。新たな寄宿学校で出会った美しく完璧なルームメイト・莉花(蒼戸虹子)の突然の死をきっかけに、莉花の幼馴染み・栞(池端杏慈)を巻き込みながら、“死の向こう側”へとそっと踏み込んでいく。
12月26日(金)全国公開







