【山崎育三郎さん・特別インタビュー】 自叙伝『シラナイヨ』の電子化、そして、まさかの職務質問!? 多彩なフィールドで活躍中の山崎育三郎さんが語る“知られざる素顔”とは?


連続テレビ小説「エール」では、その圧倒的な歌唱力でお茶の間をアッと言わせ、ドラマや映画に音楽、そして本業であるミュージカルと多彩な活躍を魅せる、歌手で俳優の山崎育三郎さん。まさに人気絶頂のスターとして多忙を極める彼に、自叙伝『シラナイヨ』(小社刊)の電子化、コロナ禍における想い、そして“知られざる素顔”について、特別に語っていただきました!

「自叙伝」の出版がもたらした “変化”とは?

――まずは、自叙伝『シラナイヨ』の電子化、おめでとうございます。刊行は2016年、ちょうど30歳になられた頃でした。この本にまつわる思い出はありますか?

山崎:ありがとうございます。『シラナイヨ』の制作でよく覚えているのは、写真撮影のために訪れた千葉で、温泉に入ったことですね(笑)。海での写真撮影があったのですが、熱中しているうちにずぶ濡れになってしまって……。編集の方と「とりあえず、お風呂に入ろう!」という話になって、温泉に寄ったんです。

――自叙伝でありつつ、ビジュアルも充実した一冊になっているのは、そんな撮影のご苦労があってこそ、ですね(笑)。また、初のご著書ということで、何か特別な想いはありましたか?

山崎:とにかく「自叙伝」を30歳で出版させていただくことに、どこか恥ずかしさがありましたね。「本当に、自叙伝でいいんですか?」と、何度も編集さんに聞いて……(笑)。ただ、普段の生活のなかでは、なかなか自分の“これまで”を振り返る機会なんてありませんし、制作自体はとても有意義で、楽しかったです。

――では、『シラナイヨ』を出版されたことで、ご自身の中でも、何かしら変化がおありになったのでは?

山崎:そうなんです。まさに今の活動にもつながっていくのですが、「映像」という世界に飛び込んでいく上での、大きな力、礎になりました。本を出版するまでは、とにかくミュージカルばかりの人生でしたが、ちょうど事務所が変わったこともあって「さあ、映像の世界に飛び込んでいくぞ!」というタイミングだったんです。そこで、ちょうど自分の30年の人生を振り返ることができたわけですから、まさに一区切り。自分の中の「第2章」がはじまる、といった感覚がありましたね。

素顔のまま「自分らしくいること」だけを意識して……

――まさに、その「第2章」が花開き、いま、多忙を極めていらっしゃる最中かと思いますが、ご自身では今のご活躍をどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか?

山崎:おかげさまで、朝ドラをはじめとするドラマに出演させていただいたり、帝国劇場で司会をさせていただいたりと、少し前の自分であれば想像もつかないようなお仕事ばかりなのですが、とにかく毎日がめまぐるしくて。「帝劇の真ん中にいるんだ!」「朝ドラに出演している!」「こんなステージのシーンを任されている!」などなど、一つひとつの現場で“感動”に浸りたいところなのですが、なかなか浸りきれないことがもどかしいですね……。

――これだけ売れっ子でいらっしゃれば、仕方がないことのようにも思います……。 

山崎:実は、自分ではそういう意識があまりないんですよ。でも先日、「1億人の大質問!?所さんの笑ってコラえて!」に出演させていただいたとき、VTRで一般の方々が自分のことを認知してくださっているのを見て、「あ、僕のこと知ってくださっているんだ!」と、はじめて認識したかもしれません。なにしろ、子どものときから観ている番組でしたし、とくに感慨深いものがありましたね。

――ご自身のメンタル面では、どのような変化がありましたか?

