話題の韓国エッセイに続々と反響の声! 心に刺さる「人生の文章」とは?


「毎日こんなに頑張っているのに、幸せになれないのはなぜ?」「なんか、いつも寂しくて、虚しい……」「“人生”って、これでよかったんだっけ――?」。
そんな想いが頭をよぎり、意味もなく、涙があふれる夜はありませんか?

慌ただしい世の中と足並みを揃えようと「頑張った」結果、知らないうちに疲れ果て、本来の自分を見失っている人も少なくないはず。
そんなとき、あなたの心の一番の“処方箋”となるのは、その場だけの慰めの言葉や、正しいアドバイスではなく、もしかすると「ただ、そっと寄り添ってくれる」一冊の本、あるいは、たった数行の短い文章なのかもしれません。

ここでは、そんな「人生の文章」を、TWICE、WannaOne、Stray Kidsなど、人気アイドルの愛読書としても話題となり、韓国で20万部を突破するベストセラーになったエッセイ『私が望むことを私もわからないとき 見失った自分を探し出す人生の文章』の著者であるチョン・スンファン氏が紹介します。

※本記事は、チョン・スンファン著/小笠原藤子訳『私が望むことを私もわからないとき 見失った自分を探し出す人生の文章』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。


(イメージ:写真AC)

人生の、ささやかな「幸せ」とは?

今日の出退勤時や、登下校時の風景を覚えているだろうか? 雲の模様やすれ違う人の表情はどうだったか、思い出せるだろうか? おそらく、ほとんどの人が答えに窮するのではないだろうか。私たちはこのように、些細なことを気にも留めずに暮らしている。毎日懸命に前だけ向いて走っているから、見過ごしてしまうのだ。

忙しいし、今我慢すれば後で楽ができるからと言い訳して、私もまた、ささやかだが大切な幸せを逃していた時期がある。小さな幸運に感謝することも忘れたまま過ごし、日々私を大切にし、気遣ってくれる人たちを気にかける余裕すら持てなかったのだ。だが、周りの大切な人々とのささやかな幸せすら感じられないとしたら、いくら大きな目標を達成できたところで何の意味があるだろうか? 人生とは、結局ささやかな日常の積み重ねで、毎日の幸せがあってこそ、幸せなものになるのに。

幸せとは、そんなに大げさなものである必要はないと、今になってやっとわかった気がする。長期的な目標を立て、それを達成させることも大事だが、現在を疎かにしてもいけない。今日を一生懸命生きたら、その日の疲れが残らないよう、小さくても自分にとってかけがえのない幸せを見つけて充電するべきなのだ。それは本当に特別なことではない。

たった一杯のお茶、一つの菓子で、疲れた一日は癒やせたりするのだから。

 私はマドレーヌの一きれをやわらかく溶かしておいた紅茶一さじを、機械的に唇に持っていった。しかし、お菓子のかけらのまじった一口の紅茶が口の裏にふれた瞬間、私の体の中に起こっている特別なことに気づいて、びくっとした。原因のわからない快感が私をとらえ、孤立させた。その快感はたちまち私に人生の転換を無縁のものとし、人生の災難を無害と思わせ、人生の短さを錯覚だと感じさせたのだった。あたかも恋の働きと同じように、そして何か貴重な本質で私を満たしながら、というよりも、その本質は私の中にあるのではなくて、私そのものであった。私は自分をつまらないもの、偶発的なもの、死すべきものと感じることをすでにやめてい

マルセル・プルーストの『失われた時を求めて 一』の有名な文章だ。小さなマドレーヌ一かけらで人生の苦悩から解き放たれ、幸せになる過程がよく表現されている。とてつもなく膨大な長編小説だが、個々の内面を深く描写しており、心に強く響いてくる作品だ。特別な事象や時間の流れを軸に話が進められるのではなく、ひたすら主人公が自分の内の意味を探す過程に集中している。

ある人にとっては、マドレーヌ一かけらは甘く、一口、二口、口に含めば、なくなってしまう些細なものに過ぎない。しかし、ある人にとっては、その一かけらでずっと豊かな気持ちになれ、時空間を超えられるかもしれない。そんな人には、マドレーヌは平凡な菓子一つ以上の大きな意味合いがある。再度言うが、プルーストは些細と思える物一つにも、人生最大の喜びが詰まっているかもしれず、どんな困難にも打ち勝つ強い力があるという事実を、あまりにもよく理解していた。

あなたにとっての、マドレーヌ一かけらは何だろうか? この文章を読むことが、あなたを幸せに導いてくれる大切なものについて考える契機となれば嬉しい。

(イメージ:写真AC)

「美しい文章に、心温められますように」――。この索漠とした世の中に、少しでも温もりや慰めの言葉を届けようと、本紹介サイト<The Book Man>を運営しながら、多くの人々の心に響く「人生の文章」を紹介し、ともに鑑賞してきたチョン・スンファン氏。スンファン氏は私たちに、こんなメッセージを贈ります。

「一文の持つ力で、あなたが心の温もりを取り戻し、あなたの傷が癒され、あなたを再び笑顔にし、誰よりも元気にあなただけの人生を歩んでいけますように」

<参考文献>
マルセル・プルースト著/キム・ヒヨン訳『失われた時を求めて1』(ミヌム社/2012年)


私が望むことを私もわからないとき
著:チョン・スンファン/訳:小笠原藤子

チョン・スンファン
作家、本紹介サイト<THE BOOK MAN>運営者。慌ただしい日々を生きる読者の疲れた心を、心地よい言葉で癒やしてくれる、本のセラピスト。多様なSNSサイトを通し、毎週のべ150万人のフォロワーに美しい言葉と心温まるストーリーを綴っている。邦訳された著作『自分にかけたい言葉 〜ありがとう〜』(講談社)は、韓国で30万部を超える。

小笠原藤子
上智大学大学院ドイツ文学専攻「文学修士」。現在、慶応義塾大学・國學院大學ほか、ドイツ語非常勤講師。訳書に『今日笑えればいいね 心向くまま自分らしく生きることにした』(小社)、『自分にかけたい言葉 〜ありがとう〜』(講談社)、『+1cmLIFE たった1cmの差があなたの未来をがらりと変える』(文響社)がある。