【ダイエットの落とし穴】嫌いな上司と酒を飲んだ女の末路(後編)

【ダイエットの落とし穴】嫌いな上司と酒を飲んだ女の末路(後編)



「読めば痩せる!?」笑えるダイエットストーリー、第17話!


 

《第17話》「嫌いな上司と酒を飲んだ女の末路」(後編)

何かと厳しい女上司から突然、謎の食事の誘いを受けた私。
いつも絶対そんな優しいこと言ってこないくせに、
「基本こっちがスケジュール合わせるから。いける時あったら教えて」
「なにか食べたいものある? リクエスト何でも応えるよ!」
と、普段とは全く違う、優しい態度の上司に恐れおののく。

恐れおののきつつも、リクエストを何も答えないは答えないで、後々面倒なことになっても嫌なので私はひとまず、

「和食がいいかもです! お刺身とか食べたいです!」
と、元気よく答えたのだった──

 

そして、上司との食事会当日……。

その日、また体重の最小値を更新。
10キロ痩せるハメになってからこれでちょうど5キロ痩せたことになる。

嬉しい! のだが……

今日の謎の食事会のことを考えると、その嬉しさも半減する。

一体何なんだ。何が目的なんだ。女上司よ!

 

え? もしかして「普段仕事頑張ってるから」的な、ご褒美飯的なこと?
いやいや、あんたとの食事ご褒美でもなんでもないぞ!
いやいやいや、そもそもご褒美もらうほど仕事出来てなかったわ! だからそれはねーわ!
えー!! もうほんと何!? なんで私誘ったの!?
怖すぎるんですけど!!

そんな感じで今日一日中ずっと大混乱の中、なんとか仕事を終わらせる。

そして私は……

上司がセッティングしてくれた、なんかめっちゃ星がついてそうな佇まいの、
いい感じの、いい値段しそうな感じの、日本料理店の前に立っている。

……

 

何? え? ほんと何が目的なの女上司さんよ。

と、そこに
「ごめん。待たせちゃった?」
と、良い感じの笑顔を浮かべた女上司が現れた。

……いや、良い感じの笑顔なのが、また怖ぇよ!!!

そう思いつつも「あ、全然。私も今来たところですー」と精一杯良い感じの笑顔を浮かべ答える。
上司は「そっかそっか」と上機嫌に返すと、私を連れて、店の中に入る。
店内にはいると、温もりのある、美しい一枚板のカウンターに案内される。
カウンターの中には、雰囲気のある板前さんが、丁寧な丁寧な仕事をされている。

 

うん。

絶対高い!!!!
こんなところ、来たことない!!!! 怖ぇ!!!

「何飲む?」
腰掛けたカウンターで、上司がこちらにメニューを見せてくる。

メニュー高けぇ……

「私の奢りだからじゃんじゃん飲んでね」

上司怖ぇ……

そう思っている私を尻目に上司は「私はビールかなぁ」と笑顔でつぶやく。
私は……

メニューの中に「本日入荷」と書かれた限定本格焼酎があったので、
「じゃあ……この焼酎のソーダ割りで」

というと……
女上司が、

昭和の少女漫画くらいショックな表情を私に向けてきた。

え……? なにその顔……?
まずった?
ここは上司と合わせてビールにしとくべきだった……?

すると、女上司はものすごく落ち込み、
「そうだよね……。うん。……そうだよね……」
と呟いた。

いや、何が!? もう何が起こってんの??
訳わからなすぎてほんと怖すぎるんですけど!!

「なんか聞いたことあるもんな……。それ……」

だから何が!?

 

「実は……一つ、頼みがあるんだ」
と言うと、上司はなんと……
私に向かって頭を下げたのだ……!

え!? 何? 何が起こってるの!?
怖い怖い怖い!!
誰か助けてぇぇぇ!!!

心の中で至急救助を求める私を気にも留めず、上司は言葉を続ける。

「お願いします。私に……私に……」

 

 

「ダイエットのやり方を教えてもらえませんでしょうか!?」

……

???

