
『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』
毎日本を読み、書評を書き、もちろん、書評以外の文章もたくさん書き……と、そんなライフスタイルができあがってずいぶん経ちます。読むことも書くことも、僕にとってはとても重要。
天職だという実感はあるので、それを仕事にできることには、感謝しなければいけないなと思っています。
ただ、目の前にどんどん積み上げられていく本と仕事の量を目の当たりにするにつけ、「なんとかしなくては……」と焦りを感じることが少なからずあるのもまた事実。
物書きのなかには、「締め切りは守らなくて当然」と考えている人が一定数いて、実際、臆面もなくそう口にする人にも何度となく会ってきました。でも、僕はそれが嫌なのです。つまり「仕事である以上、締め切りという“約束”は守って当然でしょ」と考えてきたのです。
しかし、たったいま上に「考えている」ではなく、「考えてきた」と書いたところに、現在の僕の問題はあるのです。なんだかんだいいながらも現実的に、締め切りを守れなくなりつつあるということ。
もちろん、守ろうという気持ちはいまもまったく変わりません。にもかかわらず時間がどんどん足りなくなり、ふと気がつけば、守りきれない締め切りの狭間で溺れかけていたわけです。そのため余裕を失ってしまい、焦りのなかで必死に読んで書いているというような、そんな状態。
そのため、このサイトの担当者にもたいへん迷惑をかけてしまっているのですが、だとすれば「締め切りは守らなくて当然」と公言する人のことをとやかくいうこともできないはずで……。
しかしそれは、やはり健全ではありませんよね。
だから、なんとかしなくちゃいけないんだけど、どうしたらいいものか。
そんなことを考えているときにたまたま出会ったのが、今日ご紹介する『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット ―フランス人はなぜ仕事と子育ての両立が上手なのか?』(国末則子:著/プレジデント社)。
著者は、新聞社に勤めていたものの、仕事と子育ての両立に悩んで退社したという女性。同じように悩んだ経験を持つ方は少なくないでしょうが、彼女はその後、ご主人の仕事の関係で、フランスに家族4人で暮らすことになったのだそうです。
計6年半に渡って滞在して驚いたのは、働く女性の多さだったのだとか。しかも子どもを幼稚園に送って行ったあとに出勤するフランス女性たちのライフスタイルからは、多くのことを学べたというのです。
つまり本書では、仕事も子育ても含め、著者の目に映ったフランス人の“普段の暮らし”を紹介しているわけです。
おそらく疲れていたからだと思うのですが、正直に白状すると、最初はそれほど興味をひかれたわけではありませんでした。海外で暮らした人が経験を綴った本は、過去にも少なからず読んだことがあったので、驚くほどの新鮮味があったわけではなかったということ。
でも読んでみたら、抵抗なくすっと引き込まれていくような感覚をおぼえました。文章のうまさも影響しているのでしょうが、著者の「無理をしない姿勢」が、文脈から伝わってきたからかもしれません。
そして「心豊かな日々を」とタイトルのついた第7章まで読み進めたとき、いまの自分に対するメッセージのようなフレーズを見つけました。
そこで紹介されていたのは、普段の暮らしのなかでも行列に並ぶことが多いフランス人の気質。スーパーのレジなどでも長い行列ができるものの、文句をいう人はおらず、みんな仲よさそうにおしゃべりしながら待っている。イライラした雰囲気にはならないというのです。
幸い、僕も行列に並んでイライラするようなタイプではありませんし、スーパーのレジに人が並んでいれば、自分もただそこに並ぶだけです。とはいえ、日々のスケジュールに追われて焦りと隣り合わせになっている自分を振り返ると、「行列に並んでイライラしている人と大差ないかもしれないな」と感じもしたのです。
次いで頭に浮かんだのは、「なぜ、自分はそこまで焦っているのだろう?」という疑問。もちろん締め切りを守れない自分に苛立っているからに決まっているのですが、そこで答えを出せていなかったわけです。
そんなとき、次のようなフレーズが目に飛び込んできました。そしてそれは僕に、忘れかけていた大切なことを思い出させてもくれたのでした。というわけで、今回はそれを「神フレーズ」としてご紹介します。
日本をよく知るフランス人が言っていた
「日本人は失敗したらダメだと考える。フランス人は、失敗したらやり直せばよいと考える」。
フランス人には、楽観的で寛大な面もあるのだろう。
(209ページより)
たしかに、日々の仕事に追われながら、失敗を恐れるからこそ、焦燥感や苛立ちも増してくるのかもしれません。でも、それでは意味がありませんよね。だから、しっかり記憶しておこうと思います。
『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット ―フランス人はなぜ仕事と子育ての両立が上手なのか?』(国末則子:著)