山崎:それが、これは自分の長所でもあると思うのですが、精神面での抑揚があまりないんです。これだけお仕事をさせていただいて、常に何冊もの台本がカバンに入っていて、歌の練習も欠かすことはできない……。そうすると、もう少し追い詰められてもいいような気がするのですが(笑)、仮に追い詰められたとしても、それが表情や態度に出ることがないんですね。いつも、平常心。「なるようにしかならない」と思っていますから。

――ドラマにミュージカルにバラエティと、これだけ多彩なフィールドでご活躍されていらっしゃると、緊張に次ぐ緊張で、どこか自分を見失うようなことはありませんか?

山崎:それがですね、僕はあまり緊張しないんです。自分でも「なんでかな?」と考えてみるのですが、おそらく緊張って、自分をよりよく見せようとしたときに「ドキドキ」っと陥るものですよね。自分には、それがないんです。結果的にダメでもいいからと、とにかく素顔のまま「自分らしくいること」だけを意識しているからかもしれません。あとは、たとえ朝ドラや帝国劇場のような大きなお仕事でも、基本的に「だから、なんだ!」と思える強さを持っていようと、自分自身の中で心がけていますね。

――それは、まさに「何がきても、このラインは超えられる!」というご自身の“準備”ができていらっしゃるからでは。

山崎:そうですね。まさに“準備”という部分は大きいかもしれません。僕たちの仕事は、「お疲れ様でした!」と仕事を終えて、帰ってからが勝負なんです。台本を覚え、パフォーマンスの準備をして……。言い換えるなら、一人の時間こそが、いちばん大変な“仕事”なのかもしれませんね。

まさかの、職務質問の理由とは!?

――台本は、ご自宅で覚えられるのですか? なにか、山崎さんの日々のルーティンのようなものがあれば、お教えください。

山崎:実は、自宅では台本を覚えないんです。もっぱら、スタジオや車のなかですね。そういえば、つい先日、近くの公園脇の駐車場に車をとめて朝ドラの台本を覚えていたときに、職務質問をされまして……。24時をまわっていたからかもしれませんが、パトカーが来たと思ったら、「何をしているんですか?」と。仕事だと説明したのですが、「免許証を見せて」と言われたので免許証を出したら、警官の表情が変わったんです。結果的には、「おお、仕事でしたか! いつも観ています。頑張ってください!」と応援していただきました(笑)。

――それは、まさかの珍事でしたね(笑)。まさに、あらゆる分野の方が山崎さんを認知し、注目しているという、思いがけぬメッセージだったのかもしれません……。では、話題を少々変えまして、このコロナ禍における山崎さんの自粛期間の過ごし方や、意識の変化についてお聞かせいただけますでしょうか。

山崎:もちろん世間的には大変なことではあるんですけれども、一方で、ずっと仕事一筋に突っ走ってきた自分としては、ふと我にかえる時間ができたことは不幸中の幸いでした。また、ちょうど自粛期間となった4月に、「shows at Home」というプロジェクトの一環で、ミュージカル「レ・ミセラブル」を代表する曲「民衆の歌」をリモートで作成してYouTubeにあげたんですよ(※注:山崎さんをはじめとするミュージカル俳優や歌手36名が「民衆の歌」をリレーで歌い継いでいくというもの。オンラインならではの豪華共演が話題に)。上山竜治さんからお誘いを受けて、「何か、自分たちでできることをやりたい!」と考えついたプロジェクトでした。そこで、僕が直接ミュージカル俳優のみなさんに電話をしまして……。1カ月くらい、ずっと誰かと「このパートを是非!」なんて電話をしていたのではないでしょうか。忘れられない、自粛期間の思い出のひとつですね。

――まさに、逆境にある多くの人々を励ました、素晴らしいプロジェクトでしたよね! 今だからこその歌の力、芸術の力をあらためて感じました。そのあたりについて、山崎さんはどのようにお感じでしょう。

