第1話 鬼ヶ島再襲撃
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世の中のグレーゾーン、タブーに切り込む作家
森達也さんが、名作寓話をもとに現代の世相を斬る。
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スマホが震えた。
ディスプレイには顔写真のアイコン。
にやついた顔が大きすぎて、フレームから両頬がはみ出している。
久しぶりだな、とつぶやきながら、キジはスマホを耳に当てた。
「はい。恭一です」
「ご無沙汰だな。その後、どうだ」
甲高い声が耳に響く。
少しだけスマホを耳から離してから、「どうだと言われても」とキジは答える。
「……とりあえず、しがないフリーランスのディレクターで日々を過ごしています」
「鳥だからとりあえずか」
(笑)と語尾につけたくなるジョークを聞き流して、「先週テレビ朝日の仕事を終えたばかりです」とキジは言った。
「来週、空いているか」
いきなりだ。その後はどうだと質問しておきながら、桃太郎はキジの答えに興味を示さない。変わってないなとキジは思う。そもそも桃太郎は他人に興味がない。頭の中は自分のことでいっぱいだ。少し間をおいてから、「来週は空いています」とキジは答える。
「一緒に鬼ヶ島に行くぞ」
桃太郎は言った。
「鬼たちがまた増えている。そろそろ成敗しなければならない」
「…それは、ディレクターとして、ということでしょうか」