【INTERVIEW】ミュージカル『COLOR』で記憶を失ってしまった青年を演じる成河。俳優陣も一丸となって作品作りに臨んでいる今、彼が考えていることとは?

【INTERVIEW】ミュージカル『COLOR』で記憶を失ってしまった青年を演じる成河。俳優陣も一丸となって作品作りに臨んでいる今、彼が考えていることとは?


精力的に舞台に立ち続ける成河が、次に取り組む作品は、ミュージカル『COLOR』。記憶を無くしてしまった青年の感じるものや、彼の成長を綴る自伝を舞台化する今作で、成河は、浦井健治と共に主人公の“ぼく”と、“大切な人たち”を交互に演じる。ノンフィクションの物語をいかにミュージカル作品にするのか、キャストも一丸となって取り組む中で、今彼が考えている事や、演劇に対しての思いを伺った。

撮影/浦田大作 文/渡邊美樹

――台本を拝見して、この作品はどんな風に舞台になるんだろう? と、いう印象を受けました。成河さんは、台本を読んでどのような印象を受けましたか?

「僕は、原作の本を読んだときに演劇と相性がいいかもしれないと思った一方で、演劇で表現するのは難しそうだなとも感じました。今、僕が頂いている台本が第8稿なのですが、実は、もっと前の段階で台本を頂いて、そこでディスカッションをする機会を頂きました。なので、最初のものから台本は変わっていってますね。演劇にする難しさと面白さを常に感じています。台本作りに携わらせて頂けるということはとてもありがたいことですね。キャスト4人で話合える場を用意して頂いて、それは、とても助かっています。台本を真ん中に置いて、率直にみんな意見を言い合っています」

――では、実際に稽古が始まるのはこれからという状況ですね。

「そうです、まもなく始まりますね。今は、台本を検証しましょうという最中です。今日はこの第8稿を検証してみましょう、という感じです(笑)」(取材時)

――検証。なるほど。では、舞台を作る段階でいうと、初期段階に近いのでしょうか?

「初期も初期ですね、僕ら俳優にとっては。それで、これから詰めていって1カ月の稽古期間に入るということですね。でも、2チームあるので、ちょっと短いと思います。そんなに長い作品にならないとは思うのですが、ギリギリ…普段の感じだと、1カ月の稽古で初日を迎えていくのはちょっと短いかな? っていう感覚はありますけどね」

――このように、台本をディスカッションしながら作り上げていく作品というのは、多いことなのでしょうか?

「僕の周辺では最近は、だいぶ増えてきた感じがします。例えば、オリジナルではなくて翻訳劇だったとしても、翻訳の言葉を俳優の言葉に近いものにするためのディスカッションをしたりします。原文で『want to eat』と書いてあるとしたら、“食べたい”なのか、“食べたいわ”なのか、“食べたいぜ”なのか、“食べてぇ”なのか、っていうことを俳優と一緒に考えてくれる現場っていうのが増えてます。それは、俳優もクリエイションの一部としてようやく認めてくれているような環境になったと思います」

――今回の作品は、ノンフィクションのお話なので、リアルである部分もありながら、詩的な、記憶を無くした主人公の感覚も合わせて、ミュージカル作品として表現しなければならないと思うのですが、現段階で成河さんは、どう表現したいなど、考えていることはありますか?

「多分、それは最初から最後まで考え続けることかもしれません。今、台本作りのためのディスカッション中にも議題になる話だし、稽古に取り組む上でも考えるだろうと思うのは…つまり、“何を難しいと感じているか”と、いうことなんですけど。こういう役を演じるのが難しいということではないんですね。どんな役でもそれは一緒だと思っているので。そうではなくて、演劇にするのが難しい理由として、批評性を失くしていく瞬間があって、難しいということです。つまり、いい話なだけになってしまう難しさを持っている。それだと演劇としては成立しないということになってしまうんですね。映像作品やドキュメンタリーで表現されるようなことを、演劇でそのまま表現すると、非常に大きな落とし穴に落ちてしまいます。大団円にしてしまってはいけないと思うので。そうならないようにするには、第三者的な目線というか、批評性のようなものが構造として必要だっていう話を現場では重ねてきているんです。なので、まず、初期段階として、役のアプローチとかそういうことは全く考えていないですし、そういうことよりももうちょっと大きな枠で、広い目線で、なんで今この作品をやるのか? っていうことを考えています。やっぱり、なんで今この作品をやるのかっていうことが腑に落ちないと、僕はお芝居をするのは難しいです。それと役を演じることを切り離せないので。そのことと、今ずっと格闘している状態ですね。本当に難しい。ともすると単なるいい話になってしまうので。演出の小山ゆうなさんも、そういう方向では作らないと思いますし。演出プランも少しずつ出来てきているようなんですけど。そいう批評性を持った見方で物語をどう作っていけるかということですね」

――今回は、ミュージカル作品でもあるので、更に表現の仕方が変わってきますよね。

「そうですね、ミュージカルで見せるということは、非常に大衆的になれるということだと思います。ニッチで閉ざされたもの、わかる人だけわかるっていう世界のものを、ミュージカルのフィルターを通すことで、緩和してくれるんですよね。みんなが観れるものにしてくれるんです。歌で訴えかけることで伝わることもありますし。ミュージカルのほかにない強みっていうのは、そういう大衆的なところだと思っています」

――ここ数年、コロナ禍で演劇の公演が中止になったりすることがあったかと思います。成河さんは、そういう状況を経験して、どんなことを感じられていますか?

