【INTERVIEW】モデルとして活躍する樋之津琳太郎。初舞台『Yerma イェルマ』に挑む今の思いを聞く。

【INTERVIEW】モデルとして活躍する樋之津琳太郎。初舞台『Yerma イェルマ』に挑む今の思いを聞く。


第35回メンズノンノモデルオーディションにてグランプリ&ラボシリーズ賞を受賞し、専属モデルとしても活躍中の俳優・樋之津琳太郎。今年10月から放送される日本テレビ系連続ドラマ『俺たちの箱根駅伝』への出演も発表され、念願だった“役者”としてのフィールドを広げていく中で、日々感じていること、見ている景色。今秋9月21日よりシアタートラムにて開幕する舞台『Yerma イェルマ』への想いも含め、リアルな心情を聞いた。

撮影/浦田大作 スタイリスト/髙木阿友子 ヘアメイク/YOSHi.T 文/船田恵

――モデルとしてもご活躍ですが、役者としての表現と違いを感じることはありますか?

「モデル撮影の場合は瞬間の勝負で、その一瞬にどれだけよく写ることができるかの闘いだと思っています。映像の場合は、流れる時間やシーンの幅を広く見せていくことが大事で、表現方法がまるで違うなと思いました。いつの間にかキメポーズが癖になっていて、わかりやすく提示してしまおうとする自分もいます。もちろん映像の世界においてもそれは選択肢のひとつとして、間違っているわけではないと思いますが、観ている方に委ねられる余白部分こそ映像の醍醐味や面白さだと感じるので、そのあたりは最初苦労しました」

――クリアできましたか?

「まだまだクリアはできていません。課題のひとつだと思っています。リアクションの取り方、セリフの言い方、どうしてもモデルの癖が出てしまう時があって。悪目立ちしていないか、心配です」

――逆にモデルの経験が役立ったことは?

「完全に固めた決め打ちのリアクションを作らなければならない時は、乗っかりやすいです。そういうリクエストにはすっと応えられている気がします」

――そもそも俳優になりたいと思ったきっかけは?

「小さい頃、両親と一緒に『相棒』を見ていて、大杉漣さんの演じたキャラクターが水谷豊さん演じる杉下右京さんにものすごい嫌がらせをするんです。子どもながらに腹が立って、“どうしてそんなことをするんだ!”と心が揺さぶられました。劇中の登場人物に対してあれほど気持ちが動いたのは、初めてでした。そこから俳優さんを意識するようになりました」

――だいぶ小さい頃ですよね?

「そうですね。だからこそ鮮烈に印象に残っています。今でも憎まれ役や妬まれ役がバチッとはまっている役者さんのお芝居を見ると、特別惹かれます。同時に、自分がこの仕事を始めてからは演じることの難しさもわかるので、一歩引いて観察できるようにもなってきました」

――初めてお芝居をした現場のことは覚えていますか?

「覚えています! 誰もが感じることだと思いますが、1シーンをつくるのにこんなにたくさんカットを割って、数を重ねて、複雑に組み立てていくのだと。普段自分が何気なく見ている場面にも、繊細なこだわりがあって、プロの腕が集結した結果なのだとわかった時、作品を観る視点がガラリと変わりました」

――視点が変わった先で考えたことは?

「自分のセリフや段取り、お芝居としての動作にいっぱいいっぱいになっている場合じゃない。いい意味で、しっかり慣れていかないと、役柄に寄り添って感情を乗せるお芝居ができるようになるまで遠すぎるな、と。お芝居のレッスンと現場がここまで違うんだということにも気づけたので、現場でのお芝居初日は得ることだらけでした」

――そこから始まって、お芝居の楽しさを感じた出来事は?

「最近の出来事ですが、連続ドラマの撮影で感動するシーンの撮影をする時に、そのシーンに関わる共演者の方が声かけと、ハグをして下さいました。その直後に本番だったのですが、意図せず涙が出てきたんです。そんな経験は初めてで、自分でも驚きました。想像や感情の範疇を超えた、予想すらしていなかった“お芝居”で、俳優という仕事だからこその経験。新しい自分にも出会えた気がして、強烈な体験でした」

――今、お話ししながらも、目が潤んでいませんか?

「はい。身体が覚えているんだと思います。僕は普段、物事を冷静に見てしまうことが多く、お芝居をする上でそれがノイズになってしまう時もあります。でも、あの時は本当に目の前のことに没頭していただけで、これ以上ないくらい集中できていた。そう簡単には出会えない、これからも大切に思う時間だったと思います」

――その経験を経て、初舞台『Yerma イェルマ』ですね。演出の稲葉賀恵さんとの面談があったとか。

「僕の中で気持ちや勢いは大きくあったのですが、まだ稽古前で物語を十分につかみきれていなかったんです。面談では稲葉さんが細かく演出を加えて下さいました。このキャラクターはこんなことを思っているからここはこういう動きにしたほうがいい、というようなアドバイスをいただいて、漠然としていたものがひとつひとつクリアに見えてきました。そこからは、小さな動きひとつにも動機付けができたり、自分の中でこだわりも生まれてきたんです」

――濃い面談だったようですが、他にもハッとしたことはありましたか?

「『色気を出してほしい』と言われたことです。(がっかりポーズで)僕には色気がないのか、と。余裕のある男のイメージで、目つきや所作を変えて演じていましたが、空回りしていた気がします(笑)。結果的にはポジティブな言葉をいただいたのですが、もっとたくさん色気の種類を出してみたりと、違うアプローチの仕方もある気がしています。絶賛模索中です」

――樋之津さんの中では色気=余裕のある人なんですね?