ダイエットの……やり方……??

「なんか最近すごく綺麗になってるよね? 半年くらい前より絶対痩せてるよね? 全然ダイエットしてる風じゃないのに絶対痩せてるよね!? 絶対なんかしてるよね? 何ダイエット? それ何ダイエットなの? お願い教えて! お願いします!」

おお……すげーグイグイくる……。

「焼酎選んだのもダイエットの一環だよね? なんか聞いたことあるもん。焼酎太んないとか」

確かに私が焼酎を選んだのはダイエットの一環だ。
「選ぶもの大作戦」的に見て、飲みたいものの中で焼酎のソーダ割りが一番カロリーも低くて余分なものが入っていないことを知っていたからだ。
てか、どうやら、上司は私がダイエットしていることに気づいていたようだ。

なんだろう。

あんなツイート(もといポスト)で10キロ痩せなきゃいけなくなったとか恥ずかしくて誰にもバレたくないが、こうして自然に痩せたことに気付かれる分には……

悪くない。

いや、ここは正直に言おう。

ちょー嬉しい。

 

そんな私に上司は引き続きグイグイくる。

「会社では全然普通に過ごしてるじゃない? なんかたまにお菓子とかこっそり摘んでるの知ってるよ?」

バレてた。

「なのにどんどん痩せてくじゃない? どんどん綺麗になっていくじゃない? 何? どんなことしてるの? どんな過酷な運動を会社帰りにしてるの? あるいは朝活!? 朝活なの?」
「いや、別に大した運動してないですけど……」

「運動……してない……ですって……っ!?」

「あ、最近友人とたまにジムには行ってますね」
「たまにってどれくらい!? 週6?」
「それほとんど毎日じゃないですか。週1行くか行かないかくらいです」

何? 気に入ったのその顔?

「え……じゃあ会社以外では何を食べてるの? 霞食って生きてるの?」

「普通に白いご飯食べて生きてますね」

気に入ったんだね。その顔。
意外と面白い人だっただね。女上司。

「白いご飯って……世間で一番太るって言われているものよ!?」
「ですね。私もちょっと前までそう思ってました」
「どうやって痩せてるの!? 痩せてないとは言わせないわよ!」
「まあ……実は5ヶ月で5キロくらい痩せました」
「ご……ごきろ……!? それ、何キロ??」
「5キロです」
「ああ、そうか」

どうやら上司は混乱しているようだ。

 

なんか、とても意外だ。
仕事ではあんなに厳しく見えた上司も、プライベートでこうして話してみると、
なんだかちょっと可愛く見えてきた。

そんな可愛く見えてきた上司は、引き続き私に懇願してくる。

「教えてお願い!! どうやって痩せてるの? ここはご馳走するから! めっちゃ食べて良いから!」

いやめっちゃ食べたら太るがな、

と思いつつ「私のやり方で良ければ」と上司に答えると、上司はパッと明るい笑顔を浮かべ喜ぶ。

 

この人って……意外とこう言う人だったんだ。
仕事で厳しいのは、あるいは女性だから舐められないようにとか、気を張ってのことだったのだろうか。

一見厳しそうに見えた上司は、本当は可愛らしい人だったのかも知れないと思うと、
今まで心の中で蹴ってごめんと、ちょっとだけ思う。

そのお詫びと言ってはなんだが、私のやってきたダイエットのやり方でよければお伝えしようじゃないか。

私は上司に
「じゃあお料理、私がいくつか選んでも良いですか?」
「もちろん! あなたが好きなものどんどん食べて!」
「あ、そうじゃなくて。今日二人で食べるもの、私が選んでも良いですか?」

すると上司はピンと来たのか、
「まさか……ここからもうダイエットレクチャーが始まってるのね……!」

おっしゃる通り。
私がいくつかの品を店員さんに伝え、しばらくすると料理が運ばれてきた。

“タラの白子焼き”と“鶏むね肉(皮なし)のたたき”

「私が思うに、ダイエットに一番必要なのは、運動でも食事でもありません。
一番必要なのは、知識です。

上司は「知識?」とピンとこない様子。
「そんな知識で痩せる訳ないじゃーん」とでも言いたげな表情だ。

ふふふふふ。

では、思い知らせてあげましょう。

ダイエットにおいて、
知っている
と言うことがどれほど強いのかを!!