「はい、思うことはたくさんあります! 喋りますよー、時間足りるかな?(笑)。非常に、確信としてひとつ言えることがありまして、それは、“演劇を特別なものにしてはならない”という思いが確信に変わりました。元々そういう事を思っていたし、言葉にもしていたんですけど、そういう思いがより一層強くなって、確信に変わりました。コロナ禍になって、演劇が特別なものになってしまったんですよね。でも、それは違うって、凄く思ったんです。大勢の人がいる場所にわざわざ来て下さるお客様と共有する時間っていうのは、俳優も、お客様にとっても、とても大切なものですし、尊いものです。凄くありがたい訳です。ですが、言い換えれば、みんなが本気で演劇を必要として集まって下さった。必要としてる人しかいないんです、その場所には。だから、お客様は凄い集中力で舞台を観てくださるんですけど、そこまで真剣に観て頂いてしまうと、何をやっても真剣に受け止められてしまうんですよ。今までは、“つまらない芝居だなぁ”とか退屈そうに観ている人もけっこういて、そういう人がグッと芝居に集中する瞬間に張り合いもあったわけです。“何やってるんだ、ふざけんなよ”って、思う人もいて当然だったし、世の中ってそういうものじゃないかなって思うんです。色んな人がいるのが劇場だっていう感覚が僕には昔からあったんです。今はとてもチケット代も高いですしね。だから、舞台が高級な趣味の特別な時間になってしまうと、僕が演劇を続けるモチベーションを持ち続けることって難しいなと思うんですよね。このコロナ禍で、作品をしっかり集中して観て下さるお客さんの存在は、本当にありがたいと感じるんですが。演劇は特別ではないっていうのは、僕らの先輩がもう言い尽くしてきた事で…。なので、コロナ禍をきっかけに、その入り口が閉ざされなきゃいいなと思いました。人が多い場所を避ける人は、劇場に来ないでしょうし、限られた人しか来ない場所になってしまう。そうならないように、何が出来るかと言うのを、本腰を入れて考えているところです」

――確かに、たくさんの人に気軽に楽しんでもらいたいですね。成河さんは、今後も出演作品が立て続きますね。頭の切り替えや体力が凄いなと思うのですが…。

「僕は、凄く規則正しい生活をしていますよ(笑)。映像の仕事やライブ活動とかを舞台の仕事と並行してやっている人達もよく見ているので、その人達に比べたら僕は規則正しく生活出来ていると思います。でも、ふと思うんですけど、僕はありがたいことに舞台の仕事が続いていますが、そうではない俳優もたくさんいる。世の中にはたくさんの職業があって、2、3カ月で1つの仕事が終わった後に3カ月仕事がないなんて、そんなことはおかしいですよね? 昔から俳優は、世間でいう職業の枠に入っていなかったんですよね。もちろん、職業の枠に入らないで、“あのはみ出し者が”って呼ばれるくらいの俳優のほうが面白いっていう主張もあって、それもわかるんですけど、日本はこれまでそのイメージだけでやってきたところがあるんです。一方で、きっちりとした芸事というのは、伝統芸能だけなんです。だから、極端な2者しかいなかったので、それじゃダメだっていうのが、僕達世代が考えることなんですよね。コンスタントにずっと活動し続けられること、そしてどんな形であれ経済基盤があるっていうのが大事なんじゃないかって考えていますね」

――成河さんは、演劇への熱い思いもお持ちでいながら、俯瞰的な目線で冷静に業界を観ていらしゃるのですね。

「僕も、若いころは自分にしか興味が無いような考えを持っていたんです。もちろん、そんなことだから色んな先輩方に本当にいっぱい怒られました(笑)。20代で行き詰まった訳です。演劇が楽しくならないんですよね。でも、様々な出会いがあって経験を積んで考え方も変わってきて、演劇が楽しくなったのが30代ですね。なんで、今そんなことが言えるかっていったら、自分が昔そうだったから、っていうことなんですよね」


  ●プロフィール
成河/そんは
1981年3月26日生まれ、東京都出身。2001年から舞台を中心に俳優活動を始める。2008 年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、2011年に『BLUE/ORANGE』『春琴』で第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。近年の主な出演作に、舞台『エリザベート』『タージマハルの衛兵』『子午線の祀り』『スリル・ミー』『導かれるように間違う』、ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)などがある。トラム、二人芝居『建築家とアッシリア皇帝』が11月〜12月、木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』が2023年2月から上演予定。


 ●作品紹介
ミュージカル『COLOR』
原作/坪倉優介「記憶喪失になったぼくが見た世界」
音楽・歌詞/植村花菜
脚本・歌詞/高橋知伽江
演出/小山ゆうな
出演/浦井健治 成河 濱田めぐみ 柚希礼音 (五十音順)

帰宅途中に乗っていたスクーターがトラックと衝突し、意識不明の重体になった僕。集中治療室に入って10日後、奇跡的に目を覚ますが、自分自身のこと、家族はもちろん、食べる、眠るという感覚さえも忘れていた。全ての事が初めてに感じる僕は、一体どんなことを感じたのか? 記憶を無くしてしまった僕の新しい世界と成長を綴る物語。

2022年9月5日~25日 新国立劇場 小劇場
9月28日~10月2日 サンケイホールブリーゼ
10月9日~10月10日 ウインクあいち
https://horipro-stage.jp/stage/color2022/