【INTERVIEW】初主演映画『お別れの歌』が4月17日より劇場公開となる濱正悟。転機となった大切な作品への並々ならぬ思いを語る。

【INTERVIEW】初主演映画『お別れの歌』が4月17日より劇場公開となる濱正悟。転機となった大切な作品への並々ならぬ思いを語る。


『舞いあがれ!』以来、2度目のNHK連続テレビ小説出演となった『ばけばけ』で錦織友一(吉沢亮)の友人・庄田多吉を演じた濱正悟。「半分弱」の愛称で親しまれ、ドラマを大いに盛り上げた。この度、長い年月を経て初主演映画『お別れの歌』が劇場公開される。教員を辞めて故郷に戻り、祖父の営んでいた古い家具店の店番をする夢大。当時はもがきあがく主人公の姿に自分自身を重ねていたという。

撮影/浦田大作 スタイリスト/壽村太一 ヘアメイク/佐々木麻里子 文/髙山亜紀

――いよいよ初主演映画が公開ですね。
「以前、田辺・弁慶映画祭で上映させてもらった時に観たのですが、その時には自分の演技が少し微妙だなと思ったんです。でも最近改めて見たら、案外悪くはないのかもしれないって思いました。自分の中の寛容さみたいなものが今は広がっているんだと思います。“これはどうだろう。ダメかな”というより、“これもいいな”というほうを今は大事にしているからだと思います」

――何かきっかけがあったのでしょうか。

「いろいろな役との巡り合いもあると思います。自分に共通する部分がある役で声をかけていただくことが多いのですが、『ばけばけ』の役などはポジティブな人間なので、そういう部分が重なって、自分自身も寛容になってきているような気がします」

――濱さんは作品を見ていると、飄々としているイメージがあります。

「基本的には飄々としている部分がずっとあるのかもしれません。でも、この作品を撮影していた当時の僕は今より仕事も少なく、鬱屈としている自分がいたような記憶があります。とにかくあがき、もがいていたんです。それがこの物語の夢大と一番重なった部分かもしれません。今回、作品を観返してポジティブな意見を持てたのは、この作品を今になってより理解できたからだと思うんです。当時の自分は夢大と同じく今よりも未熟でした。だからこそ、夢大が女心をわかっていなかったり、人に対して虚勢を張ってしまう部分などが一層、当時の自分に重なっていたんじゃないかなと思います」

――台本を読んだ時点では共感といった感覚はなかったのでしょうか。

「多分、言われてわかる自分の性質が共通していたんだと思うんです。僕自身はそう思っていないし、本当に今より自分よがりに生きていたと思います」

――『ばけばけ』で濱さんを知った人は驚きそうですね。

「これを撮影した時は先生役ってあまり演じていなかったんです。庄田は半分弱とはいえ、先生をやっていて、夢大は辞めて地元に戻っています。庄田の天然で爽やかな清涼感MAXな感じと全く逆のやさぐれというか、ひねくれてだらしない感じ。また違った自分を見てほしいと思います。女心がわかってないってところはちょっと共通していますね。いろいろあるんですけど、2作品とも共通して言えるのは、芝居をしていて一切嘘はなかったというところです」

――主演として、現場で心掛けていたことは?

「当時は“主演だからこうしよう”という考えも起きず、とにかく“この夢大をどう演じるか”みたいな感覚でした。今まで自分が関わってきた作品や役の比じゃないぐらい、ほぼずっと出ていてセリフも多い。セリフのない部分も、行間みたいなところをどう表現するのか、いろんなことが未知だと思っていました。柴田(啓佑)監督は寄り添って下さって、自分のことをわかってくれて、ある程度信頼して任せてくれました。柴田さんから『主演って、引っ張っていくタイプと、みんなに担ぎ上げられて主演になっていくタイプがいるよね』と聞いて、なんとなく自分は後者だなと思ってたのを覚えています」

――柴田監督はどういう方ですか。

「同じ目線に立って、対話をしてくれる監督です。柴田さんに言われて一番覚えているのは、『現場で迷うな』。とにかく不安でしたから、この芝居をどっちでいくのか、このセリフをどの感じでいくかなど、台本を読んでいるといろんな選択肢が出てくるんです。みんなに担ぎ上げてもらって、甘えていたとは思うんですけど、現場に入った時にちゃんと自分の答えを持っていくことだけは意識していました」

――一番大変だった、挑戦だったことは?