 

私は上司に先ほど運ばれてきたお料理を指して、

「この白子100gと、鶏むね肉(皮なし)100g。どっちの方がカロリーが低いと思いますか?」
「いやいや、さすがにわかるよ。ささみでしょ? 白子ってなんかカロリー高そうだし。それに鶏むね肉って、下手したら一番有名なダイエット食材じゃない」

「正解は……


白子です!!

そう。鶏むね肉よりも、タラの白子の方がカロリーは低い。

タラの白子のカロリーは、100gあたり約60キロカロリー。
鶏むね肉(皮なし)のカロリーは、100gあたり約105キロカロリー。
(食材のカロリーを簡単に調べられるサイト「カロリーSlism」さん調べ) 

 

つまり、白子の方がカロリーは低いのだ!

一見、太りそうなイメージのある白子。
でも実は白子は低脂質で高タンパクな、とても優秀なダイエット食材。
(プリン体が多いので食べ過ぎにはご注意を〜)

もちろん鶏むね肉だって十分に低カロリーなので優秀な食材。
でも、白子のように、一見太りそうなのに、実は意外と低カロリーで美味しいダイエット食材は結構存在する。

例えば、
この二つなんてどうだろうか!!

うに…… 100gあたり109kcal!!

牡蠣…… 100gあたり58kcal!!

うまい! けどカロリーは低い!
実はそんな意外な食材なんてたくさんある。
そんな食材たちを“知っている”ことが大切なのだ。

 

「知らなかった……! 確かに、ダイエットには知識が大切だわ……」

その後、私は上司に「選ぶもの大作戦」と「ざっくりレコーディング」を伝える。
どっちもなんの準備もなく、明日からすぐにできる方法だから、まずは試して欲しいと伝え、上司も「うん! やってみる!」とかなりやる気だ(てか素直なの可愛いな上司よ)。

そして、私もなんだかやる気になった。
人に気付かれて、それを教えてくれとまで言われたら、
なんかさらに痩せたくなっちゃうじゃないよ〜。

やっぱり、
1ヶ月に1キロペースではなく、2キロ痩せようとしてみようかな?

そう思う私に上司が
「有酸素運動とかはやらないの? 歩くって痩せるって聞いたことあるんだけど」

なるほど。ジムにホイホイいくのはしんどいが、歩くのはどれだけ私が運チだからって関係ない。
2キロペースにするために「選ぶもの大作戦」と「ざっくりレコーディング」をしながら歩いてみるのは悪くはないかもしれない。

その後、なんだかんだとダイエット談義をしながら、楽しく上司と食事を楽しんだ。
帰り際になり、私はふと疑問に思ったことを上司にぶつけてみた。

「そういえば、なんで急にダイエットしようなんて思ったんですか?」

すると、上司の表情がグッと深刻そうになる。

「私……、どうしても……どうしても痩せないといけない理由があるの」

どうやらのっぴきならない事情があるみたいだ。

もしかして……恋、とか……?
確か上司は独身のはず。
密かに想いを寄せる人に振り向いてもらうために痩せたいってことか?
などと妄想を膨らましていると、
上司が、痩せなきゃいけない理由をボソボソと話し始めた。

「実は……私ね、3ヶ月後に1ヶ月ほど休職することになっててね」

休職?
も、もしかして何かの病気とか……そう言うこと……?
1ヶ月入院する予定だから、休職すると言うことか……。

その病気は、隠れ肥満が原因で、
だから痩せないといけないとか……。
それは深刻にもなるはずだ。

……いや、でも待てよ。
それなら3ヶ月後ではなく、すぐにでも休職するべきなのでは……

私は「3ヶ月後に休職って……どんな理由で……?」と、失礼にならないよう、
出来るだけ神妙に上司に聞いてみた。すると上司が、

「私ね……」

と、深刻そうに切り出し、そして、こうつづけた。

 

 

「私……恋愛リアリティショーに出演することになったの」

……

??????