「はい。余裕のある人って、もしかしたら何か裏の顔があるのではないかと思ってしまいます。どことなくミステリアスで色っぽさを感じます」

――樋之津さんが演じる主人公・イェルマの夫・フワンの同性の恋人らしき男とは、どのようなキャラクターなのでしょう?

「役柄のキーワードとしては、純真さと清々しさ。おそらく彼らにとってはお互いの心のベクトルがしっかりと向き合った関係性だと思うので、ちゃんとフラットに見て感じたまま演じることも重要だと思っています。同性の恋人という設定ですが、そういう人々が相手に対して苦しみを理解しながらも心底優しく接する態度は、演じる要素として大事にしたいです」

――先ほどの色気のお話に戻りますが、余裕がなくても、何かを背負っている人は色っぽくないですか?

「なるほど! 裏の顔というわけではなく何かを隠している人の色気。たしかに今回の役柄でその要素を見せられたら、核心に一歩近づけるのかもしれないです」

――「生産性のない人達には存在価値がないのか」。あらためてすさまじいテーマを投げかけている舞台です。

「答えは本当に人それぞれだと思います。多様性が叫ばれて重視される今の世の中、原作が書かれた当時とは社会の状況も大きく違うかもしれないですが、それでも、無視はできない気持ちもあって。原作を読んだ時は重く悲しい物語の印象でしたが、結末に至るまでの経緯、当時の環境や時代背景による部分も大きいけれど、それを現代に置き換えて考えたらどういうことなのか、その視点は持っていたいと思いました」

――ところで“初舞台”という言葉は意識しますか?

「その意識が頭を埋め尽くして、もはや忘れてしまうレベルです(笑)。稽古場も本番も初めて。初づくしなので、いっそのこと割り切って、わからないことはわからないと恥ずかしがらずに言い、全部むき出しで挑もうと考えています。きっとうまくいかないことのほうが多くて苦戦すると思いますが、それでも食らいついてやり切ったら、大千秋楽にはまた違う自分に出会えるかもしれない。そう期待できることが楽しいです」

――初めてづくしで一番気になっていることは?

「舞台に立った時、客席がどのくらい見えるのか気になります。ステージ上の視点を体感したことがないので、お芝居に集中していて客席は視野に入らないのか、逆にすごく視線を感じるのか、その視線がどれほどお芝居に影響するのか…今は全然想像がつきません。セリフが飛んでしまったりするのかなぁと不安にもなります」

――セリフ覚えはいいほうですか?

「あまり苦労した感覚はないので、いいほうだと思います。声に出して暗記しています。テンポやタイミングが重要なセリフは、録音して覚える時もあります」

――台本には書き込みますか?

「少し前まではびっしり書いていました。『俺たちの箱根駅伝』の撮影に入ってからはあまり書かなくなりました。書いてしまうとお芝居を決め込んでしまう気がして、現場で起こることへの余白を残しておきたいなと。共演者の方々の台本に書かれていない部分のお芝居も素敵なんです。アグレッシブに演じていて、そういう選択肢もあるのだと目の当たりにしています。ただ、今回の舞台ではかなり書き込みそうな予感がしています。稲葉さんの一語一句を逃したくないので、吸収するためにもメモしていきたいです」

――最後に、今後の野望を聞かせて下さい。

「いつかはお芝居における賞をいただけるような役者になりたいです。そして、『樋之津が出ているならきっと面白い作品だろう』と言ってもらえるようになりたい。そのために全力で学んでいきます。今後身につけたいのは、やっぱり色気です。冗談です(笑)」

衣裳協力:シャツ¥49.500、パンツ¥49.500(共に CULLNI for DAKS LONDON/CULLNI FLAGSHIP STORE 03-6416-1056)


プロフィール
ひのつ・りんたろう
1999年8月20日、岡山県生まれ。第35回メンズノンノモデルオーディショングランプリ&ラボシリーズ賞受賞。メンズノンノ専属モデル。俳優としても活躍中。近年の出演作にドラマ『ストロボ・エッジ Season2』『余命3ヶ月のサレ夫』『月夜行路-答えは名作の中に-』、映画『女神降臨 BEFORE』など。10月から放送予定の連続ドラマ『俺たちの箱根駅伝』へのレギュラー出演も決定している。


作品データ
舞台『Yerma イェルマ』
作/オノマリコ
構成・演出/稲葉賀恵
出演/咲妃みゆ 渡邊圭祐 小林亮太
樋之津琳太郎 大場みなみ 青山祥子 前東美菜子
渡辺いっけい

スペインの詩人・劇作家ロルカの傑作『イェルマ』を起点に、オノマリコ×稲葉賀恵が放つ現代社会で居場所や価値を見出そうと生きる女と男達の物語。新たな戯曲として書き下ろされた本作は、家族の在り方や自己の存在意義を観る者すべてに突きつける。自らの存在価値に悩む女・イェルマを演じる咲妃みゆ。とある秘密を抱えているイェルマの夫・フワンには渡邊圭祐。イェルマの幼馴染・ビクトルには小林亮太。イェルマの内的な存在である老婆役には渡辺いっけいをはじめ、樋之津琳太郎、大場みなみ、青山祥子、前東美菜子と、多方面で活躍する俳優陣が参加する。

9月21日(月・祝)~10月12日(月・祝)、東京・シアタートラムにて上演。