【INTERVIEW】2023年はドラマ『いちばんすきな花』など7作品に出演してきた一ノ瀬颯。『すき花』で松下洸平との愛され兄弟役を演じた日々を振り返る。また現在放送中のクライムサスペンスドラマ『SHUT UP』でヴィランを演じたことへの思いとは。

【INTERVIEW】2023年はドラマ『いちばんすきな花』など7作品に出演してきた一ノ瀬颯。『すき花』で松下洸平との愛され兄弟役を演じた日々を振り返る。また現在放送中のクライムサスペンスドラマ『SHUT UP』でヴィランを演じたことへの思いとは。


昨年、男女の友情を鮮やかに描き人気沸騰したドラマ『いちばんすきな花』で松下洸平演じる春木椿を優しい眼差しで見守る弟・春木楓役を爽やかに好演した一ノ瀬颯が、現在放送中のドラマ『SHUT UP』に出演中。格差社会を生きる若者達の復讐劇を描く本作で、仁村紗和ら演じる主人公女性4人を脅かし追い詰めていく男を一ノ瀬はどう作っていったのか。取材は昨年末、まずは最終回を迎えたばかりの『すき花』の振り返りから話を聞いた。

撮影/浦田大作 文/田畑早貴


――『いちばんすきな花』、素敵でした。反響は届いていましたか。

「ありがとうございます。実際に友人や知人からも『見てるよ』という反応を頂いたので、見て下さっている方が凄く多いんだなっていうのは、実感していました。凄く素敵な作品に携わらせて頂いたなあと改めて感じています」

――クランクアップはどのシーンだったのでしょうか?

「最終話の椿(松下洸平)の家にみんな大集合するシーンでした」

――大集合してましたね、視聴者のみなさんもあのシーンには総ツッコミされていて(笑)。

「もうめちゃくちゃですよね(笑)。楓も、あの場に純恋(臼田あさ美)を連れてきちゃうっていう…だいぶヤバいやつだよなあと思います(笑)」

――臼田あさ美さんとはスピンオフストーリー『みんなのほんね』で滑稽な二人芝居がありました。

「『信憑性』ですね。いやあ、楽しかったです。あのスピンオフはドラマ第3話の純恋と椿の話し合いの前日譚みたいなものですけど、台本を頂いたのは3話の放送からもう結構経っていた頃だったので、本編と繋がる内容に“あれ!?”と僕もひとりで感動してました。ツッコミどころも満載で(笑)」


――楓のドラマ本編では見られなかった意外な一面も見られましたが…(笑)。

「最初に純恋の話を聞いている段階までは、わりといつもの余裕があって冷静な楓だったんですけど、自分の話をし出してからは、“…おい、おまえどうした!?”って(笑)。普段は偉そうに兄ちゃんにも説教垂れてるくせにね(笑)。台本にも『ちょっとへたっぴな感じで』みたいなト書きもありましたし、楓も純恋ももう言ってることめちゃくちゃだしで、じゃあ面白くしちゃおう、ちょっとふざけちゃおうと。現場でもみんなで笑いながら撮影していました」

――コントのようでした。

「本当に(笑)。でもあのシーンは台本にすると18ページくらいの量をずっとふたりで喋り続けているので、実際に凄く長かったんですよ。僕は元々緊張しいなのもあるんですが、ちょうど(神尾)楓珠や齋藤(飛鳥)さんとのスピンオフの撮影とも重なっていたり、ドラマ『SHUT UP』の方でも長ゼリフを撮るタイミングだったりして、スケジュール的に”自分、大丈夫かな”と現場に入る前は結構緊張していたんです。でも、臼田さんが凄く気さくな方で。一緒に話をしたり、お芝居しているうちに緊張もほぐれていって結果的に凄く楽しくお芝居させて頂きました。もちろん臼田さんに限らず、みなさんが本当に優しい現場だったんですよね」

――では作品同様、現場も終始穏やかな雰囲気で?

「はい。洸平さんとも初めて現場でお会いしたのは第2話の花屋で楓が椿に『おかえり』って声をかけるシーンで、僕自身はその時すでに出来上がっているチームに入る形でのクランクインだったので緊張していたのですが、洸平さんから話しかけて下さって、歩み寄って下さって。本当にそのお陰で最初からいい感じの兄弟感が出せたなと思っています。(母・春木鈴子役の)美保純さんも『この間こんなことがあってね〜』みたいな世間話も沢山して下さって、本当のお母さんみたいで現場も凄く和んでましたね」

――春木一家、兄弟のシーンは毎回ほっこりしましたが、今回「弟」というキーワードで何か意識されてたことはあったのでしょうか?

