「捨て変態 ゆるりまい」×「ミニマリスト 佐々木典士」対談<br />第2回「捨て変態&ミニマリストも人間です!」

「捨て変態 ゆるりまい」×「ミニマリスト 佐々木典士」対談
第2回「捨て変態&ミニマリストも人間です!」


 

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撮影・文/佐々木  典士
 

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「ゆるりまい×佐々木典士」対談の第2回。

今回は「捨て変態」と「ミニマリスト」に起こった変化を語りあいます!

 

自宅が突然「北極」になる!?

佐々木 ゆるりさんは、元祖ミニマリストと言われるように、モノが少ない歴が長いですよね。お子さんもお生まれになって、ライフスタイルも変化された。だからミニマリストがこれからどうなっていくのかというモデルケースの1つでもあると思うんです。

ゆるり 考え方はいろいろ変化しましたね。たとえば一時期はどうせ持つならお気に入りの質の高いモノを! とすごくがんばっていたんです。質のいいモノを求めて妥協しない買い物をし続けていたんですけど、ほどほどのほうが疲れないこともあるなって思うようになりました。

佐々木 それはいつぐらいからの変化ですか?

ゆるり 子どもが生まれてからですかね。ふと、「わたしは 何と戦っていたんだろう?」と思ったり(笑)。「上質なモノに囲まれている私」っていうのを過剰に求めてしまっていたのかなと思ったりもしました。

佐々木 ゆるりさんのそういう変化は本当におもしろいですよね。お子さんが生まれて、がらんとしたご自分の家を突然「北極」のように感じて改めてモノを買ったり、そういうことを正直に著作に描かれていますね。

ゆるり 産後の精神状況もあって「こんなリビングに、赤ちゃん置いとけないよ」って不安に駆られたんですよね。「暖房がエアコンだけじゃかわいそうだよ」とか。今考えると、子どもを産んだ病院にもエアコンしかなかったんですけど(笑)。

佐々木 2人め、3人めならともかく初めてのお子さんだと不安になるんでしょうね。

ゆるり モノの選択肢も、子どもありきで考えるとやっぱり変わるので。子どもの誕生はやはり大きかったですね。

佐々木 お子さんが生まれると、いくらいい服でも引っ張られたり、いいモノでも壊されちゃったりする。そのときに、モノの心配するよりもお子さんのことを優先したいからあえて安いもの、買い直せるものにするという方もいますね。

ゆるり タオルなんかでもどんどんいいモノを求めていた時期もあったんですよね。でも子どものおしっこを、こだわりの今治タオルでは拭けなくて(笑)。そんな時に、もうなんでもいいやと思って、ホームセンターで1枚300円のタオルを買ったんです。そのタオルでも充分に吸えるし、気兼ねなく使えて「これでいいじゃん」と思ったんですよ。安いけど、買い換えて新しくなると喜びを感じることもできる。そういう意味で消耗品にお金をかけなかったり、質を下げたりすることも全然ありなんだな、と思いました。

佐々木 ぼくも以前はアメニティー男子だったんです。シャンプーも髪につけるワックスもオーガニックだったり(笑)。でも今はお湯だけで洗って、髪にもなんにもつけなくなって。「これじゃなきゃダメ」というものがなくなるほど、自由度が増した気がします。

ゆるり 私もおしゃれな場所でしか買えないような洗剤を、もっと気軽にどこでも買えるようなものに変えようかと思っていて。「お母さん、ちょっとスーパーであれ買ってきて」って言えるもののほうが、今の生活では楽かなって思ったりします。

こだわりに苦しめられ、こだわりに助けられる

佐々木 本の中でも「モノにこだわりがない人に憧れる」ということを書かれていたと思うんですが、それはぼくもすごくわかるんです。自分はモノが好きで、どうしてもこだわってしまうけれど、一方でこだわりがない人にもすごく憧れる。ミニマリストにもいるんです、「服なんて、着られればいいんだぜ」みたいな人が(笑)。

ゆるり 私は、同じはさみを持つにしても、お気に入りを持っているほうが価値があるとは思います。でもお気に入りのものを探し続けるという状態から、少し戻ってきたんだと思います。「私がいいモノを持たなくたって、誰も気にしないよな」という気持ちになったり。

佐々木 ゆるりさんのセンスで集められたモノは注目されていると思いますけど(笑)。こだわって、本当に好きなモノが見つかると楽になることもあると思うんですよ。たとえば、ゆるりさんにとっては、あのランプがそういうモノのひとつなのかなと思ったんですけど。

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「FUTAGAMI」の真鍮のデスクランプ。スイッチON/OFFの度に軽やかな「チーン」という音が響きます!

 

ゆるり 確かにこのランプはそうですね。このランプに出会ってから、お店でも他のランプとか見なくなりましたもんね。他の人から見てどうかというより、自分の基準でこれがいちばんというものが見つかると他のものが目に入らなくなる。消しゴムだと「まとまる君」が好きなので、他の消しゴムはもう見ないですしね。

佐々木 ぼくも自分でこれだ! という自転車を手に入れてからはまったく他のものに目が行かなくなりました。

ゆるり 基本的に、物欲が強いので、これだって決めて落ち着きたいっていうのはありますよね。でもまだカゴは集めちゃっているんですよね。カゴ沼、カゴ地獄(笑)。

佐々木 まだこれだというカゴに出会ってないんですかね?

