『遅読家のための読書術』

『遅読家のための読書術』


ありがたいことに、物心ついたころから本にだけは不自由したことがありませんでした。
だから、読書習慣は難なく身についた気がします。

ただ、「あれを読め」「こっちが先だ」と押しつけられるのはとてつもなく嫌だったんですけどね。だから思春期のころはそういう意見に歯向かい、なかばムキになって読みたいものだけを読んでいました(素直じゃないなー)。

と、ここまで書いて思い出しましたが、そういえば10年ほど前に中学校時代の同窓会があったとき、何人かから同じ言葉をかけられて衝撃を受けたことがあったんですよ。

「印ちゃん(そう呼ばれてました)って、いつも本読んでたよねー」
「えーッ、俺ってそういうイメージだったの?」と非常に驚いたんだけど、なんだかそれだけ聞くと、ただの暗いやつって感じだよなー。

しかしまぁ、たしかに間違いではないのかもしれない。1日で3冊ぐらい読んじゃう日もあったし、本はそれほど身近だったわけです。

そういう習慣があったからこそ、文章を書いているいまの自分がいるともいえるのでしょうしね。
ところが不思議なもので、年齢を重ねるに従って読書の速度、あるいは内容についての理解度が落ちてきたようにも感じるのです。

かといって「歳とったからなー」とかいいたいわけではなく、実際、それほど歳とったとも思ってないんだけど、じゃあなんなのかといえば、やはり時代の影響なのではないかと思うわけです。

つまり、いまの時代はどう考えても情報過多だということ。インターネットが普及したおかげで、知りたいと思ったことの多くはすぐにわかるようになったし、刺激的な、あるいは魅力的な情報も向こうからどんどん飛び込んできます。

その時点ですでに飽和状態になっているので、さらに昔と同じように本の内容を吸収しようとしても、それはやっぱり 無理があるということ。
それは僕だけの問題なのだろうと長らく思っていたのだけれど、考えてみれば多くの人に共通する悩みでもあるんですよね。

実際、「最近、読書のペースが落ちました」みたいな話はよく聞くし。
だから、これはもうどうにもならないことなのかなぁとも思っていたのだけれど、少なくとも自分に関しては、ちょっとした変化もありました。

数年前から書評を書くようになったことがきっかけで、読書スタイルが大きく変化したのです。
基本的に毎日書いているし、ありがたいことに掲載メディアも増えているので、「読む時間がない」だなんて甘っちょろいことをいっていられなくなったわけです。

もともと本は好きなのだから、それを苦痛に感じることもないけれど、「読んで、書いて、読んで、書いて」を繰り返していたら、いつの間にか速く読むためのコツのようなものがつかめていたということ。
とはいっても巷によくある「速読術」みたいなものはあまり信用していないので、あくまで自分なりのスタイルで読んでいるにすぎないのですが。

だから偉そうなことはまったくいえないんだけれども、ともあれそんな、自分なりの読書法を公開した著作が先ごろ発売されたのでした。

『遅読家のための読書術―――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(印南敦史:著/ダイヤモンド社)がそれ。 

 印南さん連載用text

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サブ・タイトルにもあるとおり、ポイントになっているのは、「フロー・リーディング」という独自に編み出した読書法です。

僕もそうだったわけだけれど、本を読む際には、つい「もれなくすべてを吸収しよう」みたいに考えてしまいがちじゃないですか。内容を頭のなかにため込むことが第一義になっているわけで、つまりその読書スタイルは「ストック(stock=ため込む)型」

「フロー・リーディング」はその対極にあるもので、「すべてをため込むなんて無理な話。本の内容が頭のなかを『流れていく(flow)』状態をつくれば、それだけで充分」という考え方なのです。

なぜって、いくらすべてをおぼえておこうとしたところで、現実問題として人間は、その大半を忘れてしまうものだから。もちろん完璧に記憶できる人もいるかもしれないけれど、おそらくそれはごく少数。

そしてさらに重要なのは、自分の興味の範疇にあることや、自分にとって必要な情報は、「流していく」だけでも自然に記憶に残っていくものだということ。

「そういうものなんだ」と開きなおって考えることができれば気持ちは楽になるし、そうすることで、より記憶に残るものの量は増えていく。
結果的に年間700冊以上の本を「フロー・リーディング」している人間の経験則からいって、それはたしかなことなのです。

というわけで、今回本書から選んだフレーズはこちら(いつも「神フレーズ」という言葉を使っているけれど、さすがに自分の本の内容についてそんな言葉は使えない……)。

読書の本当の価値は、書かれていることの「100%を写しとる」ことではなく、価値を感じられるような「1%に出会う」ことにあります。(33ページより)

つまりはこういうことです。仮に100%を写しとれたとしたって、それらをすべて活用することなんかできるはずがありません。しかし、自分にとって価値のある1%に出会うことができ、それをストックしておけたなら、もしかしたらそれは将来的に200%の価値につながっていくかもしれない。

そう考えて、楽に「フロー」させていく。それこそが、情報であふれた現代社会のビジネスパーソンに適した読書術なのではないかと考えるわけです。

 

『遅読家のための読書術―――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』

Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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