【前編】宝塚歌劇団 演出家  上田久美子さんインタビュー

【前編】宝塚歌劇団 演出家 上田久美子さんインタビュー


会社という社会で働く
“普通の人”こそが
物語の主人公に思えた

大学を卒業したら会社に入って働くのが当たり前だと思っていた、という上田さん。その“当たり前”をまっとうすべく“お給料がもらえるならばどこでもいい”そんな思いで入った会社だったが、これが彼女の人生を大きく変えるきっかけに。

「会社には2年間勤めたのですが、そこでの社会経験はおおいに役に立っていて。あの時間がなかったら今の私はない、そう言っても過言ではないくらい」と言葉を続ける。

「学んだことも同じならば興味の対象も同じ、大学までは似たような人達に囲まれて生きていたけれど。会社には、年齢も、好きな物も、育ってきた過程も……自分とは異なる人達が沢山いる。
それが凄く勉強になったというか。社会とはどういうものなのか、世間の人々はどういう気持ちで日々暮らしているのか、その2年間が私に教えてくれたんです」

なかでも、上田さんの中に強く残ったのが「生きるのは大変なんだ」という学び。

「相手が年下であっても上司ならば頭を下げなければいけない、理不尽なこともあれば、どんなにやりがいを感じていても異動で他部署に飛ばされることだってある……でも、家族や生活のために会社を辞めるわけにはいかない。
そうやって、何年も仕事を続けている人が沢山いる。これが“生きる”ということなんだ、と。好きなことを仕事にしている人はごくわずか、大多数がそうやって生きていることを改めて実感したんですよね」

今まで知らなかった“人々が抱える思い”にも沢山触れることができた。

「ОLって色々大変なんですよ(笑)。
独身貴族として華やかに生活しているように見える人も、結婚して幸せそうに見える人も、おのおの心に何かを抱えている。深く知ると、それぞれがいろんな意味でスキャンダラスだったりして。それこそ、皆が小説の主人公のように思えるくらい」

会社生活では、日本企業特有の考え方や風習にカルチャーショックを受けることも多かったが「渦中にある現実というよりも、どこか外側から見ている自分がいて。まるで舞台を観るように、自分の葛藤も含めてそれを面白がっていた」と笑う上田さん。

なんとも演出家らしい発言!! だがしかし、次第にこんな思いも抱くようになっていったそう。

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東京砂漠で遭難してしまう!!
“夢を追い求めて”というより
“逃避”に近い転職でした

「東京で一人サラリーマンとして働く、この状況がどこか“根なし草”のように思えて。
“このままでいいのか?”という不安は常に感じていました。
毎日デスクに向かい同じ作業を繰り返す、それが私の仕事であり、皆も当たり前にやっていることなんですけど……次第に“自分の存在のよりどころはどこなのか”を考えるようになってしまったんですよね」

仕事とはお金を得るためのものだと割り切ることもできなければ、仕事以外に打ち込めるものもない。
時間を売り渡して得たお金をストレス解消のようなものに使い、またストレスを溜めてお金を使う……そんな毎日の中で膨らんでいく「私は何者なんだろう」「誰なんだろう」という感覚。

「この東京砂漠にこれ以上いたら遭難してしまう!! そんな思いが蓄積したときなんです。
宝塚歌劇団の演出助手の求人を知り願書を出したのは。正直に言ってしまうと“夢を追い求めて”というより“転職がしたい”、後者の思いのほうが当時は強かったんですよ(笑)」

 

後編は4月22日(金)更新予定です。お楽しみに!

 

【PROFILE】
上田久美子(うえだ・くみこ)
宝塚歌劇団 演出家
2006年宝塚歌劇団入団。2013年『月雲の皇子 ―衣通姫伝説より―』、2014年『翼ある人びと ―ブラームスとクララ・シューマン―』で高い評価を得る。2015年『星逢一夜』で宝塚大劇場デビュー。同作品で読売演劇大賞、優秀演出家賞を受賞。

宝塚歌劇 オフィシャルサイト
https://kageki.hankyu.co.jp/

上田久美子さん次回作品

宝塚歌劇 花組公演
宝塚舞踊詩
『雪華抄(せっかしょう)』
作・演出/原田 諒
 
トラジェディ・アラベスク
『金色(こんじき)の砂漠』
作・演出/上田 久美子
 
・宝塚大劇場  2016年11月11日(金)~ 12月13日(火)
・東京宝塚劇場 2017年1月~2月(予定)
 
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