昭和の味

昭和の味


新年号に変わった今年のゴールデンウィーク、令和になって初めての外食は家族揃って、千駄ヶ谷にあるCHACOあめみやにステーキを食べに行った。

建築中の国立競技場のほど近く、創業は今から40年前の昭和54年。肉を焼く煙で燻されていい感じに深みを増した煉瓦の壁と温かみのある光のランプに、鮮やかな白のテーブルクロスと使い込まれて渋い光を放つカトラリーと、今では珍しい昭和の風景が広がっている。

備え付けの暖炉で焼かれたステーキが熱々の鉄板に配られ、パセリ入りのバターに卓上の醤油とおろしにんにく、からしを駆使して各自好みで味付けして食べる。やわらかくジューシーな赤身肉をライスと一緒に頬張れば至福のひとときが待っている。
千駄ヶ谷付近は来年に迫った東京オリンピックのために再開発が進んでいるが、ここだけはいつも温かな昭和の空気が流れている。

私自身、昭和生まれだからか、ほっと落ち着くのはどこか懐かしい空間だ。
普段よく打ち合わせで利用しているのが、喫茶店の銀座ウエスト。ゆったりと配置されたテーブルに並ぶのは端正な切り口が美しいサンドイッチ。ケーキ類にもシルバーのフォークとナイフが添えられ、紅茶やコーヒーはお代わり自由という親切さだ。サービスの女性たちも薄化粧に髪をきれいにまとめ、白シャツと紺の制服で清潔感にあふれている。

こんな場所で打ち合わせすれば、少しはまともなアイディアがうかぶのではないかとサンドイッチをつまみながら考える。

料理も実家の母譲りのレシピは昭和を感じさせるものがいろいろある。
例えば、十八番の白いソースのビーフストロガノフ。牛の赤身に小麦粉をまぶし、スライスした玉ねぎとマッシュルームと一緒にバターで炒め、ブイヨンを注いでとろみが出たら、サワークリームを加えて仕上げる。

洋食屋さんでよく見かけるこってりとしたドミグラスソースではなく、まろやかな酸味のあるサワークリームを使っているのがポイントだ。元々はロシア料理だからだろうか、サワークリーム仕立ての白いソースのほうがしっくりくる。

そういえばチキンアドボなるものもあった。その当時はどこの国の料理かわからなかったけれど、今調べてみるとこちらはフィリピンの料理らしい。

鶏モモ肉をたっぷりのにんにくと黒胡椒、酢と醤油で柔らかくなるまで煮込んだものをにんじん入りのピラフと一緒に供する。酢のおかげでほろりと柔らかくなった鶏肉は酸っぱさよりもコクが増し、ごはんとの相性も上々。これからの季節に食べたくなる爽やかで味わい深い煮込み料理だ。

ミートボールスパゲティ。こちらはディズニー映画の「わんわん物語」で主人公のトランプとレディという二匹の犬がスパゲティの両端から食べていって最後はキスをする可愛らしいシーンが有名だが、その映画を観たからなのかどうか、子どもの頃、母が作るのはミートソースではなく、なぜかミートボールだった。

子ども心にミートボールではなく、ミートソースが食べたいと思っていたのだが、なぜかわざわざひと手間かけたミートボール。ミートソースは外食したときだけのお楽しみだったのが今思い出すとおかしい。

そう考えると母が今日は特別と張りきって作る料理は、外国風の家庭料理のような気がする。他にもにんじんのポタージュにジャーマンポテトにボルシチなど…。

でもなじみのない国々の料理をなぜ、作っていたのか、そもそも本当にそれで合っているのか。
チキンアドボを作ったとき、うちでも実家の母が作っていたという友人の声を聞いた。その頃はそれがどこかハイカラでおしゃれな料理として流行っていたのだろうか。

今ではイタリアンやフレンチはもちろん、インド、ベトナム、台湾とどの国の料理も現地に忠実なレシピでつくることができるし、調味料なども探せばすぐに手に入れることができる。青菜の煮浸しや茶碗蒸し、炊き込みご飯など和食のレシピも教え込まれたのに、今でも実家譲りのスペシャリテとして無性に食べたくなる、そして繰り返し作りたくなるのは昭和生まれのそんな「なんちゃって」外国料理なのだ。

 

*次回は6月10日(月)更新予定です。

 

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Written by ariko
ariko

CLASSY.、VERY、HERSなどの表紙やファッションページを担当する編集ライター。日々の食卓をポストしているInstagramが、センスあふれる美味しそうな写真と食いしん坊の心を掴む料理で話題に。現在、フォロワー数は98000人を突破。Instagram@ariko418

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