れんあいりありてぃしょー??

って例えば……大富豪の妻になるべく女たちが強烈バトルでしのぎを削る、あの恋愛リアリティーショーですか??

“意外な理由”とかではなく、もはや回答が斜め上すぎて、なんていえば良いのかさっぱりわからない。
上司は、顔を伏せ、少々顔を赤らめているようにも見える。

「なんかね、たまたまハマってみてた配信番組があってね。で、もうノリで、軽――いノリで応募してみたのね。じゃあ、なんかわからないんだけど、それが当選しちゃって……。いやもうほんとそうなったらよ? ここはもう一世一代の大チャンスだって思っちゃってね! いや恥ずかしいわよね。恥ずかしいんだけどね。でもここでやらなきゃもしかしたら一生後悔すかもって思ってね」
と、その後もベラベラと話しづつける女上司。

 

えーっと。

 

うん。

 

聞かなきゃよかった。

10キロ痩せるまで、あと5キロ──

 

“知識”を身につけた未来のわたしから一言二言

ダイエットを始めて半年。順調に痩せていれば人に気づかれるのがこれくらいの時期。

2キロ痩せれば自分が気がつき、4キロ痩せれば他人が気づく。
なんて聞いたことがあります。

いやーなんだかんだ、他人に「あれ? 痩せた?」って言われるの、嬉しかったりするんですよねー。

さて、今回出てきた「意外と痩せる食べ物」シリーズ。

白子や牡蠣・うにが意外にも低カロリーであることを知ったのも、
私が取り組んでいる
「選ぶもの大作戦」のおかげです。

「選ぶもの大作戦」をやっていると、だんだんと「あ、この食材って意外と低カロリーなんだ〜」ということを知る機会がたくさんある。

それがだんだんと自分の中で知識として溜まっていくので、
こうして外食をする機会があっても、自分で

「あ、これの方が低カロリーだな。こっち頼もう」
とか
「今食べてるカロリー、だいたい◯kcalくらいだな」
とかがわかるようになってくる。

それがわかってくると、美味しくて低カロリーなものを選べるようになるので、ダイエット中の外食も怖くなくなる。

「選ぶもの大作戦」は、やれば痩せるだけじゃなく、そんな食材の知識まで手に入ってしまうからダイエットにはうってつけなのだ、と私は思っている。

今回は、本編が長かったので、短めで失礼します〜!

と、終わる前に……

前回少し触れていた、ここまで順調だった私のダイエットが

ここから、大失敗の末路を辿ることになる話。

きっかけは、このとき決断した
「1ヶ月に2キロペースで痩せようとしたこと」
でした。

そんな決断をして数日間。
やる気に満ち溢れていた私は、積極的に有酸素として歩くことを取り入れた。

そんなこんなで、体重が最小値をまた更新して喜んでいたある日、
後輩であり、私のダイエットの師匠でもある伊藤ちゃんが、私に言った。

「このままだと先輩、痩せなくなりますよ?」

そして、その予言は……見事に的中することになったのだ。

(第18話につづく……2024年4月8日公開予定)

作者/【体脂肪率3%の脚本家】の保木本真也
『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)『事件』(WOWOW)など
ベストボディジャパン2023松山大会 モデルジャパン部門ミドルクラス グランプリ

イラスト/藍沢みお


Written by 保木本真也

「日本一の脚本家」にはどうひっくり返ってもなれなそうなので、「日本一イイカラダをした脚本家」を目指す、日本で最も間違えた方向をひた走る脚本家。
コンテスト出場時は体脂肪率を3%にまで下げ、仕事のクオリティを下げたり下げなかったりするので、今、「日本一間違えた脚本家」であることは言うまでもない。
※体脂肪率は体成分分析装置InBodyによる測定。
X(旧Twitter) @HOKKII

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