寝る前に読む 一句、二句。 クスリと笑える、17音の物語

寝る前に読む 一句、二句。 クスリと笑える、17音の物語


僕は家にいるとき、たいていは書斎のドアを開けたまま過ごしています。エアコンを入れなければならない真夏と、床暖房をつける真冬は別ですが、それ以外の季節は、ほとんどドアを閉めることがありません。

いまの家だけでなく、10数年前、三鷹のマンションに住んでいたころからそのスタイルでした。

ものを書く仕事をしているのだから、締め切らないと集中できないのではないかと思われるのですが、少なくとも僕個人については逆。

もちろん「密室だと集中できない」というわけではないし、周囲を遮断すれば必然的に集中せざるを得なくなるでしょう。きっと、それは間違いないと思います。しかしそれでも、僕はよほどのことがない限り、ドアを締め切りたくないのです。

理由はとてもシンプルです。つまり、家族の話す声や生活音が聞こえてきたほうがリラックスできるから。そして、そのほうが仕事がしやすいから。

同じ家のなかの違う場所にいて、みんながそれぞれ違うことをしているのだけれど、「少し離れたところに家族がいる」という空気感が重要だということ。それが心地よく、仕事のモチベーションを高めてくれるのです。仕事のためにそうしているわけではなく、あくまで結果論ですけど。

朝、メールチェックをしたりニュースサイトを眺めたりしていると、息子が「行ってきます」と声をかけ出勤。妻は忙しそうに家事をしていて、僕は9時ごろから仕事を開始します。インコが書斎まで飛んできて肩にとまることもあるし、妻とも言葉を交わすことだってあるけれども、基本的にはお互いに、いい意味で空気のように過ごしているわけです。

お昼になったら妻の呼ぶ声が聞こえてきて、ふたりでランチ。それが済んだらまた書斎ですが、やがて夕方近くに娘が帰ってきて「ただいま」と、開いたドアからこちらに声をかける。それに対して、「おかえり」と答える。

夜が近づくとキッチンから夕飯をつくる音が聞こえてきて、そこに妻と娘の会話が絡む。口喧嘩をしていることも少なくないのですけれど、それも、うるさいというほどではなく、部外者としてはなんだかおもしろかったりもします。

外出することのない日に関しては、だいたいそんな感じ。

つまりドアを開けておくと、生活にまつわる音や雰囲気、話し声などを自然に感じることができるのです。ずっと書斎で仕事をしながら、それらを聞くともなしに聞いているのです。言葉がなくても安心できるのは、「そこに家族がいる」と感じられるからなのでしょう。

その証拠に、家のなかに誰もいないと、なんだか妙な気分になってしまいます。「いつも書斎にいるんだから、家族がいようがいまいが変わらないじゃん」と突っ込まれれば、たしかにそのとおり。けれど不思議なことに、向こうの部屋から生活音や声が聞こえてこないと、妙に人恋しくなってしまったりもするのです。さびしんぼかよ。

さてさて、前置きが少し長くなってしまいましたが、今回取り上げたいのは、『寝る前に読む 一句、二句。 – クスリと笑える、17音の物語』(夏井いつき・ローゼン千津:著/小社刊)という本です。

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著者のひとりである夏井いつきさんという方、名前こそ存じ上げなかったものの、帯に乗っている写真を拝見した瞬間にすぐわかりました。TBS系の『プレバト!!』というバラエティ番組で、俳句コーナーを担当している方ですね。

芸能人の詠んだ俳句にズバズバ斬り込んでいく、痛快なのだがちょっと怖そうで、しかもちょっと……いや、かなり変わっていそうな、あの強烈な人だ。調べてみたら、中学校の国語の先生から俳人に転身したという肩書きをお持ちのようで、なんとなくわかる気がします。こういうタイプの先生、いたもんなー。

しかし驚いたのは、もうひとりの著者、ローゼン千津さんという方との関係性ですよ。おふたりで並んだ写真を見る限りでは、なんの類似性も確認できないのですが、なんと姉妹なのだそうです。ちなみにお姉さんは、妹さんについてこう記しています。

お互いに、二人の子どもを抱えての熟年再婚経験あり。彼女が再婚したのは、チャイコフスキー国際コンクールで優勝した経歴を持つアメリカ人チェリスト。今は、彼の付き人をしつつ、世界あちらこちらを渡り歩くかたわら、ライターの仕事をこなす人物である。私たちは、合わせ鏡のように似ている部分と水と油のように正反対の部分を持ち合わせている姉妹だ。(「はじめに 俳人ファミリー、本を出す」より)

なるほど、家族の形態、兄弟姉妹のあり方にも、いろいろあるわけですなぁ。もちろん、そんなのは当然のことです。それはともかく、そんなふたりが数々の名句について語り合う本書を読んでいると、なんだか暖かい気分になれるのです。

しかも、俳句よりも、そのやりとりのほうがおもしろかったりもするわけです。いや、もちろん、ひとつひとつの俳句に関する感じ方や思いも興味深いのです。が、それ以上に、この、ちょっと不思議なふたりの関係は、部外者として楽しみがいがあるといいますか。自分たちとは違う生き方をしている家族って、やっぱり新鮮ですからね。

なお本書には、夏井いつきさんがさまざまな事柄について綴った「いつきのまなざし」というショートエッセイが10本入っているのですが、そのなかの「大家族の効用」という文章に、「家族の形態」についての明確な考え方が反映されているように感じました。よって、今回はその部分を「神フレーズ」としたいと思います。

大家族が心地よく暮らす秘訣は、日頃から大皿でものを食べる習慣をつける事ではないか。
(32ページより)

こののち著者は、皿料理を囲む人数、豚の角煮の個数、おひたしや酢の物の量を「思いやり」で割れば、自ずと自分の皿にとるべき量が決まると記しています。そんな日々の習慣こそが、大家族の心の基盤をつくっていくとも。

とても共感できたのですが、思ったのは、これが必ずしも大家族だけに限定されるものではないということ。もちろん家族の人数は多いほうが楽しいのかもしれないけれど、たとえ核家族であろうとも、家族全員で大皿を囲む食事には、やはり大きな意味があるなぁと思ったわけです。

 

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Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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