「この作品自体がもう挑戦でした。2週間ほぼ毎日撮影で、朝から夜までずっと出ているので、未知なるゾーンにいく感覚がありました。不安はあったと思うんですけど、楽しみだったりもしました。静岡で2週間現場にずっといて、逃げも隠れもできないで、みんながどんな芝居をしているのかをチラチラ見て。自分自身が俳優としてもがいていた上に、“このシーンはどう演じるか、どうしようか”と思っている日々がもう葛藤でした」

――濱さんは切り替えがうまくできそうなイメージなので意外です。

「この時はもうずっと作品のことだけを考えていました。居心地が本当によかったんです。撮影が終わってもスタッフさんがいる広間みたいなところでみんなが集まっているから、そこへ行ったり、お風呂もみんなで入ったりして、一体感を感じていました。みんなでものづくりをしている感覚がすごくありましたし、貴重な時間だと思いながら生きていました」

――忘れがたい初主演作になりましたね。

「以前は映画をテレビで観ることもあったんですが、この映画の仕上がりを観た時に、これは映画館で観ないとダメだと思いました。照明で全然映り方が変わって、感情も見えてくる。整音のMA(映像と音を最終的にミックスして完成形に仕上げる工程の時間)にも編集室に顔を出させてもらって、音のタイミング、回数など、こんなにもこだわるんだと。外で吸うタバコの音と室内で吸うタバコの音は微妙に違うんです。それを大事にしている人がいるということにびっくりしました。知れば知るほど、この作品は映画館で観ないといけないし、自分が観たいと思ったんです」

――どんなことを伝えたいほしいですか。

「静岡での2週間はずっと地続きで、みんながあの空間にいたからこそ出た味わいみたいなものが絶対にあります。家具屋での木の香り、触った感じの質感みたいなところまでも伝わってくるようです。家具屋の中は色とりどりで、色彩的にも豊かです。静岡の茶畑を歩いていくシーンは全身緑にするなど、衣裳もこだわって決めました。各所、細部にこだわってつくられた作品です。その中でもがき、あがいているみんながどう交錯して、ちょっとずつだけど成長していく。絶妙な機微を逃さず撮って下さっているので、そこも観てほしいです」

――この作品で糧になったこと、影響を受けていることはありますか。

「田辺・弁慶映画祭で上映された時に、たくさんお客さんが来てくれて、ティーチインみたいな形で監督と話したんですけど、その時に初めて“初主演の映画をやったんだ”と実感が湧いてきました。それぐらい、決まった時も撮っている時もあんまり実感がなかったんです。ゲストで出演していたドラマも多いので、自分が役に込めた思いを詰め込みたくなるんですけど、自分が思ってきたことや演じる直前までにやってきたことって、生きているだけで伝わるんだとこの作品で学んだような気がします。作品のテーマも含めて、無理しないっていうことを学んだように思っています」

――20代から30代になって、自分自身に変化を感じますか。

「『30代になったら役が減っていくぞ』って、いろんな先輩から言われていたんです。でも、27歳ぐらいで高校生役を演じたり、役者って違う年齢を生きられるのでわけがわからなくなってくるんですよね(笑)。だから、あんまり年齢は意識していません。とはいえ、30代になっていろんな作品を経たから出会えた役もあると思います。それこそ30歳ぐらいから、夫婦や父親の役が急に増えてきました。その時々の役、作品との出会いを楽しみたいなって思っています」

――『お別れの歌』はいろんな人と出会って成長していく話ですが、濱さんにとって大事な出会いとは?

