【前編】1年間の“期間限定別居”を選んだ
イラストレーターちゃずが語る
加計呂麻島一人暮らしのリアル


みなさん、いきいきとした生活を送っていますか? 編集部Oです。人であふれ、眠らない街がそこかしこにある東京で毎日働いていると、なんだか疲れてしまいますよね。数年前に流行った「消耗」ではないですけど、緑が少ない都会の暮らしを送っていると、たまに考え込んでしまい、田舎暮らしっていいいよな~、なんて思いが頭をよぎることがあります。

でも、田舎はコニュニティーが狭いとよく聞くし、都会の利便性を放棄はしたくないし、現実的には……なんてウジウジ悩んでは、結局は今までの生活を変えられず、悶々とした日々を送ってはいませんか?

そこで、2018年3月から思い切って鹿児島県奄美群島の加計呂麻島に移住したイラストレーターのちゃずさんに、移住のリアルを聞きました。実はちゃずさん、結婚4年目なのですが、夫を東京に残して「1年間限定」で加計呂麻島に移住する、という大きな決断を下しているんです。別居のリアルにも踏み込んでみました!

きっかけはとにかく美しい海と大自然

奄美群島の離島である加計呂麻島は人口約1200人、東京からは約1300キロ離れています。空港からバスで山を越え南下。さらに奄美本島からフェリーで海を渡り、島に着く頃には10時間近くかかります。まさに1日仕事。しかし、そこには、心と体をほぐしてくれる、大自然が待っています。

――まずは、移住のきっかけを教えてください。

「数年前に、東京から移住した友人を訪ねて遊びに来たのがきっかけです。夏に来たのですが、抜けるような青空、透き通るような青い海の美しさのとりこになってしまいました。海に潜って拾った貝を煮て食べたんですが、あのおいしさは忘れられません」

――本当にきれいですもんね。移住の先輩の存在も大きいと。

「はい。彼女がいなければ、そもそも加計呂麻島に来ることはなかったかも。2人の子供を抱えてバリバリ働くシングルマザーでしたが、移住してからは離島になじみつつ、ゆったりとした時間の中で子育てをしているのが印象的でした」

――やはり、東京での生活に“疲れ”を感じていたのでしょうか?

「そうですね。イラストレーターとして生活はできていたのですが、クライアントさんに呼び出されたらいつでもすぐに駆けつけ、徹夜も続くような毎日。心から休める時間は、ほとんどありませんでした。息抜きがしたくて、訪れた加計呂麻島は、森と潮の香りがしました。海、山、川、森……東京育ちの私にはすべてが新鮮に映ったんですね」

――素晴らしい自然ですもんね。

「はい! ただですね、島の人の温かさに触れることができたっていうのも大きいのかと。実は加計呂麻島にはコンビニもスーパーもないんですよ。夫と初めて来たときはそれを知らず、運悪く宿も素泊まりにしていて……『今夜は夕飯抜きか~』とあきらめかけていたら、宿のオーナーとご近所さんが当然のように夕ご飯に誘ってくれました」

――いい思い出ですね~。あったかい。

「プリプリとしたお刺身や魚のダシが効いたみそ汁が絶品でした。夜になり、街灯の少ない道を歩いていると、虫の声が聞こえ、空には満天の星。心が不思議と安らいでいました。そのときにふと、『ここに住んでみたいなぁ』という気持ちが湧いてきたんです」

 

「こうでなきゃいけない」はない

――そこからはすんなりと?

「いえいえ。仕事の都合上、けんちゃん(あ、私の夫です)は島に住むことができそうにありません。私はフリーのイラストレーターですので、ある程度融通はきくのですが……。お金の面でクリアしなければいけないこともあります」

――うんうん、不安はありますよね。

「実際、移住するのに2年近くかかりました。〈妻は夫のそばにいて支えなきゃいけない〉〈けんちゃんのお父さんお母さんに失礼じゃないかな?〉という自分の想像の中での“こうでなきゃいけない”に縛られていた、というのが大きな理由です。もちろん、けんちゃんと離れて暮らすことに不安もありました」

――そうですよねぇ。一人暮らしでしょうし。いろいろと葛藤はあったんですね。

「結婚して4年もたつと、『子供は?』と聞かれることも増えてたんですね。もちろんいずれはと思っているのですが、周りからの圧力を感じるのは苦手で……。自然に囲まれた環境で、思い切り好きなことをしたくなったんです! 勇気を出して自分の気持ち、思いを話してみると、けんちゃんも、義理の父と母も賛成してくれたことはとってもうれしく思います。自分の母には反対されたまま移住してしまいました(笑)が、今では応援してくれています」

――実の母の反対は押し切って(笑)。

「島に移住して9か月たちました。改めて感じたのは、『ペースは人それぞれ、いろんな夫婦の形があって良いんじゃないかな』ということ。けんちゃんとは、LINEの無料通話やビデオ通話で、毎日コミュニケーションをとっています」

――毎日ってすごい。

「顔を合わせていないので(笑)。やっぱり顔を見ると安心しますよね。それと、加計呂麻島で拾ったネコを、けんちゃんが東京に連れ帰っているんです。キナコモチというんですが、彼の日常を動画で見るのも楽しみのひとつ。癒されます(笑)」

――イラストの仕事は自宅で?

「はい。移住のきっかけとなった先輩はマムさんというのですが、彼女のツテで平屋の一軒家をアトリエ兼自宅としてお借りしています」

――色使いがきれいで、優しいタッチですね。

「ありがとうございます。インスタグラムとはまたニュアンスが違いますよね。あちらは毎日描くことを目標としているので、ああいう形になりました。今は絵を描くことが本当に楽しくて、両方楽しんでいます」

終始笑顔が絶えず、リラックスした様子のちゃずさん。次回後編では、移住のリアル、島暮らしのリアル、別居のリアルをうかがいたいと思います。【後半はこちら

 

絶賛発売中!
イラストレーターちゃずの 夫とちょっと離れて島暮らし
ちゃず:著

ちゃず
フリーイラストレーター。既婚。2018年3月から単身、奄美群島・加計呂麻島での移住生活をスタートさせる。現在は書籍、雑誌でほかで活動している。2018年10月には東京・原宿で個展を開催。インスタグラムでは自身の移住体験記をほぼ毎日更新中。フォロワー8万9000人。