わたしが“腐女子”だった頃 #それでも女をやっていく

わたしが“腐女子”だった頃 #それでも女をやっていく



会社員、フリーライターであり、同人ユニット「劇団雌猫」として活動するひらりささんが、「女」について考えるこの連載。
今回は“腐女子”を名乗っていた頃のこと、
そして名乗らなくなった理由について綴っていただきました。


“腐女子”を名乗らなくなって、どれくらいになるだろうか。二年は経っているはずだ。自認はまだあるが、この言葉とべったり癒着して生きていた頃に比べたら、100パーセントではない。

ボーイズラブとの出会いを、この瞬間だったと決めることはできない。それはアイデンティティの形成でありコミュニティへの帰属であり性への目覚めであり、少しずつ起きていった。一つ大きかったのは、小学校高学年の頃、購読する漫画雑誌を「りぼん」から「花とゆめ」に変えたことだ。当時すでに大ヒット漫画となっていた『フルーツバスケット』が読みたくて鞍替えしたのだが、そこでは『天使禁猟区』や『よろずや東海道本舗』など、主人公が男性の漫画や、男性同士のバディ物などが連載されており、わたしに驚きを与えた。少女漫画で、男の子に自分を重ねて、感情移入していいんだ!

それまでにも、少年漫画を読んで、ヒーローたちの物語に一緒に手に汗握ることはあった。しかし「花とゆめ」における男性キャラクターたちの、冒険やサスペンスを通じた感情の交流には、「りぼん」や「なかよし」の恋愛漫画と同じ、じれったい甘ったるさがあった。主人公は男かもしれないけど少女漫画なんだから、そう感じて当然か。でも、少女漫画で恋愛をするのは男と女で、「花とゆめ」も本来はそうだろう。もちろん『カードキャプターさくら』などCLAMP作品を読んでいたから例外もあることは知っている。知っているけれど、わたしが心をひかれる「花とゆめ」の男たちには、お互いを思い合って優しく「好き」と言い合う、そういう空気はない。むしろ、相手に対しての屈託や憎しみ、ライバル心が前に来ていて、どきどきする。『天使禁猟区』の刹那と吉良とか、『フルーツバスケット』の由希や夾とか。

それなのに、彼らのやりとりには、脳みそとはらわたの底のほうを鳥の羽根でちらちらと撫でられているような、隠微な混乱があった。わたしが感じるこの気持ちは一体何なんだろう? 彼らの関係は何なのだろう? 

 

少女漫画誌で出会ったボーイズラブ

戸惑いながらも「花とゆめ」を読み続ける中で、夢中になったのが『闇の末裔』だった。死者の生前の罪を裁く冥府の「十王庁」召喚課に所属する、ボンクラだけど最強の死神・都筑麻斗が巻き込まれる事件を描くゴシックミステリー。読み始めたのは「女の子のイラストと服装が可愛い」という微笑ましい理由だったのに、気がつけば、都築が無数の男性キャラクターから向けられる執着の虜になっていた。距離が近い。顔もやたら近い。言葉が重い。過去にいったい何の因縁が!? 十王庁の死神たちも死者であり、彼らの関係性の背後には長大な年月が存在しており、思わせぶりなやりとりが山ほど出てくるのだ。この漫画、なんなんだ……と思いながら読む中、コミックス4巻に収録されている「聖ミシェル高等学校編」がわたしに張り手をかました。全寮制男子高等学校で起きた男性教師と男性生徒の痴情のもつれから事件が展開するのだが、性行為がぼかすことなく描かれていたのだ。

(イメージ:写真AC)

「りぼん」や「なかよし」では、男女であっても性行為は「あった」程度に描写されることが多く、行為そのものが描かれることはほぼなかった。その前に愛読していた『神風怪盗ジャンヌ』でも、メインカップルの愛の到達を示す上でセックスは匂わされていたが、具体的な描写はなかった。物語の主題は、あくまで互いに思い合う感情的な親密性のとうとさだからだ。それなのに聖ミシェル編では、男同士の恋愛が描かれるのみならず、キャラクターたちの関係性に、エゴと性欲が濃密に絡まり合い、性描写に至っていた。そこには読者を挑発するような風情があった。一つの事件のサブキャラクター同士とはいえ、作中で同性のセックスシーンが描かれた……ということは、都筑に対して向けられているあの矢印やあの矢印も、やっぱり「そう」捉えていいのか!? 脳内に無意識に引かれていたボーダーラインが無効化されたことで、わたしはパニックに陥った。というか、よく考えたら別に『天使禁猟区』や『フルーツバスケット』だって、「そう」かもしれない? 作中で完璧には明言されていないけど「そう」とっていい?

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Written by ひらりさ
ひらりさ

ライター・編集者。平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。
劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。
個人としてもアンソロジー同人誌『女と女』を発行するなど、女性にまつわるさまざまなテーマについて執筆している。
初の単著『沼で溺れてみたけれど』(講談社)が発売中。

»https://twitter.com/sarirahira

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