イタリア人は離婚すると踊る

イタリア人は離婚すると踊る



イタリア在住のイラストレーター・マンガ家のワダシノブさんが、
イタリアの暮らし・文化・人などの情報をお届け!
今回は、イタリアの人たちの離婚事情について。


(イラスト:ワダシノブ)

イタリアはおひとりさまには厳しい国だ。ここではカップルが人の最小単位だから、どこに行くにもパートナーと一緒を求められる。友達と会うときも、家族と会うときも基本的に二人で招かれる。

そんなイタリア人だって、もちろん別れることはある。カップルの国の人がパートナーと別れるとどうするのか? 答えは、「タンゴを習い始める」だ。離婚した私の知人たちは、男女問わずタンゴやサルサといったラテンダンスの教室に通い始めた。

そもそも、イタリアの離婚はかなり大変だ。紙切れ一枚(とその後の改姓手続き)ですむ日本よりもずっと時間とお金がかかる。そして、離婚が成立するまでだいたい1年ほどかかるのだ。

まず、半年間の別居期間を裁判所に申請し、その期間が経過してやっと離婚が成立する。大ざっぱなイタリアらしく、手続きのためのアポイントメントを取るまで数ヶ月待つなんてこともざらだ。半年なんて長すぎるように思うけれど、2015年までは3年の別居期間が定められていたし、さらにそれ以前は5年が必要だったから、これでもかなり短くなったほうなのだ。
そして、手続きには基本的に弁護士が必要なので、その費用もかかる。「離婚に厳しい宗教の国(カトリック)だから罰なの?」と思ってしまうほど、別れるのが大変なのだ。

知人が離婚の手続きを始めると「いろいろ大変そうだな」と思うのだが、一方でこれは終わった関係をクリアにしていく前向きな期間でもある。
実際、別居を始めると表情が明るくなる人が多いのだ。そしてその前向きさを証明するかのように、別居を始めたとたん次のステップへ踏み出す人が多い。彼らにとっては、別居中=シングルへの復帰ということだから。そして、冒頭で話したように、恋愛のリハビリのようにラテンダンス教室に通い始める。

タンゴやサルサで日々の生活の煩わしさから離れ、セクシーで官能的な肉体を取り戻すのだ。ハイヒールやぴったりとした緊張感がある服を身につけて踊ると、悩みを頭から追い出すことができるのだろう。
また単純に、教室に限らずダンスに行く機会が増えることで、交友関係が広がり、新たな友達ができる。
そんなふうにして2年も経つと、ぼんやりしたお父さん風だった男性が、日焼けして革ジャンを羽織り、ジムに通うセクシーキャラになっていたりする。
一方女性はどうかというと、キレイにはなるけど、男性ほど劇的には変わらないことが多い。これはもともとキレイにしている人が多いからということに加え、(子どもがいれば)子育ての負担が女性に多くかかり、男性ほど自分に時間をさけないという理由もあると思う。

別れてすぐに次の相手を探すことは、前向きでいいなと思うと同時に、「カップルが最小単位。パートナーは絶対に必要です!」というイタリアならではの圧も感じる。
イタリアの人は「パートナーがいるのが幸せ!」と信じている。夫の家族にも、私の「ひとりで過ごしたいときがある」「ひとりで趣味を楽しみたい」という気持ちが、なかなか理解されなかった。きっと今でも完全には理解されていないだろう。夫は気にしていないけれど。

日本はイタリアと比べると、「パートナーがいないとダメ」という風潮は薄く、そういう意味でおひとりさまに優しいと思う。“ひとりピザ”のほうが、“ひとりラーメン”よりもずっとハードルが高いということだ。

私自身はもし離婚することがあったら(今のところはないけれど)、イタリア式より日本式でいきたい。タンゴ教室に通うよりも、家でひとりでラーメンを食べるほうがいい。セクシーキャラへの変貌に憧れなくはないけれど、ダンス漫画を読んで、ときめきを補充するくらいでたぶん十分だ。

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Written by ワダシノブ
ワダシノブ

イラストレーター・マンガ家。広島県生まれ、イタリアのトリノ在住。
日本で出会ったイタリア人パートナーの帰国に付いて、2007年からイタリア生活を始める。
イラストのほか、noteやPodcastでイタリア生活や趣味について発信している。
X(旧Twitter) @shinoburun
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