『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』
20代前半のころだったと思いますが、人間として非常に危うい時期が僕にはありました。
なにをやってもうまくいかず、自分を肯定する術が見つからず、だから鬱積した思いを外側にぶつけてしまうというような感じだったのです。いや、もちろん人に殴りかかるようなことをしていたわけではありません。けれど、自分以外のすべての人が敵に見えていたような状態だったわけです。
自分に自信がなさすぎたから、それを人のせい、社会のせいにしていたのでしょうね。
そんな状態から抜け出せたのは、就職した会社での仕事を通じ、社会性や常識を多少なりとも身につけることができたからかもしれません。それなりに揉まれることで、少しずつ、本当に少しずつですが、まとも(に近い状態)に近づいていったということです。
といっても、社会に出てすべてが解決できわけでは当然なく、かなり長い間、“自信のない自分”を抱え込んできたような気がします。基本的には大雑把で楽天家で、根拠のない自信も持っていたりするのですが、その反面、絶対的に自信がない部分を拭い去れないという矛盾。そんなアンバランスな状態と戦ってきたわけです。
ようやく楽になれたのは、本当にここ数年のことかもしれないなー。
そんな生き方をしてきたからこそ、“自己肯定感を持てない人”の気持ちはなんとなくわかるのです。しかも最近は、そういう人がとても多くなったような印象を受けます。
時代のせいなのか、それとも単なる偶然なのか、それはわかりません。でも現実的に、いまこれを書きながら考えてみただけでも、周囲にいる何人かの“自己肯定感を持てない人”を思い浮かべることができます。
ちなみに僕の見る限り、“自己肯定感を持てない人”にはいくつかの共通点があります。性格的に真面目であったり、仕事ができる人だったり、その人にしかできないなんらかの才能を持っている人だということ。
そう、自己否定をする必要のない人に限って、自分を肯定できないものなのです。少なくとも僕はそう感じていたし、だから『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(武田友紀 著、飛鳥新社)という本が売れていることにも納得できるのです。
些細なひとことにグサッときてしまったり、職場で機嫌が悪い人がいると気になって仕事が手につかなくなってしまったり、相手の気持ちを考えすぎるあまり自分の意見が言えなかったり……。
著者はそんな人を「繊細さん」と呼んでいるのですが、本書が広く受け入れられているということはすなわち、多くの繊細さんが存在することの証明。
「できる人」ほど、悩んじゃうということですね。
そんな現実を鑑みたうえで、著者はここで「繊細さんが元気に生きる技術」を紹介しているわけです。それは、繊細さんが生まれ持った力を活かした、繊細さんが幸せに生きていくための“技術”です。
ストレスの防ぎ方、人間関係を楽にする技術、のびのび働く技術、自分を活かす技術など、ライフスタイルや目的、望みに即した技術が紹介されているのです。
著者は本書のことを、「繊細なカウンセラーによる、繊細さんのための、実際に有効だったノウハウを詰め込んだ実用書」だと定義づけています。自身が繊細さんであることを認め、経験をもとに持論を展開しているからこそ、説得力に満ちた内容になっているのかもしれません。
だから印象的なフレーズも多く、ひとつだけを選ぶのが大変だったのですが、繊細さんにむけた究極のことばとして、今回は「おわりに」の冒頭に出てくる一文を「神フレーズ」として選びました。
繊細さんは、自分のままで生きることでどんどん元気になっていく。(「おわりに」より)
そう、結局のところ、これに尽きると思うんですよね。繊細で生きづらいのは、周囲の視線や態度が気になってしまうから。しかし、そういうことを気にしてしまうと、自分を周囲に合わせようという思いが肥大化していくため、余計に自分らしく生きられなくなってしまう。
だからこそ、自分のままで生きることが大切だという考え方。それができれば、元気になれて当然なのです。ちなみに難しいことのように思えるかもしれませんが、やってみれば意外に簡単だったりもするはずです。
なぜなら人は、自分が思っているほど他人に関心がないものだから。こちらのことなんか、たいして考えていないということです。だとしたら、自由に生きたほうが楽じゃないですか。思えば僕も、そんなことを考え、少しずつそれを形にしてきたような気がします。
そう思うからこそ、繊細さんだという自覚がある方には、ぜひ本書を手にとってみていただきたいと思います。きっと、多少なりとも気持ちが変わるはずです。
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さて、ところで突然ですが、この連載は今回でおしまいです。前回書いたとおり、連載であるにもかかわらず1年4か月も放置していたので、ワニブックスの担当者からクビを宣告されてしまった……というのはウソで、引っ越しをすることになったのです。
引越し先は、姉妹サイトの「News Crunch」。現在準備をしているところですが、これまでとは違ったアプローチをしていくつもりですので、今後ともよろしくお願いします。
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印南敦史:著