「プレバト!!」俳句コーナーでお馴染みの夏井いつき先生新刊『寝る前に読む 一句、二句。』発売記念インタビュー


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10月27日発売になる新刊を記念し、
本編未収録の俳句対談を特別掲載!
夏井いつきさんの対談相手は、
実の妹であり、「いつき組」(※1)の組員でもある
ローゼン千津さん(※2)。
俳人姉妹の歯に衣着せぬトークは必見です!

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釣堀の四隅の水の疲れたる
波多野爽波

■作者紹介
高浜虚子に師事し、最年少で「ホトトギス」同人となる。当時野見山朱鳥、上野泰と共に若手三羽烏と呼ばれた。俳誌「青」を創刊・主宰。本名敬栄(よしひで)。

世界は愉快に満ちている。
退屈している暇はない。

ローゼン:釣堀も、涼しさを演出する夏の季語の一つ。この句はあまり涼しげには見えないけど(笑)。お姉さんは釣堀に行ったことある?

夏井:ないない。子供の頃は毎日父と鯛釣りに行ってたけど。

ローゼン:わたしは毎日鯛の刺身ばっかで嫌だった(笑)。釣れなくて退屈な時間も嫌じゃない?

夏井:父が勤めていた郵便局が退けてからの夕方の釣りだから、釣れなかったらすぐ場所を変えてた。釣り糸を上げて、父が艫に座ったまま、伝馬船の櫂をくいくいっと漕いで場所変えて、また糸を下ろして待つ、その度にわくわくして。

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ローゼン:私は船酔いがあるし行った事がなかったなぁ。夫のニック(※3)の音楽仲間とアラスカでキングサーモン釣りに思いきって行ったけど、いざ釣ろう! と言う時にやっぱ船酔いして岸まで引き返して貰った……。あれは面目なかった。

夏井:行かなきゃいいのに。

ローゼン:これは町中の小さな釣り堀の句。『BECK』(※4)というロックバンドの青春映画に釣堀でバイトしているロック青年が出て来る、あの釣堀が浮かぶなぁ。

夏井 :「四隅の水の疲れたる」っていかにも釣堀。四角くて温んで淀んだ釣堀の緑色の水や、釣れなくてぼうっとしてるおじさんの丸い背中が見えて来る。 釣れない、つまんないって時に、ぼうっとするのもいいけど、釣堀の周囲や他人を観察するのも楽しい。愛を持ってじっくりと観察するからこその、この「四隅」ですよ。俳句は文学じゃなくて、面白いネタ探しなんだってスタンスでやると、もっとやる気が出る!

ローゼン:ユーミンも歌詞のネタ探して深夜のドーナツショップに出没してたって聞いたことある。

夏井:それで思い出したけど、いつき組組員から、「奈良のスタバで、隣で本読んでるおじさんが気になって覗いたら、組長の本でした!」という報告があった。短歌は、三日したら忘れることを詠むんだと聞いたけど、俳句は三分後に忘れそうなことを詠むんだよって言いたい。瞬間を切り取って、面白がる。忘れない内にさっと掬って句にする。鮮度が勝負。

ローゼン:金魚掬いみたい(笑)。

夏井:世界は愉快に満ちているんだよ。退屈している暇はない。

ローゼン:退屈してる自分も句にして面白がる。

夏井:そうそう。俳句には、それがどうしたサノヨイヨイ、みたいな句が一杯ある。サノヨイヨイ、とさばさば詠って笑って忘れる。その潔さ、ですよ。

ローゼン:サノヨイヨイ、と言えば、こんな句もある。

冷酒の氷ぐらりとまはりけり
飴山實

■作者紹介
俳人であり、化学者。化学者としては酢酸菌の研究を専門とし、大阪府立大学助手、静岡大学助教授を経て、1969年、山口大学農学部教授に就任。

物を発見するとしないでは、
人生の密度が違う。幸福の総量が違う。

ローゼン:私はこの句を見て殺気を感じる。わけありな酒、ギラギラした酒。カイジ(※5)みたいなギャンブラーが大勝か大負して、冷酒のグラスを掴んでるって感じ。

夏井:えええ? もうあたしは冷酒に氷入れるってとこで思考がストップしてしまった。なんで? そのまんま飲んだ方が旨い。

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(側を通りかかった夏井夫)兼光さん:最近やったら、氷入れるけどな。元々はね、酒って酒税法の関係で、原酒はアルコール度数が高いのにわざわざ下げてるんよ。本来17%とかあるものを、要するにこっからここまでが本醸造とか、昔は一級、二級言ってたけどな、14.5%とかに下げてるんやて。原酒が濃いから、そんな飲み方した可能性はあるな。今でもロック用の酒は度数高いよ。

夏井:ロック用の酒って話かこれは。グラスを口元に運ぼうと持ち上げたら、大きな氷がぐらりと回った、ただそれだけ。寧ろ、旨そう……とあたしは思った。

ローゼン:酒好きの至福の瞬間にドラマはいらない。

夏井:それがどうしたサノヨイヨイ、やけどね。パスタが茹であがるのを待っている時、キッチンからニンニクの匂いが漂ってくる、ああ生きててよかった的な幸福の瞬間ってあるやない?

ローゼン:きゅんきゅんに冷えた白ワインで舌を洗って待ちたい。

夏井:同じ水でも、疲れた釣堀の水から、こんな旨そうな氷になった水もある。そういう物を発見するとしないでは人生の密度が違う。幸福の総量が違う。

ローゼン:世界は愉快と旨さに満ちている。

夏井:退屈してる暇などない。

ローゼン:ごっつお腹空いて来た(笑)。ランチまだですか?

 

※1 夏井いつき主催の俳句集団。俳句が好きで、その考え方に賛同し参加すれば、誰でも立派な組員になれる。その考え方は、「楽しくなければ俳句じゃないぜ!」。

※2 黒田杏子先生の藍生俳句会に入門し、俳句を始める。アメリカ人の夫・ニックと山中湖村に在住し、演奏旅行の付人として世界を飛び回っている。

※3 ローゼン千津の夫。本名は、ナサニエル・ローゼン。ロサンゼルス生まれ。クラシック界の第一線で活躍するチェリスト。

※4 2010年公開、ハロルド作石の漫画『BECK』を原作とした青春映画。監督は堤幸彦。

※5     福本伸行の漫画『賭博黙示録カイジ』の主人公。『週刊ヤングマガジン』(講談社)で1996年から連載され、映画では藤原竜也 が演じた。

 

○釣堀の四隅の水の疲れたる 『骰子 句集』角川書店より引用
○冷酒の氷ぐらりとまはりけり『辛酉小雪』卯辰山文庫より引用

 

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『寝る前に読む 一句、二句。~クスリと笑える、17音の物語~』
(夏井いつき×ローゼン千津:著)