『しあわせな二人 若いころより楽しくて素敵な日々』

『しあわせな二人 若いころより楽しくて素敵な日々』


僕の妻は6歳下です。

「どこで知り合ったんですか?」とよく聞かれるのですが、そして、その答えを口にすると「えーッ!」と驚かれるのですが(しかも語尾には「(笑)」がつく。なぜなのか)、ぶっちゃけ、文通です。

学生時代、絵本作家になりたいと思っていた時期が僕にはあり、同じころ、妻も似たような思いを抱いていたようなのです。で、そんなこともあって、専門誌の文通コーナー(昔の雑誌には、そういうページがあったんですよ)で知り合ったわけです。いまでいう、メル友みたいなものですね。

そのころ彼女はまだ高校生だったし、周囲からは「淫行だ!」とかツッコマれまくりました。
実はプラトニックだったんですが、しかしまぁ、イメージなんてそんなものですよね。

でも結局、知り合ってから30年ちょっと(途中、喧嘩別れした時期が1年半くらいあったんだけど)、結婚してから35年ほど経っているので、なんとも不思議な感じです。おそらく、価値観を共有できていることがいちばんのポイントだと思うんですけどね。

なーんてことを、『しあわせな二人 若いころより楽しくて素敵な日々』(引田 かおり・引田 ターセン:著/KADOKAWA刊)を読んでいたら思い出しました。著者は、東京・吉祥寺で「ダンディゾン」というパン屋とギャラリー「フェブ」を経営するおしゃれ夫婦。本書ではそんな立場から、若いころとは違う生き方、暮らし方について綴っているわけです。

 

印南さん連載用text

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ご主人はモーレツビジネスマンとしてキャリアを積んだのち、52歳でリタイアしたという人物。奥様は11歳年下で、知り合った当時はまだ高校生だったこともあり、進路や恋の相談をする、お兄さんのような存在だと思っていたのだとか。

つまり、うちの夫婦以上に歳が離れているんだけど、そういう境遇にはちょっと近い部分があるかなと思ったわけです。そしてやはり、この人たちも価値観を共有しあっている。

やはり、夫婦って、大切なのはそこだと思うんだよなあ。

ちなみに、読んでから「ああ、あの店か」と気づいたのですが、吉祥寺・大正通りの「ニキティキ」裏にあるその店には、妻と一緒に何度も訪れたことがあったのでした。パンの味はあまり好みではなかったけれど、ものすごく洗練されたお店で、初めて訪れたときにはとても驚いた記憶があります。

ただしこの本、なにかとツッコミどころ満載だとは思います。
ちょうちん記事は書きたくないから、そこははっきりさせておこう。

まず、「ターセン」「カーリン」と呼び合う……のは一向に構わないんだけど、それを公言してしまうのは、僕の感覚からするとかなり恥ずかしいです。基本的にそれは、内輪でやっていればいいことなのだから。まぁ、団塊世代の感性と考えれば納得できる部分もあるのですが。

それから、奥様の「ターセンは団塊世代の勝ち組としてIBMに就職したものの」というフレーズは脇が甘すぎます。つまり、「勝ち組」が導火線になってしまうわけです。特にいまの時代、こういうことは気をつけて書かないと誤解されてしまうからね。

そこに続く「上司とケンカして、転勤を願い出ました」まで読めばなんとなく事情はわかるんだけど、前半だけ読んで抵抗を感じちゃう人がいてもおかしくはないから。

とはいえ、基本的にこの奥様にはそれほど悪気はないのだろうなということは理解できました。簡単にいえば天然な部分があるからこそ、こういう表現を使ってしまっただけなのだろうなと。だからこそ、そういうところは編集者がきちんと指摘してあげなきゃね。そういう意味で、編集者の責任は決して軽くないと思います。

そんなこともあり、アマゾンのレビューが荒れ放題になっていることも、なんとなくわかりはします。 が、そこが「もったいないな」と感じるところでもあります。

でもね、とはいえ、叩いて否定ばかりしていても、それはそれでまた違う気がするのです。気になる部分を指摘したうえで、ひとことそうつけ加えておきたいのは、この人たちがそこまで非難されるようなタイプではないということがわかるから。

たしかに、絵に描いたようにおしゃれなライフスタイルは、ある種の人たちを過度に刺激してしまう可能性があるでしょう。それも理解できるのだけど、基本的にこの人たちは“自然体”なんだと思うのです。下記の文章に、それがはっきりと表れているように思いました。

「パン屋とギャラリーを営み、一見華やかそうに思われるかもしれませんが、私たちの日常は淡々としていて、本当にありふれた毎日です。でもいちばん大切なのは、そんな時間なのだと分かる年齢になりました」

これはまったく同感です。淡々と、普通に日々を送ることは本当に大切で、それ以上のものはない。おしゃれな家具を使っているとか、センスのいい服を着ているとか、そういうことはオマケみたいなものでしかないということです。

それに、冒頭で触れた共感があるからこそ、結婚について奥様が書かれている部分がとても響きました。そこで、今回はその部分を「神フレーズ」にすることにしましょう。

今、仕事が面白くて、結婚に踏み切れない女性が多いと聞きますが、結婚ってなかなかいいものですよ。全ての時間を自分の好きなように使えるのは、もちろん魅力があることだけど、二人になった途端、お互いびっくりするような予想外なことがいっぱい起きて、それはそれは中身の濃い深みのある人生になるんです。(9ページより)

僕は結婚しているから、この言葉の意味するところはとてもよくわかります。この部分に共感できたからこそ、少なくないツッコミどころもスルーできたのかもしれません。……と、ツッコミどころにずいぶんこだわるのは、やはり本書は誤解されすぎている気がしてならないからなのでした。

 

 『しあわせな二人 若いころより楽しくて素敵な日々』
(引田 かおり・引田 ターセン:著)

 

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『遅読家のための読書術』(印南敦史:著)

 

Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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