【ペルー日記】クスコで巻き寿司作りに挑戦

【ペルー日記】クスコで巻き寿司作りに挑戦



人生初の中南米一人旅の真っ最中に、新型コロナウイルスが蔓延。
国境は封鎖され、飛行機はキャンセルになり、異国の地でのロックダウン生活。
街中がパニック、一人心細く、早く帰国したいと願う毎日……になるかと思いきや、
彼女は「いっそのこと、ここに住もう!」と決め、ペルーで生活を始めた。

ペルーで暮らして、早4年。
現地からお届けする、予想外で刺激的な日々。


 

以前この連載でも書いたことのある、移民局で出会った弁護士・ネリー。
ペルーでの滞在許可を延長するために移民局に行ったときに知り合い、それから家族ぐるみで仲良くなった70歳の女性弁護士だ。

最近、2度目の滞在許可の更新があったのだが、彼女のアドバイスがなかったら滞在許可が下りていなかっただろうというほど、力になってもらった。彼女のおかげで、今も私はペルーにいることができているので、感謝してもしきれない存在だ。
いつかお礼に寿司をご馳走したいと思っていたので、今回ペルーで初めて巻き寿司を作ることにした。

標高3400mに位置するクスコではお湯が80℃で沸騰するので、白飯もパスタもうまく仕上がらない(一般家庭は圧力釜を使う)。巻き簾もないので巻き寿司は特に敬遠していたのだが、焼き海苔と米酢はクスコにも売っている。さらにタイミングよく「サトウのごはん」をいただいたので、なんとかなりそうだ。
ネリーに生食は食べられるかと確認すると、食べたことがないけど食べてみたいとのことで、思い切って挑戦することに!

メニューは、クスコで手に入れた具材で作る巻き寿司・クスコロールと、味噌汁風のスープ。
インターネットで巻き寿司の作り方を調べていると、「粉ワサビと大根おろしを混ぜると、本ワサビ風になる」というライフハックを見つけた。

また、クスコで唯一手に入る鮮魚といえば、鱒。鱒の卵も1kg200円で購入し、醤油漬けにしてイクラ風にアレンジ。ペルー人は魚卵を食べないので、日本では考えられないほどの安さで手に入るのだ。
アニサキス対策で、生の鱒は1度冷凍。エビは爪楊枝を刺してまっすぐに茹で、だし巻き卵を作り、干し椎茸を煮た。その他、冷凍マグロにアボカド、きゅうりも入れることに。

次はサトウのごはんだ。日本にいる時の感覚で、電子レンジで温める要領で蓋を点線まで開けてから気が付いた。そうだ、ここはペルー。電子レンジはない。鍋で温める場合は、蓋を開けてはならないのだった……。
中に水が入らないように茹でれば、何とかなるだろうかと試してみるも、米は発泡スチロールのようなブロック状のままで、崩して試食すると、もはや食べ物ではないような食感と味がする。

失敗した……。白米は買えないし時間もないし、詰んだ。適当な惣菜でも買って行こうかと思ったけど、楽しみにしてくれる気持ちを台無しにしたくないと、リカバリーすることに。フライパンに水を入れて蒸すと、ようやく思った通りのご飯になった。慌てていたので、間違えてリンゴ酢を入れてしまうといったハプニングもあったが、なんとか酢飯ができた。

最後の難関は、巻く作業。
巻き簾の代用で厚紙を使えばいいという情報を仕入れ、祈りを込めてトライしてみると、案外上手に巻くことができた。
味見をすると、ちゃんとおいしくできている。だけど、少しの不安がよぎる。果たして、普段生食を食べないペルー人にも、おいしいと思ってもらえるのだろうか。

私は生食が大好きなので、ペルーで刺身や生卵、生肉を何度も食べてきたけど、他人が食べることを想像すると、口に合わなかったらどうしようという後悔が押し寄せてきた。だが、もう後にはひけない。

ネリーが経営するホテルがあるPisac(ピサック)という村に着いた。水で濡らした包丁で巻き寿司を切って並べると、「まあ素敵、準備に時間が掛かったでしょう。おいしい、素晴らしい」と言ってペロリと食べてくれた。不気味だったに違いない鱒のイクラ風も、キャビアのようだと理解してくれた。


△ピサックにあるネリーと旦那さんのホテルは「Wayqi Wasi」で検索。安心の高評価で、広い庭もあり、長期滞在にもおすすめの宿。

文化の壁を超えるのは勇気がいるし、面倒なことを飛び越えられるくらいの愛情も必要だけど、挑戦することで成長できたと思う。
人にご飯を出すというのは、いつだって緊張する。いただくときには、感謝を忘れないでいたい。


△クスコでは走っていないトゥクトゥクは、ピサックの庶民の足。



△ピサック遺跡の麓にあるピサック村。石畳とミニ水路がかわいらしい。

 

今月のスペイン語


△聖なる谷を越えて乗合タクシーで40分。200円でクスコに戻ると、素敵な夜景が出迎えてくれる。

*次回は10月4日(金)更新予定です。

イラスト・写真/ミユキ


Written by ミユキ
ミユキ

旅するグラフィックデザイナー、イラストレーター
広島出身、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒、在学中よりフリーランスとして広告、ロゴ、エディトリアルデザインなどを手掛ける。
ロンドンに2年間の語学留学、オランダ・セントヨースト・マスターグラフィック卒業後、個人事業主ビザを取得しアムステルダムに12年居住。
ヨーロッパ全域を含む訪れた国は50カ国以上、旅先では美術と食を軸に、ダイビングや運転もする。
主な作品:ギリシャ・クレタ島の大壁画、ハイネケン Open Your World、モンスターズインク・コラボイラスト、豊島復興デザイン等、15年前からのリモートワークで、世界のあらゆる場所で制作。
HP:http://miyuki-okada.com
X(旧Twitter):@curucuruinc
Instagram:@curucuruinc

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