「うーん、どうでしょう。ただ、元々の僕が誰に対しても弟っぽく振る舞っちゃうところがあるみたいなんですよ。『弟っぽい』って言われることは確かに多くて。人懐っこいというか、わりとすぐに人に対して親近感を持ってしまって自己開示しがち…みたいな。なので年上の先輩がいると余計に弟っぽくなっちゃうんですよね。洸平さんのように優しいお兄さんみたいな人だったら尚更そうだったと思います(笑)」

――生方美久さんの脚本は、演じながら何か感じられていたことはありますか?

「言い回しが独特で、それが言葉として凄く刺さるなって。ハッとさせられる言葉が多くて、僕自身もそれを書き留めたりと今まであまりしたことがないことをしました。セリフひとつとっても、台本を読んでる時のイメージと実際に現場でみんなで演じるのとでは、その役者さんの色が出てくるので結構違いがあるのですが、言葉にするとちょっと不思議になりがちなところも、みなさん自分の体に上手く落とし込んで演じられていて。実際に本を書いて頂いて、それを役者が演じて、その時にこれだけ多くの方が共感してくれるものになるというところに、生方さんの本の力を凄く感じましたね」


――では改めて今作は一ノ瀬さんにとってどんな作品になりましたか。

「僕自身にとっても人生で大切なことを物語から教えてもらい、現場でのキャストのみなさんの立ち振る舞いも勉強になり…本当に素敵な作品であり、現場でした。僕はお花屋さんでのシーンが多かったので、椿の家のセットに行く機会があまりなかったのですが、たまに行くと、前室にカードゲームとかがたくさん置いてあるんですよ。主演の4人もほぼ毎日遊びに来てますって冗談おっしゃってましたけど(笑)、それぐらい交流を深められていたんです。その結果、4人の関係性が画面からも伝わってくるような、あれだけ素敵な作品が出来上がって。僕も役者人生の中でこういうみんなで同じ方向を向けるような現場をもっと経験したいと思いましたし、自分からも作っていけたらと思えるような、本当に大切な経験をさせて頂きました」

――さて、楓と同時期に演じられていたのが現在放送中のドラマ『SHUT UP』の鈴木悠馬です。物語は、エリート大学生の悠馬が、自身で代表を務め権力を侍らせるインカレサークルの後輩・恵(莉子)を妊娠させ言い逃れするところから始まり、事件に発展していきます。

「今作では悠馬を演じることで僕自身にダメージがないようにっていうところを、児山(隆)監督もまず気にして下さって。それくらいどうしようもなく悪いやつなので…だから、演じる上では逆に清々しいなとも思いましたし、思いっきり嫌われたらいいなと思い挑みました。実際に毎週放送後のXではボコボコに言われていて…(笑)」

――悠馬を演じるにあたってまずはどんなアプローチをされたのでしょうか。

「児山監督からは『こういう感じでやってほしい』っていう、悠馬の動きについて最初にお話し頂いて。動きを極力減らして、みたいな」

――減らす?

「例えば人と話していても、コミュニケーションの動作がほとんどないんです。こう(うなずいて)いかないし、常に相手を定位置から見定めるような目つきをする。なので、たとえ悠馬の内面が動いたとしてもあんまりキョロキョロもしない…そういうビジョンを監督は悠馬に対して持っていらっしゃって。ただ監督としても結構迷ってらっしゃったみたいで、最初に『本当にごめん、迷ってるから何回もやるね』と言って頂きました。クランクインは第1話で恵に『このあと予定ある?』って聞くシーンだったんですけど、まずは監督に言われた通りにやって、そのあと自分が思うようにもやってみて。そうすると動きが全然違ったり、表情も結構変わってくるんですよね。監督は僕がその場でやったことも評価して下さったので、悠馬をどこまで動かすかは監督とプロデューサーさんと一緒に試行錯誤しました。そこで作った悠馬が大元になっています」


――動きがない悠馬、だいぶ怖かったです。例えば第3話の悠馬が100万円盗られるシーン、彩(芋生悠)を見つめる目に光がなくて芋生さんも震えられてたんじゃないかと…。

「あはは(笑)! 確かに『こわーい…』て言ってましたね(笑)」

――悠馬の見せ方然り、映像全体としても不気味なシーンや生々しい描写が多いですね。

「そうなんです。映像として綺麗で、同時にちょっと不気味な感じもあると思うんですけど、今作の児山監督の意向に『印象的に見せたい』というのがあって、視覚的にも印象に残るシーンが盛り込まれて。それこそ『MVみたい』っていう感想を頂くことも多かったのですが、長回しのシーンも多いので映画っぽさもあるし、多くのドラマ撮影ではキャストの正面からカメラが入り込むようなところも真横から撮っていたりする。そういう監督の撮り方が凄く効果的に働いているなと思います」

――緊迫感のある展開も多いですが、撮影現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?