ゆるり 「これがあれば他はいらないよー」っていうカゴが1つ欲しいですね。結婚もそうですよね、この人がいたらもうほかの人は見なくてもいいっていう人。私の場合は夫だったんですけど。今はまだ、「どのカゴも好き!」という感じです。

佐々木 (あれ? 今ノロケられた……?)自分のこだわりに助けられることもあるし、こだわりが強くて、自分が苦しくなることはありますよね。ぼくもアウトドアグッズを買い揃えていたんですが、ネットでずーーっとスペックや機能を調べちゃうんですよね。もちろん楽しいんですけど、疲れちゃう。今もモノが好きだからこそ、モノ選びから離れたところもあるんだろうなと思います。

ゆるり モノを減らしたり、お気に入りを見つけていくことは、たとえばジムに行ったりすることと同じなんじゃないかと思うんですよね。体を絞りに絞って、自分を高めていく最中はとっても楽しいけど、苦しいときもある。それが何かのきっかけで、ふっと力が抜けてほどほどの適正体重に戻ろう、と思うタイミングがあるような気がします。

「欲しいモノがない!」という満足感 

佐々木 自分のこだわりの方が勝って、苦しくなったら本末転倒ですもんね。ぼくがこれだけは気をつけようと思うのは、本当に必要だと思うモノがあるのに「いや、俺はミニマリストだからモノは増やさない」というようなこだわりなんです。とは言え、必要なモノはその時々で出てきつつ、それでもたまに「欲しいモノが何もない!」状態になることがあって、その状態がすごい心地いいんですけどね。

ゆるり すごいわかります!「私、今何も欲しいモノがない! 満ち足りてる!」っていう感覚ですよね、自然に足るを知る状態。

佐々木 まさにそうです(笑)。でもぼくもそういう感覚がずっと続く「完璧な状態」が来るんじゃないかと誤解していたんですよね。何も欲しくない状態は、確かに心地いいんですけど、ずっと続くわけじゃなくてその時々で必要なモノが出てくる。

ゆるり 人間だから、日々刺激を受けて成長してますからね。私はコンスタントに本を出していたので、過去の持ちものを振り返ると「これこそがベストだ!」って思っていたときもあるんですよね。でも昨日必要だったものが今日いらなくなったり、昨日いらなかったものが今日必要になったりする。

佐々木 終わりはないんですよね。こだわりもときどきで、強めたり、弱めたりしてそのときの自分の気持ちに合わせていく。

ゆるり でもモノを減らしていると、なんか冷たそうに思われません?

佐々木 それはありますね。「なんでもかんでも捨てる冷徹な人間」みたいな(笑)。

ゆるり モノ自体を無駄に捨てるのには、私も抵抗があるんです。でも捨てないでそのままにしておくほどは優しくなくて。

佐々木 ゆるりさんは「モノの人事異動」(※使わなくなった鍋を、猫の水入れに用途変更するなど)という言葉も使われてますよね。そんな風にモノを擬人化してしまうぐらい、本当にモノに愛情がある。

ゆるり どうせなら、使わなくなったモノも捨てずに「第二の人生」を見出してあげたいんですよね。

佐々木 ぼくもたくさん捨てたせいか、ただ捨てるのがすごく嫌になったんです。だから単に捨てるのではなく、必要な誰かに届けるということをすごく意識してます。

ゆるり でもやっぱり冷たいと思われてるのか、取材でいらっしゃった方に「思ってたより、お話しやすくてよかったです」と言われたりして。どういう人だと思われてたんだろうって(笑)。

佐々木 「捨て変態」も「ミニマリスト」もその時々で、しっかり揺れ動いて変化していて、結構人間らしいんだよということは伝えたいですね(笑)。

 

 次回は、いよいよ対談最終回!

「モノが少ない暮らしは今後どうなる? ミニマリストの結婚観まで」

 

 

【PROFILE】
ゆるり まい
1985年生まれ。仙台市在住。漫画家、イラストレーター。母、夫、息子の家族4人+猫4匹暮らし。「わたしのウチには、なんにもない。」シリーズは累計20万部を突破! NHK‐BSにてドラマ化もされる。汚屋敷で育った反動から、3度の飯よりモノを捨てることが好きな捨て変態に! 現在cakesにて「ゆるりまいにち猫日和」「赤すぐみんなの体験記」にて連載中。ブログ「なんにもないぶろぐ」も更新中。

佐々木 典士(sasaki fumio)
1979年生まれ。東京都在住。編集者、中道ミニマリスト。初の著書「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」は16万部突破、海外12カ国でも翻訳される。ワニブックスで手がけたミニマリストシリーズは累計26万部突破。クリエイティブ・ディレクターの沼畑直樹氏と、ブログ「minimal&ism」を運営。