はじめての「家庭菜園」

はじめての「家庭菜園」


これは、モノを手放し、身も心も身軽になったミニマリストが、「やりたいこと」に挑戦していくお話。

ぼくは明日死んでしまうかもしれない。
だから「やりたいことはやった」という手応えをいつも持っていたい。

いざ、心の思うままに。

 

男が畑をはじめる時

おっさんになって初めて、植物を育てることに興味を持つ人間が多いのではないだろうか?
若い頃には興味のなかった、田んぼや畑仕事。汚れるし買ったほうが手間がかからない、割に合わない仕事。おっさんになってくると、それがなぜだかとても魅力的で、意味ある行為に思えてくる。

俺の仮説は、太古から狩りの第一線から引く年齢になった男たちは、田畑で植物を育てる側にまわったのではないかということだ。まぁ畑仕事も重労働なんですけどね!

俺も何かを育てたいという気持ちがむくむくと湧いてくる。どうせなら食べられる野菜がいい。自給率を少しでもあげたいじゃないか。プランターでももちろんいいのだが、せっかく土のある田舎に住んでいるのだから直接植えたい。近くに住む方に頼み、使われていない土地に野菜を植えさせて頂くことなった。

といっても、完全なド素人。とりあえず書店に駆け込み、土のこと、光合成のことなど知識を溜め込もうとする俺。農業は奥が深い。化学、生物学、歴史、地理……学ぶべきことには底がない。方法論はたくさんあるし、どれかが唯一の正解というわけでもない。

だが俺は、以前長野県で見た、自然農の畑に魅せられていた。

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耕さず、草も虫も敵としない。もちろん無農薬で必要なモノも少ない。「たくさん取らない」というテーマにも惹かれた。何より草と共生している畑の美しさにすっかりヤラれてしまったのだ。

 

いきなり素人にはハードル高そうだけど、やりたいのは自然農。志だけは高くまとまった俺は、自然農に的を絞り、あらためて机上の勉強を始めた。

 

しかし自然は待ってくれない。夏野菜はゴールデンウィーク頃に植え付けるということだけは朧気ながらわかった。ホームセンターで見かけていた苗もそういえば、いつの間にかほとんどなくなってるね! これではイカンということで、検索してみると通販でも苗が売っている。よくわからないまま、楽天市場で見やすいショップを選び、ポチポチと苗を買っていく。なるべく育てやすそうな種類を、いきなりたくさんの面倒は見きれないだろうから、少しずつ。

 

導かれし者たち

 

そして届いた、選ばれし夏野菜たち。俺は点呼をはじめる。

「ミニトマト!」

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「おぅ」

 

「茄子!」

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「いっちょやってやりますか」

 

「ピーマン!」

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「ふぅ、待ちくたびれましたよ……」

集まったのは、13苗の戦士たち。俺はこの13苗の隊長なのだ。

 

「貴様らに集まってもらったのは他でもない。戦場は畑でもなんでもないこの痩せた土地。補給(肥料)はないと思え。そして貴様らを仕切るのは、これが初めての戦場となるこの俺だ!!」

 

「え……まじで」

苗が風に吹かれて、ざわついているように見える。無理もない。不憫な運命のめぐり合わせで、なぜだがド素人の隊長のもとへ、送られてしまったのだ。

戦士達は揃った。後は植え付け作戦だ。しかし、隊長はここでも迷ってしまったのだった。

・どういうのが、水やりが楽になる陣形かな?
・苗を植える間隔ってどうしたらいいの?
・野菜同士の相性なんかもあるよね。
・買ってきた苗だと、自然農じゃないかも? そもそも育った環境は?

