『1日1杯の味噌汁が体を守る』

『1日1杯の味噌汁が体を守る』


子どものころから味噌汁が大好きでした。
そもそも若いころは、「ごはんと味噌汁と納豆さえあれば生きていけるな」と真剣に考えていたくらいで(そんなことを真剣に考えるヒマがあったら、もっと建設的なことを考えろよな)。
でも、仮にごはんや納豆がなかったとしても、味噌汁だけは飲みたい。

味噌汁のプライオリティはそれほど高かったので、おかわりして3杯も飲むなんてことも珍しいことではなかった気がします。そのたび父が必ず「『馬鹿の三杯汁』っていうんだぞ」とニヤつきながらいうものだから、「何度も同じことをいうってのが『馬鹿の一つ覚えじゃね?』とか心密かに思っていたのですが(ダメじゃん)、しかしまーオッサンってだいたい、おんなじことを何度もいいたがるもんですよね。自分がオッサンになってみると、そのあたりがよくわかります。

なーんていう話はどうでもよくて、だからいまでも味噌汁は大好きなわけです(さすがにもう三杯も飲まないけど)。

しかもあるとき、『だし生活、はじめました。』(梅津有希子著、祥伝社)という本にいたく感動し、妻に勧めたら彼女も共感してくれて、ほどなく我が家に鰹削り器が導入され、いきなりだし生活がはじまると、味噌汁の味も格段に向上。かくしてまた、味噌汁が食卓における存在価値を高めたのでした。

ちなみに僕は赤味噌派なのですが、妻が白味噌派なのでちょっと不満があったのですけれども、鰹でだしをとるようになってから、白味噌の奥深さがわかったような気もしています。

さて前置きが長くなってしまいましたが、そんな矢先にまた一冊、我が家の食生活によい影響を与えてくれそうな一冊に出会いました。『1日1杯の味噌汁が体を守る』(車 浮代:著/日経プレミアシリーズ)がそれ。

印南さん連載用text
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著者は時代小説家/江戸料理・文化研究家という経歴の持ち主だそうで、味噌にハマッて本を出すという流れにも納得できます。が、実はそうともいい切れないようなのです。

なぜって「粉もん+ソース文化の街」である大阪に生まれ育ち、味噌にそれほどの思い入れを持たないまま30年近くを過ごしてきたというのですから。しかも生家は「食事には汁物が必要」という家庭ではなかったというので、「馬鹿の三杯汁」などとは対極にあったといえます。

なのに味噌の魅力にとりつかれたのは、生産量全国シェア40%以上で、日本一の味噌大国として知られる長野県に移住したことがきっかけだったのだとか。
音楽などにもいえますが、ある程度の年齢を重ねてからハマッたものに対して、人は尋常とは思えないほどのこだわりを見せることがありますよね。場合によっては、人生最大の吸収力を持つといってもいい思春期以上のポテンシャルを発揮する場合がある。

僕の場合は20代のころに知ったヒップホップがまさにそれだったわけですが(って、ここでヒップホップの話を出すかよ)、もしかしたら著者と味噌との関係も、それに近いものだったのかもしれません。

味噌汁の歴史にはじまり、江戸っ子たちの味噌事情、地方のさまざまな味噌についてのうんちく、忙しい人のための味噌の取り入れ方などが、深く、そして幅広く紹介された内容。
文章も軽妙で、しかも新書版なので、空いた時間を利用して、楽しくスラスラと読めます。レシピもたくさん掲載されていますから、ひとつひとつ試していく楽しみもあるでしょう。僕も、少しずつトライしていくつもりです。

でも、そんな内容だから、とくに「名言」のようなものが出てくるような本でもないわけです。
味噌についてのあれこれを知って楽しむためのものだといいますか。
しかしそれでも、深く印象に残った箇所はいくつかあります。とくに「『しおらしい』は『塩が欲しい』女性から生まれた言葉」というパートに書かれていたことは、なんだかいい感じで心のなかに残ったのでした。

充分な塩が手に入らなかった山間の女たちは、塩を持っていそうな行商人に言い寄り、塩を入手しました。ただし、その近づき方はなんともぎこちなく、「この女はどうやら塩が欲しいらしい」が「しおらしい」に転じ、可憐で従順な女性を指すようになったのです。(37ページより)

そこで信州においては、貴重な塩分と植物性たんぱく質を同時に摂取できる味噌の生産が盛んになったのだという流れ。

信州の気候風土を考えると「なるほどー!」と強く納得させられる話ですし、語源も非常に興味深い。そしてなにより、塩が欲しいんだけど口に出せなくてモジモジしている女性の姿が頭に浮かんできて、なんともかわいらしいではないですか。

だからこの話を読んだら、だしのきいた熱い味噌汁を飲んだときのように暖かな気持ちになれたのでした。ということで今回は、これを「神フレーズ」にしたいと思います。

 

 

Written by innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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