「難しいですね。悩みますが、僕はマネージャーさんだと思っています。今はいろんなコンテンツがあるので、作品もどんどん新しいものに上書きされていってしまいます。『お別れの歌』が今回公開されることになって、この作品がいかに自分にとって大事な作品だったのかを気付かされました。再び公開に向けて動いていく中で、より思いが強くなっていったんです。それを自分の担当しているマネージャーさんが、同じくとても大事だと思ってくれていた。止まりかけていたこの作品をどう動かすか、試行錯誤してクラウドファンディングをゼロから立ち上げて、宣伝の仕事も引き受けてくれたんです。一つひとつの仕事を大切にしようと思ううち、近頃ではこの作品に対する思いが少し薄くなってしまっていたような気がします。つい新しい作品のことや準備に手一杯になってしまい、自分ですら諦めかけて宙ぶらりんになりかけていたのに、根気強くやり続けてくれました。『お別れの歌』は自分が初心に帰れる大切な作品です。一瞬もこなしてやっていない、自分の中でとてつもなく大切な作品。僕の俳優人生において重要なポイントになる作品だと思っています」

――素敵なお話ですね。濱さんが俳優として譲れないことは?

「妥協しないことです。時間、予算とか、いろんな理由で諦めないといけないことが多々あると思うんですけど、自分だけはギリギリまで面倒くさくならない程度に役と作品に対して味方でいたいと常に思っています。その距離感が難しいです。自分だけのものじゃないので行き過ぎちゃってもいけない。でもその気持ちは持っていたいです。天才タイプの俳優とか、自分でオーディションを受けに行かなくてもどんどん役が決まってくる俳優とか、いろんなタイプがいると思うんですけど、僕はそうじゃない。頑張るしかないと思っています」

――達成感を感じる時は?

「みんなに見てもらえた時ですね。ポジティブな感想をもらえるとすごく嬉しいです。SNSで僕が意図していたこと以上に解釈して書いてくれている人がいて、自分の想像を超えてきちゃう人とか勉強になります(笑)。『お別れの歌』も絶対舞台挨拶をやりたいんですよね。ドラマだと視聴者のみなさんの前で挨拶をする機会が少なく、SNSで感想を見るとかになりますが、映画は映画祭や舞台挨拶、上映後アフタートークなど生でみなさんとお会いする機会があり嬉しいです。朝ドラ『ばけばけ』は地方でイベントに参加させていただいてすごく楽しかったです。直にみなさんの声を聞いたり、観終わったあとのみなさんの顔が見られるのは素敵なことだと思います」

――舞台挨拶、みなさん殺到しそうですね。

「ぜひ、来て下さい。初日舞台挨拶以外にもアフタートークも実施される予定なので、本当にこの作品は映画館で観てほしいです」


●プロフィール
濱正悟
1994年8月22日生まれ、東京都出身。2015年俳優デビュー以降、近年では 『恋せぬふたり』カズくん役や、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、連続テレビ小説『舞いあがれ!』、『毒恋~毒もすぎれば恋となる~』、Huluオリジナル『おとなになっても』などに出演。直近では連続テレビ小説『ばけばけ』で演じた英語教師 庄田多吉役を好演し話題になったほか、U-NEXTにて配信中のドラマ『ちるらん 新撰組鎮魂歌』~京都決戦篇~に佐伯又三郎役で出演。


作品紹介
『お別れの歌』
監督/柴田啓佑 脚本/細川洋平 
出演/濱 正悟 今泉佑唯 / 六平直政
小室安未 出口夏希 三谷悦代 しゅはまはるみ 木村知貴
藤代太一 瀬尾タクヤ 吉岡そんれい 隈部洋平

オール静岡ロケを敢行した濱正悟の初主演映画。古い家具店で働く夢大(濱)と葬儀場勤務の恋人ハルコ(今泉佑唯)のもとに、老人ホームを抜け出した夢大の祖父シゲル(六平直政)が現れる。自分を末期がんだと思い込む彼は「生前葬をあげたい」と言い出す。 死ぬ前に会いたい人を探す奇妙で切実な彼の願いに付き合ううち、若者たちの時間も思いがけない方向へ転がり出す。別れを準備するはずの旅は生きている今を見つめ直す旅だった。