【INTERVIEW】現役精神科医が伝えたい、 好きな自分になるための逆説的思考法


「あきらめる」って、なんだかイヤな気持ちにとらわれてしまう言葉ですよね。それは「夢を追いかけることをやめる」「途中で投げ出す」など、マイナスなイメージで使われることが多いからじゃないでしょうか。
でも、本当は別の意味、別の考え方を示しているとしたら?
『あきらめると、うまくいく』(小社刊)の発売を記念して、愛知の上林記念病院精神診療科勤務の精神科医・藤野智哉先生にお話を伺いました。

 

人生は思ったよりも短い、という気づき

――「あきらめる」って言葉には抵抗があるのですが?

藤野:あきらめるとは、『あるがままの自分を受け入れる』ということです。逃げることでもないんですね。『何かを手放す』ことです。目の前にある現実を直視し、人生を前向きに生きるために欠かせないマインドリセット法だと考えてください。

――先生、ずいぶんとお若いのに達観というか、俯瞰で考えているようなイメージを受けます。

藤野:すいません。精神科医だからって、偉そうに言っているわけではないんです。少しだけ私の境遇を説明させてください。1991年に名古屋市で生まれた私は、3歳、4歳、5歳のときに川崎病という病にかかり、4歳のときの川崎病の後遺症で心臓に大きな障害が残ったんです。私の心臓には後遺症として今でも13ミリのこぶ(冠動脈瘤)がふたつ残っています。冠動脈瘤は運動で心臓に負荷をかけると破裂する恐れがあるため、激しい運動はもう数十年していません。

――見た目からはまったくわかりませんでした。

藤野:外見からは絶対気づかないですよね。気になさらないでください。ただ、当時はみんなと違うことが嫌でした。薬を一生飲み続けなくてはいけないこと、どれだけ生きられるかわからないこと……これを受け入れるのに時間がかかりました。ただ、人生が思ったより短い、ということを人より先に身をもって感じたからでしょうか、すっと恐怖が消えたんです。中学2年生で私は自分の運命と向き合いました。何かをあきらめたその瞬間が、新しい人生の始まりだったのかもしれません。

――精神科医という職業柄だけでなく、ご自身の経験からの言葉は深いですね。

藤野:とはいえ、大それたことを言いたいわけじゃないんですね。今の世の中、情報過多ですし、ストレスを抱えていらっしゃる方も多い。うちの病院にもたくさんの患者さんがいらっしゃいますが、生きていくためにはゆるくていい。みなさんはそれを忘れがちなのではないのかと思い、この本を執筆させていただきました。自由にあなたらしく生きるために必要なのは、あきらめる気持ちなんです。肩の力を抜いて、ゆる~くポジティブに生きてほしいんです。

 

他者からの評価を求めない

――具体的にはどうすればいいんでしょうか?

藤野:そうですね。これはとても多くの人に言えると思うのですが、まず『いい人でいるのをやめる』ですね。わかりやすく言うと、万人に好かれるように行動をしない、でしょうか。万人に愛されるのをあきらめてください。いい人っていうのは、実をいうと他者の評価でしかないんですよ。いい人でいたい、という欲求にはなんの意味もありません。

――私も含め、グサッとくる読者は多いと思います。

藤野:ちょっと強い言い方になりますけど、私は自分にとって心地いい状況だったら他者にどう思われてもいいと思って生きています。心臓に障害を抱えていて、いつ破裂して死んでもおかしくない自分が、自分本位で生きてもいいじゃないか、と決めているのです。もちろん、それは私だけの特権ではありません。みなさんも、もっと自由に自分を好きになって生きてほしいんです。

――できたら周りからいい人だと思われたいですよね。

藤野:当然の欲求です。なぜなら、いい人だと思われるとみんなに愛されて、大事にされる可能性があるからです。生きやすいし、生物学上の生存メリットもあるでしょうね。いい人と言われる人にはいくつか共通する特徴があります。『愛想笑いが多い』『積極的に発言しない』『他人の意見に反論しない』『誘ったら断らない』などでしょうか。当てはまる人がすべていい人だとは断言しませんが、その可能性は高いとは言えるかもしれません。

――自分を振り返っても、思い当たることがいくつも……。

藤野:そうですね。こういった行為は自分をすりへらしてしまうので注意してください。不満を口にすることもできず、敵もいないが味方もいなくなり、やがてストレスをためて、心が悲鳴をあげる。そんな状態に陥らないためにも、あきらめることが肝心なのです。

――さっそく実践してみます。

藤野:自分の本当の気持ち、意思を大事にすればいいと思うんです。嫌なことは嫌だと言えばいいし、無理はしない。他者からの評価を求める必要はありません。大事なことは自分が自分を好きであること。その評価基準さえぶれていなければ、他者からの評価はそんなに必要ないんだ、と私は思います。

――最後に、読者へメッセージをお願いします。

藤野:この本には32個のマインドリセット法を書いてるんですが、そのすべてを実行してほしいとは思っていません。読者のみなさんが楽になれるならひとつやふたつだけでもいいと思っています。適当にやれることからやってみること。ゆる~くポジティブに生きてください。

 

\好評発売中/
あきらめると、うまいくいく
著:藤野智哉

※本記事は、2019.11.11公開記事「あきらめると、うまくいく? 現役精神科医が伝えたい、 自分が好きな自分になるための逆説的思考法」より一部を加筆編集したものです。

精神科医
藤野智哉 (ふじのともや)

1991年7月8日生まれ。3歳、4歳、5歳のときに川崎病にかかり、4歳のときの川崎病の後遺症で冠動脈障害が残る。学生時代から激しい運動を制限されるなか、医者の道を志す。 秋田大学医学部卒業。現在は上林記念病院精神心療科勤務。「マツコ会議』(日本テレビ)、『バイキング」(フジテレビ)などに出演し話題に。日本精神神経学会所属。本書のほか、著書に『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』『コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める』(共に小社刊)『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本』(幻冬舎刊)がある。
Twitter @tomoyafujino