「いい意味で、物語のシリアスさに引っ張られることもなく、カットがかかれば結構みんなふざけていて(笑)、面白くていい現場でした。主演の仁村さん含めみなさん仲良し4人組って感じで、本当に同じ寮に住んでるんじゃないかと思うくらい。撮影期間の約1か月、本当にあっという間で濃かったですね」

――全てを手に入れているように見えた悠馬も、物語が進んでいくにつれて父親との確執のようなものも見えてきます。撮影を重ねて、一ノ瀬さんが捉える悠馬の人物像に変化はありましたか。

「確かに、人間らしさは多少なりとも感じていきました。100万円盗まれて少し焦っているところや、お父さんと対峙した時の悔しさや劣等感、そういう感情的な部分も少なからず持ち合わせてる人間なんだなと。ただ、彼が抱えているものは彼のしたことの理由にはならないので、同情する余地もないなという印象は変わりません」

――例えば悠馬が最低であればあるほど、由希(仁村紗和)の友人・陽太(草川拓弥)が眩しく見えて。

「そう言って頂けるのは嬉しいです。もちろんキャラクターとしてはちゃんと愛して演じさせて頂きましたが、やっぱり今作では悠馬は嫌われれば嫌われるほどいいというか、見て下さってる方が悠馬に苛立って4人組を応援したくなってもらえたら役者として一番成功してるのかなって。ここまでドラマを見て下さってる方の中には、物語の社会的な内容に共感されている方も多いと思いますし、悠馬に対しても、恐らく主人公4人に対してもイライラしながら、でも結末が気になるから見ているという方もいらっしゃると思うんです。なので、最終的に彼女達は悠馬にどんな形で復讐をするのか。復讐は復讐らしくスカッとするものなのか。彼女達が出す結論にみなさんはどう感じるのか…そういう問いかけの要素も大きいと思いますので、ぜひ最後まで見届けてもらえると嬉しいです」


――最後に、一ノ瀬颯さんご自身のことも伺いたいです。23年も振り幅のある作品に出演されて、芸歴としては6年目の今、お芝居についてどんなことを感じられていますか。

「今までの僕は、戦隊シリーズやライダー出身の俳優や同年代の俳優、そういう同じ土俵の人たちを見ては自分と比べて一喜一憂してしまうようなことも多かったんです。でも、そもそもこのお仕事を始めたのって“お芝居楽しいな”っていうところからなんですよね。大学に入るまで勉強ばかりしてきたけど、『自分のやりたいことをやりたいから』と親にもお願いして、最初は大学に通う間だけのチャレンジだったのが、ご縁あって今の事務所に声をかけて頂いて。そのあと戦隊のオーディションにたまたま受かって、そこからドラマにも出させて頂いて…大学を卒業した今も、こうしてお芝居を続けられてることがだんだんと当たり前になっている自分がいたんですが、それは全く当たり前ではなく凄くありがたいことで。お芝居を楽しむ気持ちや、お仕事を頂けることへの感謝を忘れちゃいけないと改めて強く感じているんです。自分にとって1番の幸せはこの仕事をこれからも続けていくこと。競争心も大事だけど、変に周りを意識し過ぎずに…ということを再認識した一年でしたね」

――では、以前より周りと比べることなくフラットな気持ちでいられるように?

「……比べてはしまうんですが(笑)。でも前よりは少しそう思えるようになった気はします。素敵な現場にたくさん巡り合えた1年だったからこそ、今そう思えているのかもしれないですけど、これからもそうありたいですよね。一つひとつの現場と真剣に、楽しく向き合って、その上で、携わらせて頂いた作品がよりよくなるように。より多くの人に『いい作品だったね』って言ってもらえるように頑張りたいなと思います」


●プロフィール
いちのせ・はやて
1997年4月8日生まれ、東京都出身。2019年に『騎士竜戦隊リュウソウジャー』リュウソウレッド役で俳優デビュー。23年はドラマ『Get Ready!』『私がヒモを飼うなんて』『ハレーションラブ』『MALICE』『いちばんすきな花』『SHUT UP』、映画『仕掛人・藤枝梅安 第二作』などに出演。


作品紹介
ドラマプレミア23『SHUT UP』
脚本/山西竜矢 いとう菜のは 的場友見
監督/児山隆 進藤丈広
出演/仁村紗和 莉子 片山友希 渡邉美穂 一ノ瀬颯 芋生悠 井上想良 野村康太 草川拓弥(超特急) 他

貧しさを諦めたくない――。学費も生活費も自ら稼ぎながら共に寮で身を寄せ合う女子大生の由希(仁村紗和)、恵(莉子)、しおり(片山友希)、紗奈(渡邉美穂)。そんなある日恵の妊娠が発覚した。相手は同じサークルに所属する名門大学生・鈴木悠馬(一ノ瀬颯)。話し合いを持ちかけるもまともに取り合わず見下す悠馬に、復讐を決断した4人は悠馬から100万円を強奪。作戦は成功したように見えたが、悠馬は彼女達の犯罪に気づいていて――。
テレ東系毎週月曜23時06分より放送中。