【ダイエットの落とし穴】大富豪女の末路

【ダイエットの落とし穴】大富豪女の末路



「読めば痩せる!?」笑えるダイエットストーリー、第23話!


 

《第23話》「大富豪女の末路」

今朝、職場に向かいメールを開くと、総務からメールが来ていた。
そのメールの内容を簡単に要約すると、

「身体と心は正常ですか? 心配してます」

と言うもの。

え? 最近の私って、そんなに疲れて見える??
確かに最近アツオのことで若干メンタル的に疲れている……かもしれない。

先日、またも私の家の前に現れたアツオ。

アツオは私の家の前で私を探すようにキョロキョロとあたりを見回していて、
その姿がどうしてもストーカーに見えてしまった私は、一旦コンビニへと逃げ出した。

が、まさかアツオが私のストーカーとか、そんなことあるわけがない! と、自分に言い聞かせ、意を決して私は家の前まで戻った。

のだが、戻った時にはもうアツオの姿は消えていた……。

あれは、一体なんだったんだ。
アツオは、私の家の前で一体何をしていたんだ。

少し前にも……

私の家の前で、ジッと私のことを見ていたことがあったし……

一体なんなんだ。
なぜ私を見張るように、私の家の前に現れるんだ、アツオ。

あー!! もやもやする!

アツオには感謝してるんです! アツオのおかげで長く苦しい停滞を打破させてもらったし。

なのに、なのに……

もやもやする〜〜〜!! もうどうにかしてーー!

と、そんなこんなで、若干メンタルは疲れ気味だ。
いや、でもそんなことを総務に心配してもらいましても。
と思ったが、冷静に考えてみれば、総務が私にメールを送ってきた理由がそんな理由であるわけがない。
理由は……

「先輩なんか最近ずっと仕事してません?」
後輩の伊藤ちゃんが私のそばに来てそう言った。
「ちょうどそのことで総務からメールきた」
最近の私は仕事が立て込んでいて、連日残業続きだ。
総務がメールを送ってきたのも、今月の勤務時間超過が規定以上に達した為。

うちの会社では勤務時間が規定以上になると、
「仕事しすぎてない? 休んでる? メンタル大丈夫? 一度産業医に診てもらう?」的な内容のメールが長々しく、仰々しく、丁寧な文章で届くのだ。

そんなメールに、
「大丈夫だよー! 仕事抱えすぎないように調整するねー」
ってこと、長々しく、仰々しく、丁寧に返信しなきゃいけないわけだが、

正直に言う。

と言いたくなる。

いや総務の方もこれが仕事で送ってくれているわけだから、文句を言っちゃいけないとも思うのだけど。

だけど、

「先輩。私この心配メールが総務から来た時に「じゃあ仕事減らしてよ」ってメール送っても、改善されたこと一回もないんですけど」

そう。伊藤ちゃんの言うとおり。改善された試しがない。
それどころか「じゃあ仕事少ないところに移動されますか?」なんて言われて、
やりたくもない部署に飛ばされた日には、もはや目も当てられない。

でも、だからと言ってメールの無視もできない。
無視なんてすれば今度は総務からのお呼び出しがかかることは目に見えている。

あー、ただでさえ仕事忙しいのに。アツオのことでもやもやしてんのに。忙しい中ダイエットも頑張ってるのに。それは総務に関係ないけど。

……はぁ……。とりあえずメールの内容考えよ。

私はひとまず「仕事量調整するように頑張るねー」的なことを長々しく、仰々しく、丁寧に書いたあと、
まあせっかくだから軽く要望くらい書き添えてみるか。
と思い「休めないのはうちの部署に人が少ないからなんだよねー。
だからうちの部署に人増やして欲しいなー」という内容を、仰々しく、丁寧に書き添えてみた。

が、正直全く期待していない

むしろ送った後で
「あ〜いらんこと書いたかも〜、やめときゃよかったー」とすら思った。
余計めんどいことにならなければ良いのだが……。

ま、今は気にせず、とりあえずやれることやりますか。
私は色々なもやもやを全て振り払うように、いや考えなくて済むように仕事に没頭することにした。

没頭しすぎて、あんなメールがきたその日早々に、残業してしまったけど。

まあある意味で忙しい方がありがたい。
だって忙しくて仕事に集中していたら、
「あー、お腹すいたー。なんか食べたーい」
とすら思う暇がないので、余計なものを食べすぎずに済むのだから。
と言いつつ、前に食べないことが原因で、ど停滞を招いたことがあるので、
食べるべき量はしっかりと食べる。

忙しい中、ダイエットにまで気を回す私を誰か褒めて欲しい。
まあそんなこんなで、なんとかその日の仕事を終え、まぁまぁ疲れて、いやかなり疲れて帰宅した。

そんな忙しい生活を繰り返して1週間──。

“ピッ”

いつも通り体重計に乗ると、いつも通りの音。

体重は……

10キロ痩せるまで、あと2.5キロ──

んー。
これでかれこれもう10日ほど、また最小値を更新できていない。

まさか……
また、停滞しました??

