【ペルー国境封鎖足止め日記】16kmも歩くなんて聞いていたら、行かなかった。

【ペルー国境封鎖足止め日記】16kmも歩くなんて聞いていたら、行かなかった。



人生初の中南米一人旅の真っ最中に、新型コロナウイルスが蔓延。
国境は封鎖され、飛行機はキャンセルになり、異国の地でのロックダウン生活。
街中がパニック、一人心細く、早く帰国したいと願う毎日……になるかと思いきや、
彼女は「いっそのこと、ここに住もう!」と決め、ペルーで生活を始めた。

ペルーで暮らして、早3年。
現地からお届けする、予想外で刺激的な日々。


 

ホテルのオーナーから「ツアー会社をしている友人と、アウサンガテ山の麓の湖を見に行かない?」と、ふんわりしたお誘いがあった。海は好きだけど、山にはさほど興味もなく、トレッキング?(この時点ではピクニックくらいの感覚)未経験だけど暇だしと、軽い気持ちで参加することに。

朝4時半に出発。車は徐々に高度をあげ、朝9時にようやく標高4100mのスタート地点へ到着した。晴天で、ド派手な民族衣装をまとった女性と大量のアルパカに出迎えられ、楽しいことしか想像しなかった。


△パチャママ(母なる大地)に、コカの葉とビールをお供えする儀式をして、いざ出発。

「夕食の事前予約をするけど、鱒かリャマ(ラマ)肉のどっちがいい?」と聞かれ、全員リャマ肉を注文。クスコでは見かけないメニューなので、夜が楽しみに。

今回参加したのは、アウサンガテ山の麓にある7つの湖を巡るという日帰りツアー。クスコから日帰りで参加でき、人気らしい。
歩き始めて目にしたのは、モコモコした高山サボテン“Tephrocactus floccosus”。地面にぎっしり生えていて思わず触りたくなったけど、よく見ると針がびっしり。


△左/通称Ausangate 7 lakesのルート、一周16km。スタート地点には温泉がある。 右/高山サボテンがぎっしり生えている。

4800m地点までは、緩やかな坂を登る。普段運動をしない者には少し苦しい道だったけれど、見たことのない神秘的な景色の連続で、「湖と山の色合いがかっこいい! スケールがでかい!」という好奇心が歩くのを後押ししてくれた。トレッキング、案外楽しいかもしれない。



△左/ガイドしてくれたアンデス出身、高山育ちの彼らはタフで、笛を吹きながら余裕で進む。右/道中はリャマとアルパカだらけ。

富士山よりも標高の高い地点を歩くので、少しの上り坂ですぐに息が切れる。「高山病予防にコカの葉を噛んでみて」と渡されて試してみたが、想像通りただの葉っぱでまずかった(笑)。

歩き始めて3時間ほど経過したところで、雨が降りはじめた。次第に吹雪へと変わって寒さも極限になり、完全に服装をミスったことに今更気が付いた(遠い目)。
厚着してきたつもりだったが、トレンチコートにテニスシューズ、テンガローハット(耳が寒い)という組み合わせは、南米の夏の10月とはいえ、完全に山をなめている服装だった。手袋とカッパは必須だ。ちなみに、鞄はエコバッグを持って行ったので、無理やりリュックみたいに背負って歩いた。

雪で視界の悪い中、岩だらけの不安定な道をひたすら歩いた。持っていた水は底をつき、足は痛いし、まだ湖は4つ目くらいだし、想像力の足りなかった自分が情けなくて泣き出したかった。思ってたんと違う! こんなに厳しい体験は初めてだ。山怖いーーー!!!
倒れて迷惑をかけられない一心でゴールしたのは、スタートから8時間後のこと。普段運動をしない自分が、こんなに歩けたことに驚いた。


△山には四季が本当にあった。一番厳しかった吹雪の岩道は写真を撮る余裕なし。動物の骨が転がっていて、不安を煽る。

下山後は村の温泉でビールを飲みながらアルパカを眺め、幸せな時間。予約したお店に夕食を食べに行くと、全員に鱒が出てきた。あの2択の時間は何だったのだろう……(笑)。
「このルートを普通に歩けた女性は、君が初めてだ」とガイドの方に言われ、そんなに大変なら先に言ってよ! と言いそうになった。この過酷さが最初からわかっていたら、参加しなかっただろう(ちなみに他の町から来て挑戦する場合は、まず高度に慣れる必要がある)。

しかし、結果的にこのツアーは、トレッキングの魅力に気づかせてくれた。飴と鞭だ。
無謀とも思える挑戦は、世界を広げてくれることを実感した。

今月のスペイン語


△左/ペルーにも温泉がたくさんあり、水着を着て混浴する。温度も丁度いい。右/夕食に出てきた鱒のフライ。

*次回は3月3日(金)更新予定です。

イラスト・写真/ミユキ


Written by ミユキ
ミユキ

旅するグラフィックデザイナー、イラストレーター
広島出身、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒、在学中よりフリーランスとして広告、ロゴ、エディトリアルデザインなどを手掛ける。
ロンドンに2年間の語学留学、オランダ・セントヨースト・マスターグラフィック卒業後、個人事業主ビザを取得しアムステルダムに12年居住。
ヨーロッパ全域を含む訪れた国は50カ国以上、旅先では美術と食を軸に、ダイビングや運転もする。
主な作品:ギリシャ・クレタ島の大壁画、ハイネケン Open Your World、モンスターズインク・コラボイラスト、豊島復興デザイン等、15年前からのリモートワークで、世界のあらゆる場所で制作。
HP:http://miyuki-okada.com
Twitter:@curucuruinc
Instagram:@curucuruinc

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