『選んだ理由』

『選んだ理由』


いままで、多くの人にインタビューをしてきました。

もともと僕は音楽ライターからキャリアをスタートした人間なので、初めのころはアーティストへのインタビューが中心。しかし、だんだん枠が広がっていって、音楽関係者だけでなく、それこそ企業に勤めるビジネスパーソンとか、なにかの職人さんとか、さまざまな方にお話を伺うことになっていったのです。

ところで、誰に話を聞いたとしても、たとえ相手が初対面だったとしても、インタビューをした際にはかなりの高確率で起こることがあります。終了後、別れ際に「近いうち、飲みましょう」というような話が出ましてね(っていうか、「出す」ことがほとんどですけど)。で、実際、それが飲み会につながってさらに意気投合してしまったりするのです。

また、一度しか会っていないんだけれどお互いに感じるものがあり、インタビューから5年近く経ったいまもフェイスブックでメッセージのやり取りをしているミュージシャンもいます。このケースなんか、はたから見ればかなりヘンだなという気はしますけど。

ともあれ、そんな経緯を経て再会した場合、ほぼ確実にいただけるのは「聞き上手だから、ついつい話しちゃいました」みたいな感想。ただ、そういわれると、いつも僕は戸惑ってしまうのです。

なぜって、「インタビューのコツってなんなんですか?」とか聞かれても、そんなものはないから。コツやギミックなどがあれば、そりゃ楽でしょうけれど、あいにくそういうもの持ち合わせていないのです。

それどころか、「インタビューが好きだ」と思っているわりには、毎回とても緊張します。これについても「まったく緊張しないんですね!」なんていわれることが多いのですが、それは大きな勘違い。
どんな表情をしているんだか自分ではわからないけれど、心のなかでは「つらい! 早くこの場を去りたい」などと感じていたりもするのです。

だったらなぜ、終了後に意気投合しちゃったりするのか?

理由は長いことわからなかったのですが、あるとき、ふと気づきました。
僕は適切な言葉を瞬時に選べるわけでもないし、要領だっていいとは思えないのですが、たったひとつだけ認められることがあるのです。
仮に数分前まで「逃げてしまいたい!」とか思っていたとしても、インタビュイー(インタビュー対象)が目の前に現れるとすべてが変わるのです。

「この人の、これが知りたい、あれが知りたい」と、たくさんの興味が一気に湧いてきて、その人のことをいろいろ知りたくなってしまう。もう、そこには好奇心しかなくて、だから結果的にいろんなことを聞いてしまうのです。

当然のことながら失礼にあたるようなことは避けますけれど、それ以外はなんでも聞いちゃう。
なぜって、聞きたくて、知りたくてたまらなくなるから。

つまり、おそらくはここがポイント。相手もそこで僕になにかを感じてくれるからこそ、「飲みましょう」みたいな話になる。そういうことなのではないかと思うのです。

ちなみにインタビューそのものに話を戻すと、聞く内容は、ありきたりのことではいけないと考えています。
いちばん嫌いなのが、「読者にメッセージをください」とかいう質問。そもそも、その相手が話ししていることすべてがメッセージなわけじゃないですか。にもかかわらずそういうことを平気で聞けるというのは、よほど相手の話を聞いていないか、あるいは敬意がないことにほかならないからです。

人によって違いはあると思いますけれど、僕がインタビュイーに聞きたいのは、その人の人生そのものです。たとえば相手がミュージシャンであれば、アルバムの制作期間だとかプロデューサーがどうだとか、そんなことを聞いてもまったく意味がない。そんなことは、プレスリリースなどの資料やインターネットを見ればすぐにわかるのですから。

でも、きっと、そんなことより大切なのは、「自分にしか聞けないこと」「自分だから興味を持っちゃうこと」「聞かずにはいられないこと」を聞くことだと考えているのです。

もちろんそのなかには、ギリギリのラインで失礼にはあたらないとしても、聞きにくいことだってあります。でも経験的にいうと、ヘンに気を使うより、聞きたいことをズバッと聞いてしまうほうが相手の心に響きやすい気がします。

事実、こちらが“あえて”そのことを聞いた瞬間、相手がぐっと体を乗り出してきたということが何度もあります。

今回、こんなことを改めて考えたのは、『選んだ理由』(石井ゆかり:著/ミシマ社)という本がきっかけでした。ライターである著者が、カフェ店主や写真家、17歳の女子高生などさまざまな人に話を聞いたもの。

 

印南さん連載用text

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おもしろいのは、インタビューの席で会うまで、どんな人が来るのかを知らされていないということ。
つまり、情報ゼロの初対面状態で話を聞いているわけです。

ミシマ社のウェブマガジン「みんなのミシマガジン」で連載されていた「闇鍋インタビュー」をまとめたものだそうですが、そのアイデア自体に大きく共感できるものがありました。

だから、ひとりひとりの話をとても興味深く読み進めることができたのですが、インタビュイーのなかに、つまり「聞く側」ではなく「聞かれる側」のなかに、インタビューに関する僕の考え方とかなり共通する部分を持っている方がいました。「聞かれる側」に、というのが不思議な感じもしますけど。

それは、ウェブサービス大手の「株式会社はてな」の人事部に所属していらっしゃる「平村さん」という方。
大学職員から転職し、「はてな」で初めて人事の仕事に携わったのだそうです。

人事といえば、当然のことながら人と関わる仕事ですが、この方の「人」についての考え方が、僕のインタビュイーに対する考え方と一致するのです。というわけで、今回の「神フレーズ」はこれ。

「私はもともと、人に興味があるんです。

自分と似てるかとか、気が合うかとかいうことと関係なく、その人自身のことを知りたい、という気持ちが強いのです。」
(71ページより)

これ以外にも「人」についての考え方を述べられおられて、そのひとつひとつがしっくりくる。

だから文字を目で追いながら、インタビューに対する自分の答えを読んでいるような気分になってしまったほどです。

でも、だからこそ、この人とは会わないままでいたいなとも感じました。あまりにも似ていると、あった場合にかえって戸惑ってしまいそうで。いや、もちろん接点がないのですから、会える可能性はゼロなわけですが。

 

 

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Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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