いやいやいや、今回はちゃんと食べてたのにー!
てか、このくそ忙しいタイミングで停滞って。
神も仏もありゃせんのかい。

てかまた停滞かよ。読者さまも飽きちゃうよ、こんな停滞停滞って同じことばっか!

なんでよー、もー。
えー、アツオにラインして聞いてみる……?
いやでもなー……。
あれから結局なんにもわからずじまいで、もやもやしたまんまだしなー……。

よし。ここは、自力でなんとかしてみよう。
ちょうど今日は、モッちゃんと恒例のジムの日。
思いっきり汗かいて、思いっきりカロリー消費して、やれるだけやってみよう!!

正直仕事が忙しくて身体は疲れている。
今日はせっかくの休日だ。本当は家でずっと寝ていたい。本当は運動なんて一ミリもしたくない。絶対にしたくない。寝たい。
でも! 言ってもあと2.5キロ。今まで7.5キロも頑張って痩せてきたんじゃないか。

しんどいなんて言っていられない! 休んでなどいられない!
ラストスパート、やれるだけやってやんよ!!

と、モッちゃんと共にジムに行き、
いつも以上に汗をかく為にやたらと厚着をしていることをモッちゃんにイジられつつも、
必死に汗をかくべく頑張ってみた。

厚着でのジムがいつも以上にしんどかったからか、疲れ果ててほぼ抜け殻のような状態でモッちゃんと共にジムから帰る。
と、隣を歩いていたモッちゃんが、

「あ、アツオだ」

と、偶然にも前を歩いていたアツオを発見。

……いや、本当に偶然か……?
だってアツオは斬新な前を歩くストー──
いやいやいや、流石に今回は偶然か。

「おーーい! アツオーー!!」

あ!! モッちゃん!!
しまった、モッちゃんには心配をかけたくなくてアツオとのことを何も言っていない。
今アツオに会うのはなんだかとても気まずい!
「ちょ、モッちゃん……」
と、止めようとしても……時すでに遅し。

アツオはモッちゃんの声に振り返る。
アツオは「あー」とモッちゃんをみて笑顔になるが、
「あー……」と私も見つけて少しだけ顔を曇らせた。

モッちゃんはアツオに小走りで寄る。付いていかないのもおかしいので、私も少し遅れてモッちゃんの後ろをついていく。

モッちゃんが、ジム帰りであることを伝えると、
頑張ってますね! と白い歯を輝かせて微笑むアツオ。
するとモッちゃんが

「頑張ってるよー! 今日とかこの子バカみたいに厚着してバカみたいに汗かいてたからね!」

バカは余計だ、モッちゃんよ。

「相当カロリー消費してるよ、きっと!」

まあモッちゃんが自分のことのように笑顔でそう言ってくれるのは嬉しいのだけど。
するとアツオが、

「あ、それ勘違いですよ!」

と。そして、私にとって驚愕の一言をアツオは言い放った。

「汗って、カロリー消費に関係ないですから!」

 

……え?

 

「汗って体温を調節するためのものですから。
どれだけ汗かいたってカロリー消費とは関係ないです

そ、そうなの……!?

汗をかいたらかいた分だけカロリーが消費されると勘違いしている人も多いが、汗とカロリーはほぼほぼ無関係だとアツオはいう。
じゃあ……私が今日とてもなくしんどい思いをして汗かきまくったのは一体なんだったんだ……。

「むしろ過剰に汗をかくのは脱水とか熱中症のリスクがあるので危険です。ちゃんと水分補給しました?」

私はアツオから伝えられた事実を受け止めきれなくて、ガクッとしゃがみ込んでしまった。

「あー!! やっぱり水分補給してないんですね!?」

狼狽するアツオにモッちゃんが

「いやいやいや、違う違う違う。たぶん汗がカロリーと関係ないって衝撃の事実に力抜けただけ」

ショックすぎる……。仕事も忙しい中、あんなに頑張ったのに……。
なにこの仕打ち。神も仏もありゃせんのかい。

ひとまず私たちは休憩がてら、前にも行った喫茶店に向かうことにした。
そして喫茶店で、話の流れからアツオに最近のダイエット事情の話をすると、
「なるほど。カロリー管理もP・F・C管理もしっかりしているのに、また停滞。うん、じゃあ次のカードを切りましょうか!」

カード??

