予約の取れない暮らしのアドバイザー はらむらようこさんに聞く、「好き」の見つけ方
部屋も、家事も、服も、人づき合いも、全部「好き」なものだけになったら…。
それって、実は少しの工夫とアイデアで、実現できるんです! 4月に初著書が発売されたアップデーター・整理収納アドバイザーのはらむらようこさんに、今日から始められるメソッドを教えていただきました。
はらむらさんは“アップデーター”ということなのですが、初めて聞く肩書きでした。どのようなお仕事なのでしょうか?
私がアドバイスするのは、片づけから洋服や部屋のスタイリングまで。美容室、お買物同行もします。これを一般的にいうと、“整理収納アドバイザー”“パーソナルスタイリスト”になるのですが、単なる片づけに終わらせず、お客さんの心までをすっきりとクリアにさせることが狙いなんです。
アップデーターは、「お客さんをアップデートさせる」という意味ですが、アップデートとは、お客さん自身が、今、幸せだと気づく状態になること。今の自分を認めてこれから生き続けていけること。
物だけでなく時間や思考の片づけもできて、毎日が自分らしく、幸せで溢れたものになるよう、ガイドとなって、一緒にゴールを目ざして歩いていくのが私の仕事です。
片づけしなくてはいけないことが多すぎて…まず、何から始めたらいいでしょうか?
最初に大切なのが、ご本人の「好き」を徹底的にリサーチし、自身で認識することなんです。「好き」なものに囲まれたら、毎日が楽しくて穏やかな気持ちになりますよ。
「好き」を知る方法を教えてください。
では、「好き」を集めた「ビジョンマップ」のつくり方をお教えします。私のところに来てくださったお客さんと最初にやることも、この「ビジョンマップ」の作成です。
ビジョンマップのつくり方
①お気に入りの本を選び、気になったページに付箋を貼り、カットする
まず大事なのは、本をじっくり選ぶこと。たくさんの種類の本が並ぶ大型書店に足を運ぶのは必須条件。コレという1冊を選ぶのに、3時間はかけるつもりでじっくりと探してみてください。その見つけ出した1冊を“いいな”と感じること。それはすでに自分の「好き」を見つける第一歩になっています。
本が見つかったら、次は気になったページを付箋でチェック。ひと目見て、瞬時に「好き」と感じたページも、少し迷うけどいいかもと思ったページもOK。何枚になってもいいので、付箋をつけたページや写真をすべてカットしてください。
②おしゃれな雰囲気のものを手で隠して、本当に「好き」か確認
雑誌のこのページ、おしゃれで素敵かも…と感じるポイントは、インテリア雑誌なら飾られた花やグリーン、ファッション雑誌なら、モデルの笑顔だったりします。
本当にそのインテリアが好みなのか、その洋服がいいのか――。全体の雰囲気に惑わされていないかとふるいにかけるために、花やグリーン、モデルの顔を手で隠して、本当に「好き」と感じられたものだけを残して。
③1m離れて見直し、6~7枚に絞る
2で残ったものを床に並べたら、1m離れてチェック。本を見て気になるページを探しているときは、数十㎝しか離れていません。でも、実際にまわりの人がその人の部屋やファッションがおしゃれと思うかどうかは、5m、10m離れて見たときに決まってしまいます。「センスは客観性」なんです。離れて客観的に見ることで、「好き」だなと目に留まるものを残してください。また、離れて俯瞰することで、たとえば「全部が木の床」などという共通事項を見つけ、本質的に自分が「好き」なものを知ることもできます。
最終的には、6〜7枚に絞り込んでください。
④1枚のシートにまとめ、分析する
3で選んだものを1枚ずつ写真に撮り、画像編集アプリなどで、1枚のシートにまとめてください。このシートが完成したら、なにより大事なのが、しっかりと分析をすること。
たとえば、上のシートからわかることは、「白っぽい空間にアンティークの茶色い家具が共通事項」、「茶色が全体の3割程度」、「雑貨や花を飾るのが好き」、「物が少ない」など。これを念頭に置いて、片づけを進めていきます。
「ビジョンマップ」は、あくまでイメージとして捉えるものなので、載っているのと同じ家具や雑貨を買い足すわけではないのに、片づけやスタイリングが終わると、大概、「好き」が詰まったこの「ビジョンマップ」のような部屋になるから不思議です。
“買い足さなくても”理想の部屋になるのはうれしいですね!
片づけをするとなると、つい収納グッズや新しい家具を買い足しがちですが、ほとんどの場合に必要なのは、本当に好きな物だけにし、そうでもない物を手放すことなのです。
私が唯一買うことをオススメするのは、鏡とハンガーです。この2点はおざなりになりがちですが、実は一生ものと呼べるアイテム。「おしゃれは客観性」であるとお伝えしたように、おしゃれになるのにまず必要なのが、全身が写る大きな鏡。そして、ハンガーは、いろんな種類を持たずに、あえて1種類に。すると、この服にはどのハンガーがちょうどいいかなと迷わずに済むし、見た目もすっきり。
ハンガーを選ぶときのポイントは、「10年後も同じものを買い足せる商品であること」と「女性の肩にフィットする肩幅36㎝サイズであること」。私は“mawa”というブランドのハンガーを愛用していますが、この条件をクリアすれば、どこのものでもかまいません。
素敵な暮らしを実現されているはらむらさんですが、昔から片づけが得意だったのでしょうか?