などなど疑問は無限にわいてくる。いまかいまかと作戦を待ちながら、ただ待機させられる戦士たち。そうしているうちに、隊長は旅に出ることになり4日ほど戦場を離れることになった。まあみんな元気そうだし、しばらくは大丈夫でしょ、とタカをくくっていたのだ。

 

天候の花嫁

 

離れていたのでわからなかったが戦地では雨もふらず、日照りが続いていたらしい。
帰ってくると、ほとんどの苗が無残な姿になっていた。

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ピーマンに至っては、最期のちからを振り絞りひとつだけ実らせていた……泣ける。

 

……ここ数年は感じたことのないような後悔の念が襲ってきた。世の中の数ある問題には社会が悪かったり、上司が悪かったり、自分のせい以外のこともあるだろうが、こんなに100%自分が悪いことはない。アホで優柔不断な隊長のせいで、助けを求めることもできず瀕死にさせられた苗たち。

 

その後、賢明に水やりを行う俺に、通りがかった近所のおじさんは
「その苗、もうあかんで!!」
と絶望的な一言を残して立ち去る。

実際に息を吹き返したのは、一部の苗だけだった。俺は苗たちから学んだ。完璧を求めて、時期を逃せばすべてを失うのだと。失敗を恐れて、先延ばしにすることこそが何よりの失敗なのだと。

 

プッツンしてしまった俺は、残されたピーマンを生のままもしゃもしゃしながら、近所の園芸店で苗を買うべく走る!!

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先延ばしにしていた、土のPHも見よう見まねで測る!! 頼んだぞ「みどりくんN!!」

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鎌で草を刈る!!

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とにかく、植え付ける。 植える場所は勘で! 間隔も大体で! 一心不乱にスコップをふりかざす。

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申し訳ない、また失敗するかもしれないが、失敗しながら学ばせてくれ。先代の戦士たちの亡骸も一緒に植える。すまない、栄養となって生きてくれ。

それから朝に水やりをするようになった。雨も適度に降るのが日本の気候。植え付けると、また旅に出ることがあっても枯れてしまうようなことはなかった。

 

そして収獲へ……

 

そうして約1ヶ月。耕しもせず、肥料もほぼあげていないので成長はすこぶる遅い。安西先生がこの畑を見たら、

「まるで成長していない……」

と嘆いただろう。夏野菜は「1日ですごい成長する」「取れすぎちゃって困る〜」と聞いたりするので、そういうのを妄想していたのだが、今のところまったくその気配がない。しかし、それでも少しずつ成長が垣間見えたときは嬉しいものだ。

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茄子やバジルに花が咲いて、確かに生きていると感じる。

 

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ミニトマトはこんなふうに色づいていったり、ピーマンの実はこんな小さなものから大きくなるのだと知る。

 

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エゴマの種も植えてみた。出てきたかわいい芽が本当に愛おしい。

 

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自分が植えたバジルから、旅立っていった虫。バジルからとかおしゃれかよ。

仮にも自分で育ててみると、スーパーで簡単に売り買いされている野菜たちが、神々しく見えてきたりする。

 

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そしてはじめての収獲、ミニトマトを食べてみる。

自分で育てた初めての野菜。とびきり美味しいのを期待していたが、味は想像したとおりのミニトマトだった。が、いつもより味わって食べられる。しっかりとさきほどまで太陽を浴び生きていた味がする。

収獲はまだ、ミニトマト数個と、茄子数個。成長は遅く、自給率アップには程遠い。だが大きな一歩になってくれるはずだ。

 

肥料も水も足りなすぎれば枯れてしまうし、与えすぎても枯れる。これは人間も同じだろう。何かを育てることは、育てることを通して自らが学ぶこと。何より重要なのは、とりあえずやってしまうこと。そんな大事なことを教えてくれた13苗の戦士たち、君たちは俺とともにいつまでもあるのだ。

 

【家庭菜園のポイント】
・完成度よりタイミングが大事
・失敗しながら学ぼう
・種を蒔かねば始まらぬ


Written by sasaki fumio

作家/編集者/ミニマリスト 1979年生まれ。香川県出身。出版社3社を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、『Minimal&Ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(小社刊)は、国内16万部突破、22ヶ国語に翻訳される。新刊「ぼくたちは習慣で、できている。」が発売中。

»http://minimalism.jp/

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