第2話 石のスープ
いつのまにか集まってきた村人たちは、材料を多く提供すれば多く分け前にありつけるかもしれないと考えて、ワイワイと騒ぎながら大あわてで家から味噌やハムやパンなどを持ってきた。
「おい、それは何だ」
「昼に食べ残したチキンよ」
「おらの家には玉ねぎが余っていた」
「ニンニクはどうだ」
「赤カブも入れようぜ」
「豆板醤どうかしら」
「やっぱり出汁は煮干しだよ」
たっぷりと具や調味料が入った石のスープを、二番目の兵隊はゆっくりと味見をした。集まった人たちは固唾をのんでその様子を見つめる。
しばらく沈黙してから、兵隊は言った。
「完璧です」
人々は大喜び。早速家から皿とスプーンを持ってきた。みんなで分け合って石のスープに舌鼓を打ちながら、「こうやってみんなで集まるなんて久しぶりだべ」「まあ奥さま、しばらくお会いしなかったらずいぶんお痩せになって」「最近は陽が落ちるとみんな家の中に閉じこもってしまうからな」などと話し込んでいる。
「あなた何を飲んでいるの」
「おお。それはワインか」
「焼酎もあるべ」
「こんなおいしいスープは久しぶりよ」
「パンとチーズを持ってきたわ」
「こっちにもワインをくれ」
見上げれば空は、降るような満点の星空だ。食事は一人よりも多人数で食べたほうが美味しい。家の中よりも外ならばなお美味しい。ワインですっかり酔っぱらった男は木刀を投げ出して、「今夜はうちで泊まってくれ」と兵隊たちに言った。
「よろしいのですか」
「スープの礼だ」
「ありがとうございます」
こうして石のスープは、この地方の代表的な料理になった。ただしこの夜以降、村の監視カメラや立札がなくなったかといえば、もちろん現実は簡単ではない。いったん火が付いたセキュリティ意識は、なかなかなくならない。
でも少しずつ、何かをきっかけに人は変わる。とにかくその夜、三人の兵隊は上等な布団でぐっすりと休むことができた。
よくあさ、村びとぜんいんが三にんのへいたいをみおくりにひろばにあつまってきました。
「あなたがたにはおおことをおしえてもらった。なんてれいをいったらいいだろう」と、村びとたちはいいました。「これからわしらはもうたべものにこまることはない。だって、石からスープをつくることをおぼえたんだから」
「なあに、ちょいとあたまをつかえばいいのです」
三にんのへいたいはそういって、村からとおざかっていきました。
あんなにかしこいひとたちは、ここらあたりにゃいやしない。
(前掲書)
(イラスト 鈴木勝久)