インテリア自体はもともと好きでした。でも掃除や片付けは大の苦手だったんです…。私が今の仕事に出合うまで暮らしていた部屋は、パッと見は、よく言えば、画家のアトリエのようなインテリア。おしゃれな本や CD を床にずらりと並べていたり、雑然としながら雰囲気よく見せるようにしていました。リノベーションをして床や壁を変えていたので、家に遊びにきてくれた人は、おしゃれな部屋だと言ってくれていました。
でも実際は、あの本が見たいなと思ったら、他の本をよけて引っ張り出さないといけない。人を呼ぶときには、奥の部屋にいらないものを押し込んでその場しのぎ(笑)。
さらに、よく見るとホコリだらけでした。マリモのように部屋の角に転がるホコリを、「マリコ」とペットのように呼んでいたくらい(笑)。
当時はそんな家で過ごすのが苦痛で…。かと言って、週末を潰してまで掃除や片づけをするのも嫌。だから、ショッピングに行ったり、予約の取れないレストランへ行ったり、とにかく外に出かけていました。夜になり、ぐったりと遊び疲れて帰ってきて、部屋に横になったら、目線の先には「マリコ」…。悪循環な毎日を過ごしていたんです。
私自身も、「好き」から始める片づけに助けられました。
初の書籍『「好き」から始める暮らしの片づけ』が4月12日に発売になりました。反響はいかがでしたか?
私は、紹介制のみで企業や個人からの依頼を受けています。公に広くお客さんを募っていないのですが、お客さんたちはずっと「もっと世に出る人だと思っているよ」とありがたい言葉をくださっていました。だから、この本が出版されたことで、お客さんたちが自分のことのように喜んでくださいました。
私がお手伝いをさせていただいている方々は、リピートしてくださる方が多く数か月、数年単位のおつきあいになります。実際にお会いするのは、2週間おき、1か月おきでも、その間にもたくさんのメールをやりとりするので、とても親密な関係になるんです。まさに、押入れの中から心の中まで見せてくださる関係に。だから、そんなお客さんたちの反応が、心からうれしかったですね。
この本の感想を、早速寄せてくださった方もたくさんいました。
「“◯◯するべき”というしがらみから抜けることができた」と――。
たとえば、専業主婦だから家事をしっかりとするべきだ、30歳になったらブランドもののバッグを持っているべきだ、適齢期になったら結婚すべきだ、というような、平成の時代になっても昭和的な女性像にとらわれ、それができていない自分を責めていた。そんな状況から抜け出せる勇気をもらえたと教えてくださいました。
片づけの本なのに、読み終わると、片付けではないまったく別の出口につながる――。私の思いをしっかりと受け止めてくださったのだなぁとありがたく思いました。
最後に、この本に込めた思いや読者の方へのメッセージがありましたら、教えてください。
アップデーターとして毎日現場を周り、たくさんのお客さんのお手伝いをさせていただく中で、私自身がパワーをもらうとともに、人生が劇変する方を目の当たりにしてきました。その度に、つくづく、片づけは人生に役立ついいものだなぁと感じています。その素晴らしさをたくさんの方に知ってもらえたら、こんなにうれしいことはありません。
同時に、片づけブームゆえの怖さも感じています。たとえ、SNSで統一された真っ白な調味料入れやテプラで美しくラベリングされたファイルボックスが整然と並んでいる写真を見たとしても、私もそうしなければいい女じゃないんだ、と思わないでください。
SNSで見えているその世界は、どこか一か所だけにフォーカスしただけのものかもしれません。その人は片づけが好きで自由な時間がたくさんあるだけかもしれません。いろんな情報が溢れる現代ですが、「するべき」「ねばならない」というガチガチの固定観念にとらわれすぎて、自分が本当に「好き」なものをぜひ見失わないでください。
片づけを通してインテリアやワードローブという環境を整えることで、自分を見つめ直し、自分が幸せであると気づいてもらいたいです。すると、人生ってスルスルと飛躍的に好転していくんですよ。
PROFILE
はらむらようこ
アップデーター/整理収納アドバイザー
大学でファッションデザイン、テキスタイルデザインを専攻し、メーカーに勤務。企画職として、バスマットなどの家庭用品を多数、世に送り出す。出産を機に退職し、2012年に生活デザイン研究室を開業。個人宅やオフィスの整理収納サービス、クロゼットオーガナイズ、ファッションスタイリング、インテリアコーディネート、リフォームプラン、買い物や美容院同行など、暮らし全般の片づけサービスを展開。自分の本当の「好き」を知り、人が主役の人生を送ることで、ものに振り回されない暮らしを提案している。夫、小2の娘と3人暮らし。
文/高橋香奈子