第2話 石のスープ
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世の中のグレーゾーン、タブーに切り込む作家
森達也さんが、名作寓話をもとに現代の世相を斬る。
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むかし、三にんのへいたいが、みしらぬとちをとぼとぼとあるいていました。
せんそうがおわり、ふるさとへかえるとちゅうだったのです。
三にんのへいたいは、まる二かかんなにもたべていなかったので、へとへとなうえに、とてもはらぺこでした。
「こんばんこそ、おいしいめしがくいたいぁ」と、一ばんめのへいたいがいいました。
「それからベッドでぐっすりねむりたい」と、二ばんめのへいたいもいいました。
「そんなこと、どだいむりなはなし。すすみゆくのみ」と、三ばんめのへいたいがいいました。
三にんがあるきつづけていると、ふいに、村のあかりがみえてきました。
「ああ、あそこでちょっとくらいたべものにありつけるかもしれないぞ」と、ーばんめのへいたいがいいました。
「なやのやねうらでねむれるかも」と、二ばんめのへいたいもいいました。
「だめでもともと、きいてみよう」と、三ばんめのへいたいがいいました。
そのようすを村のおとこがみていました。
おとこはさきまわりしてかえると、村じゅうのひとたちにつたえました。
「へいたいが三にんやってくる。ヘいたいはいっだってはらべこだ。でもやつらにめぐんでやるような、よぶんなものはありゃしない」
村びとたちは、いそいでたべものをかくしにかかりました。おおむぎのふくろは、なやのほしくさのしたにかくしました。ぎゅうにゅうがはいったバケツは、いどのなかにつるしました。にんじんがはいったきばこは、ふるいかけぶとんでおおい、キャベツとじゃがいもは、ベッドのしたのおしいれにいれ、ぎゅうにくのかたまりは、ちかしつのおくにぶらさげました。
これでたべられるものはぜんぶかくしました。
そうして村びとたちは、三にんのへいたいをまちました。
(『せかいいち おいしいスープ』マーシャ・ブラウン文・絵 こみやゆう訳、岩波書店)
村の入り口の手前で一番目の兵隊が立ち止まった。
横を歩いていた二人も足を止める。
「そこの大きな樫の木の梢に監視カメラが設置されている」
兵隊が言った。梢を見上げながら、二番目の兵隊がうなずいた。
「この村は戦争でだいぶひどい目にあったのだろう」
「まずいな。セキュリティ意識が高揚している」
三番目の兵隊が入り口の門に貼られたステッカーを指で示しながら言った。
ステッカーにはこちらを睨みつける大きな目と、「特別警戒実施中。当村はテロを絶対に許しません」というフレーズが書かれている。
「俺たちはテロリストではない」と二番目の兵隊が言った。「だいたいテロを許す村なんて世界のどこにあるんだ」
「特別警戒が慢性化するならそれは特別ではない」
そう言ってから吐息をつく一番目の兵隊に、三番目の兵隊が「手ごわそうだな」とつぶやいた。