山崎:もちろん、言葉でなにかを伝えることは大事ですし、必要なことですよね。でも、音楽にはそれらを圧倒的に超えてくる“瞬間”があるんですよ。ミュージカルの魅力も、まさにそこにあります。お芝居の中で大事なところを音楽にのせて伝えることで、セリフとしてただ喋る以上に、観る人へ何かが伝わっていく……。音楽の力って、本当にダイレクトなものですよね。朝ドラで僕が演じる人物の“これから”にもぜひ注目をしていただきたいのですが、やはり、音楽で救われる人は少なくないと思っています。

――おっしゃる通りだと思います。

音楽を通じて、たくさんの人に寄り添っていきたい

山崎:いまのコロナ禍だからこそ、「音楽って、必要なものなんだ」ということは、肌で感じていますね。それには、どこか“変わらないもの”を求める部分もあるのかもしれません。もちろん、逆境の中で「みんなで頑張っていこう!」というメッセージも大切なのですが、音楽って、普遍的なものですよね。たとえば、僕にとっての音楽とは、自分がどんな状況にあろうとも「いつも、やさしく自分に寄り添ってくれるもの」。嬉しい時も悲しい時も、常にそばにあって励ましてくれるんです。もちろん、僕はその音楽を“発信”していく立場でもありますから、今だからこそ、たくさんの歌を届けていきたいですし、寄り添っていきたいと思っています。

――山崎さんご自身が音楽に救われつつ、大勢の人々を音楽で救うお立場でもあるわけですね。

山崎:朝ドラで窪田正孝さん演じる主人公のモデル・古関裕而さんは、甲子園の夏の高校野球大会のテーマソング「栄冠は君に輝く」を作曲された方なんです。そして、歌うのは僕が演じる人物のモデル・伊藤久男さん。『シラナイヨ』にも書いていますが、僕は小さい頃はずっと野球少年でしたので、「栄冠は君に輝く」といえば、個人的にも思い入れのある曲なんですよ。ですから、偶然にも演じる役柄とリンクするかたちで「栄冠は君に輝く」という曲に励まされているところなんです。

――たしか、高校生とコラボレーションで歌われていましたよね?

山崎:そうなんです。古関裕而さんの母校である福島商業高校の吹奏楽部のみなさんとリモートでコラボレーションさせていただいたんですよ! もともとは福島県のホールで吹奏楽部の演奏に合わせて僕が歌うというコンサートが予定されていたのですが、これがコロナの影響でなくなってしまって……。それでも、吹奏楽部のみなさんが「山崎さんに聴いてもらいたい!」とリモートで自主的に演奏した「栄冠は君に輝く」の映像を送ってくださったんです。それにいたく感動しまして、「僕も歌いたい!」とリモートで歌った映像をみなさんに送り返しました。結果的に、圧巻のコラボレーションとなり、僕のなかに大きく熱いものが残ったんですね。いまの僕にとっては、ある意味でテーマソングのようになっています。

――山崎さんの歌声に救われた人、そして、これから救われるであろう人が、世界中にいるだろうと思います。ぜひ、音楽という「エール」で多くの人を救ってください。今後のご活躍にも、期待しています。本日は、ありがとうございました!

山崎:あくまでポジティブに、たくさんの音楽をお届けしていきたい、寄り添っていきたいと思っています。こちらこそ、ありがとうございました!

 

\電子版は本日発売!/
シラナイヨ』山崎育三郎:著

 

 

山崎 育三郎Ikusaburo Yamazaki
1986年1月18日生まれ。東京出身。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。以降、ミュージカル俳優として活動。2015年、ドラマ『下町ロケット』(TBS)で一躍注目を浴び、その後は多くのドラマにも出演。2016年には、初の著書となる自叙伝『シラナイヨ』(小社刊)を出版。2020年春にはNHK連続テレビ小説『エール』に出演。主人公(窪田正孝)の幼なじみで、歌手になる佐藤久志役を演じ、劇中で歌声を披露して話題を呼ぶ。