「ええ。大富豪ダイエット です!」

大富豪ダイエットって、まさかここにきて物凄い金を払わされるとかそう言う……

ハッ!! そうか、今、私の中で点と点が線につながった!
伏線が、全て回収された!

だからアツオは私の周りを嗅ぎ回っていたのだ!
私の家まで来ていたのも、全ては私がどれくらいの資産を持っているかを調べに──

「大富豪ってトランプの大富豪??」
「そうです!」

モッちゃんとアツオの冷静なやりとりを聞いて、私の中の伏線回収が全て間違いだと言うことに気が付く。

「ダイエットって、大富豪と同じなんです」

ダイエットに停滞はつきもの。どれだけ上手くやっても、5キロ以上のダイエットを敢行した場合、停滞のタイミングは数回来てしまうもの。

早く痩せたいからと、とにかく強いカードを切りまくってしまうと、
体重が落ちなくなった時に切るカードがなくなってしまう。

だから止まったら、まずは弱めのカードから切っていくのがセオリー。
ダイエットは大富豪と同じ。終盤で強いカードが残っているほど有利に進められる。

「例えば炭水化物を、血糖値を上げにくい、GI値の低いものに変更してみる とか」

血糖値……。
そういえばダイエット始めたての頃、血糖値低けりゃ痩せるって聞いて、
試して太ったことあったな……(第1話参照)。

「それカロリーオーバーしてたからです!
基本のカロリー管理とP・F・C管理ができている今なら効果がある可能性があります!」

可能性って、確実じゃないんかい。

「こればっかりは、人によります。GI値下げるのがすごく効果的な人もいるし、あまり効果が体感できない人もいる。
例えば、食事の前に高カカオチョコレートを5gくらい食べるとかも、血糖値を調整するって言いますけど、僕はあんまり効果を感じられなかったです。相性があると僕は思っています」

なるほど、相性か。
アツオ曰く、色々試してみたらいいとのこと。
身体は人それぞれ違う。だから必要なのは、

自分用のダイエット知識! 

自分は「こうすれば無理せずに痩せる」という知識を知っていることが大事。

「知ってるでしょ? ダイエットに一番必要なのは知識だってことを」

確かに。もうそれは痛いほど知っている。

「ダイエットには色んなカードがあります。
けど、今あなたが切るべきカードは間違いなくコレ! ってカードがあります」

おお! なんとそんなものが!

「それは、休むこと です!」

休むこともダイエットカードの重要な一枚。
痩せるのには3つの要素しかない。

“どう動くか”“どう食べるか” そして “どう休むか”

でも……休んで本当に痩せる……?
休んだら太る気しかしないんだけど。

「ダイエットって、休んじゃいけないって印象があるかもしれませんが、
それは大間違いです!! 休まないと痩せません

身体が疲労していると、省エネモードに入りやすい。
今の私なら、食事はアンダーのままで、身体を休息させるといいとアツオはいう。

「いつも以上にしっかり寝てください。
これは相性とか関係なく、一つ断言できることがあります。間違いなく……
寝る子は痩せます!

そうアツオに断言され、私は帰ってもう速攻で寝ることにした。
最近激務の影響で体が疲れていることは間違いない。寝れるなら寝たい。寝て痩せるならなおのこと寝たい。

が、寝て痩せるとかやっぱりあんまり信じられない……。
正直痩せる期待は全くしていない。が、アツオが言うなら今までの実績を踏まえて信じてみよう。てかもうマジで寝たいし。

と、寝まくったところ……
翌日──

10キロ痩せるまで、あと1.9キロ──

キターーー!! 最小値更新!!
一気にガクンと落ちたーー!!

今までにも何度かこうしてガクンと落ちるタイミングはあったし、
こういう時はほとんどが水分で、脂肪が落ちたわけじゃないということは理解もしてる。
でも、それでもガクンと数字が落ちるのは嬉しい!!

めっちゃ寝れたし、体重も落ちたし、
アツオーー!! さすがーー!! あんた神だよ、仏だよーー!!

そして、そんなハッピーな中、もう一つ全く期待していなかったハッピーが舞い込んできた。

例の総務からだ。総務からお返事のメールが来たのだ。

メールの内容を簡単にいうと、「大変な思いさせてごめんね! 今、人雇う準備してるところっす! 負担が軽くなるようにすっから、人雇えるまでもうちょっとだけ待って。ほんとごめんね!」とのこと。

全く期待してなかったのに、ダイエットもいい方向に進んで、職場もいい方向に進んで、
まさに願ったり叶ったり!

神さま、仏さま、アツオさま!

もう、なんだか全てがアツオのおかげに思えた。
今すぐアツオに感謝を伝えたい!

