『笑い論 – 24時間をおもしろくする -』

『笑い論 – 24時間をおもしろくする -』


 僕は自分のことを「つまらない人間だなぁ」と感じ、軽い絶望を繰り返しながら生きてきました。理由は簡単です。人が驚くような発想ができるわけでもないし、それどころか思いつくことは、自分で呆れてしまうほど一般的。そもそも、人とは違うオリジナリティを持っているわけでもないからです。

 端的に言えば「よくあるタイプ」の人間だとしか思えないので、自分については「ホント、つまんねえヤツだよなぁ」と感じるしかなかったわけです。

 少なくとも、数年前までは。

 つまり数年前に、あることがきっかけでちょっとばかり考えが変わったんですけどね。

 そのきっかけとなったのは、美島菊名という女性カメラマンとの会話でした。彼女は強烈な個性の持ち主で、奇抜なアイデアをふんだんに盛り込んだ作品が高く評価されている表現者です。僕にはとうてい考えつかないようなことをポンポン思いつき、それを作品に落とし込んでしまうので、本当にすごいと感じていました。

 だから有名になる前から注目していた……というよりも、10数年前に初めて会った瞬間から強く感じるものがあったのでした、

「あ、この子、絶対に普通じゃない」って。

 お断りしておきますが、からかっているわけではなく、これは僕からすれば最大の惨事……じゃなくて賛辞です。三時のおやつよりも素敵な褒め言葉です。なんといいますか、ホワ〜ンとしているのに、彼女がそこにいるだけで気になってしまうような、不思議な、しかし圧倒的な存在感があったのです。

 だから、それからほどなくしていろいろな賞を獲りまくり、アーティストとして急成長していったことにも充分納得できたのでした。

 さて、その「きっかけ」に話を戻しましょう。ある仕事で一緒になり、作業を終えてリラックスしていたときのことです。内容は覚えていませんが、そのとき彼女がまたおもしろい発言をしたので、「やっぱり美島は変わってる」と笑いながら言ったのでした。すると目をまんまるに見開き、こう返してきたのです。

「そーんなこと、変わってる印南さんに言われたくないですよ!」

 もちろん、怒って反論してきたわけではありません。僕の言葉を聞いて、咄嗟に出た純粋な反応です。論破しようとかウケようとか、そういう意図があったわけではないのです。

 それがわかったから余計に、その言葉に説得力を感じたのです。

「僕は自分のことを『よくあるタイプ』の人間だと信じて疑わなかったけれど、本当に変わってる、個性の塊のような美島の目にそう映るのだとしたら、もしかすると僕は「よくいないタイプなのかもしれない」って」。

「変わってる」と認めたくなかった理由のひとつとして、「僕って変わってるんですよぉ」なーんてことをうれしそうに話す人に限って普通なので、一緒にされたくないという思いがありました。

 でも考えてみると、自分が「変わってる」ことを少なからず自覚していたからこそ、そういう屈折したことを考えたのかもしれません。

 言ってみれば僕は、「人とは違ってるのかもしれない」ということに気づきながらも、それを口に出すのは気恥ずかしいから、やみくもに否定していただけなのかもしれないのです。

 美島の言葉は、僕にそんな気づきを与えてくれたわけです。だからといって、「僕、変わってまーす!」なんて口が裂けても言いたくないですけどね。

 ただ、言われてみると、変わってるか変わってないかは別としても、「人と同じことはしたくない」という思いは常に強くあるのです。

 もちろんそういうことを日常的に意識しているわけではなく、「無意識」にそうしているだけなのだろうと思います。が、上記のようなエピソードがあって改めて、「ああ、自分はそういうタイプ、つまり“美島側”の人間なのかもしれないな」と実感したということ。

笑い論 – 24時間をおもしろくする –』(倉本美津留著、ワニブックスPLUS新書)という本を読みました。著者は『M-1グランプリ』『ダウンタウンDX』などのテレビ番組を手がけてきた放送作家の方だそうです。

 と、素っ気ない書き方をしてしまったのは、単純に僕がそっちの世界に疎い人間だから。そもそも芸能界にあまり関心がなく、(これをいうと驚かれるのですが)ダウンタウンのお笑い芸も見たことがないのです。バラエティ番組に出ているのを見たことはありますが、そもそも芸人が騒いでいるだけで成り立っちゃうようなバラエティ番組が苦手だしなー。

 早い話が、偏ってるんですよ。でも、「みんなが見てるから」ではなく、「自分が好きだから」という価値観を大切にしたいのです。

 だからこの本を初めて見たときにも、「自分には縁のないタイプだな」と感じたのでした。放送作家の方が書いた本は過去に何冊も読んだことがありますが、業界人的なノリが鼻につくものが多く、共感できたことは少なかったし。

 ところが、さほど期待もせずページをめくり、目につくところを拾い読みしていたら、ちょっと印象が変わったのです。「放送作家だから」とかいうことではなく、この著者の考え方に共感できる部分が多かったのです。少なくとも、過去に読んできた「放送作家本」とはちょっと違う気がしたんですよね。

 簡単にいうと、放送作家だとかテレビ業界人だとかいう以前に、“個”が立っている。すなわち“自分”がある。いいかえれば、「放送作家だからユニーク」なのではなく、「ユニークだから放送作家として成功した」ということなのだろうなと納得できた。だから、とても腑に落ちたのです。

 芸能界的な話題にはまったく惹かれない僕でさえスラスラ読めてしまったのは、そんな理由があったからだと思います。

 そして、著者の「笑い」についての考え方は、「笑い」を意識しているわけではなく、むしろそこから遠い位置にいる僕にも共感できるものでした。そこで今回は、もっとも共感できた部分を「神フレーズ」としたいと思います。

「笑いをつくる遊び」なんていうと仰々しいですが、この遊びに高度なテクニックは必要ありません。唯一のルールは、人がやっていないことをやるーーただそれだけです。(71〜72ページより)

 おわかりかと思いますが、この考え方は、「笑い」がどうこうという以前に「物事」の本質です。少なくとも僕はこれまでずっと、自分の領域において「人がやっていないこと」をしようと意識してきましたし、だから「ちょっと人の真似っぽいことしちゃったなぁ」というようなことがあると落ち込み、反省を繰り返してきました。

 そんな経験があるからこそ、著者のこの考え方には賛同できるし、本書にも共感できたのです。だから、同じようにこのフレーズも印象的だったな。

 最近のテレビのお笑いを見ていて思うのは、「あるあるネタ」が多いということです。多いどころか、そればっかりと言っても過言ではありません。(中略)「あるある」の笑いとは「わかるわかる」という共感の笑いですから、必然的に、多くの人が見たことがある、聞いたことがある内容になります。表現の仕方などで独自性を発揮する余地があるとはいえ、そこから新しいものは生まれにくいのです。(41〜42ページより)

 つまり、人と同じことをやったっておもしろくないということ。そして、それはお笑いだけではなく、すべての物事について言えることだと思うのです。そういう考え方を共有できたから、本書にも納得できたということです。

 

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Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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