けど──……

やっぱり頭に浮かぶのはあの時の光景……。

いや! でも!
これは、さすがにお礼を言うべきだ。全てアツオのおかげなんだから。(総務の件はアツオ全然関係ないけど)

色々モヤモヤすることはある。けど、
アツオのおかげで、着実に目標に近づいている。

モヤモヤしてるからってお礼も言わないのは、私の中ではなしだ。
社会人として、私が望んで何かをしてもらったのにお礼も言えない人間ではいたくない。
失礼な人には、悪いことが起こるんだよって昔おばあちゃんが言ってた。
総務にお礼のメールするの忘れてたのを今思い出したけど。

……よし、ここは電話にしよう。アツオにお礼の電話をしよう。

なんなら流れで、「あの時私のこと見てたっしょー? あれなんだったのー??」なんて軽いノリで聞いてみたらいいんだ。
私はアツオがどうしても変なヤツには思えない。
モヤモヤを放置するくらいなら、いっそ聞いてみるべきだ!
と、私はラインで「ちょっと今電話していいっすか?」とアツオに送り、OKの返事が返ってきたので電話をかけてみた。

電話でアツオに、休むのがばっちりハマって最小値を更新できたことを伝えると、アツオは我が事のように喜んでくれた。
そして、次なるダイエットカードの指南までしてくれたのだ。

……やっぱりこんな良いヤツ、変な人なわけがない。

「どうしました?」

私が少し黙っていたのを不思議がってアツオが聞いてきた。

「あの、ですね……?」

き、緊張する!!

「あなたストーカーですか?」

なんて聞けるわけもない!
かと言って、さっき想像したみたいな軽いノリはやっぱり私には無理だ!
無理なら最初から想像するなよ! いや自分で自分にツッコミ入れてる場合じゃないぞ!

えっと、な、なんて言えば……

そうだ!

「あのですね、私たちって、ちょっと前にモッちゃんに紹介してもらった喫茶店で、
初めて、会ったんだよね……?」

すると……
アツオは少し黙り込む。

いやいやいや、やめてやめてやめて、黙り込まないでよーー!!

「会ったの、初めてじゃないっすね。実は……前にも会ってます」

すると、アツオが意を決したように

「実は……実は俺!!」

「ごめん! やっぱり大丈夫!!」

「え……?」

「いやいや、ね? いつ会ったとかね、関係ないよねー。今の関係が大事じゃないすか!
ダイエットの師匠と弟子! ね! 私たちの関係はそれでOK!」

「……はい。それで良ければ」

あぶなーー!!!
今危うく告白されるところだった!?

いやいや、アツオがいやだとかそういうのではないんですよ。
ただ今は、恋愛とかなんかそういう気分では一切、全く、これっぽっちもないんですよ。
別に何があったとかそういうわけじゃない。
別に誰かに振られたわけでもないし、何かに絶望したというわけでもない。

ただただ単純に、今は一人が楽なんで!

だからほんとアツオが良いとか悪いとかそんなんじゃなく、
ただ単純に、恋愛とか今は大丈夫っす!! って話なんす!!

いや、なんで私はこんな動揺しとるんだ!!

と、その時──
社用のスマホが鳴った。

「アツオ、ごめん! 仕事の電話きちゃった。また連絡します」
「あ、はい。なんかあったらいつでも」

ちょうどよかった。
でも……なんだろう。なんか申し訳ないというか、あんなに良くしてもらったのに、
こんな切り方、失礼だっただろうか……。

あ、会社の電話出なきゃ。
と、私は社用の電話に出た。

……うん。やっぱり失礼な人には、悪いことが起こるんだね。おばあちゃん。

会社からの電話の内容を簡単に言うと、
「忙しいところ悪いけど、新人雇用することになったから雇用面接をお願い」
とのこと。

つまり、

総務「仕事し過ぎてない? 休んで」→「人少ないから仕事休めない」→総務「人増やすよ」→「やったー!」→上司「人増やすから雇用面接して」

結局仕事増えとるがな、ちくしょう。

10キロ痩せるまで、あと1.9キロ──

(第24話につづく……2024年7月8日公開予定)

作者/【体脂肪率3%の脚本家】の保木本真也
『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)『事件』(WOWOW)など
ベストボディジャパン2023松山大会 モデルジャパン部門ミドルクラス グランプリ

イラスト/藍沢みお、津和野諒


Written by 保木本真也

「日本一の脚本家」にはどうひっくり返ってもなれなそうなので、「日本一イイカラダをした脚本家」を目指す、日本で最も間違えた方向をひた走る脚本家。
コンテスト出場時は体脂肪率を3%にまで下げ、仕事のクオリティを下げたり下げなかったりするので、今、「日本一間違えた脚本家」であることは言うまでもない。
※体脂肪率は体成分分析装置InBodyによる測定。
X(旧Twitter) @HOKKII

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