
土鍋で炊くごはん
ストックしている米が底をついて、スーパーに買い出しにきたら、ちょうどタイミングよく今年の新米が出ていた。赤いシールに白抜きになった新米の文字が誇らしげにアピールしている。新米の文字を見ると人はどうしてこんなに胸躍るのだろうか。炊きたてのつやつやを頬張って、「あー! 日本人でよかった!」と目を閉じて天を仰ぐのはこの季節ならでのこと。
いつもは炊飯器や厚手の鍋で炊くことが多いのだが、秋風が吹き始めると手に取るのはやっぱり土鍋だ。和食屋さんで〆に出されることが多い土鍋ごはん。
料理人がうやうやしく蓋を開けると湯気とともに季節の具材があしらわれた贅沢な炊き込みごはんが現れて歓声が上がる。こっくりとした飴色の土鍋にまっ白の白米がよく映えることといったらない。それに保温性の高い土鍋で炊いたごはんはいつまでもほかほかと温かいのがいい。
いろいろなものがあると思うが我が家で愛用しているのが伊賀の里にある土楽窯のもの。片口タイプの口付黒鍋と土楽窯の名物といわれる薄型の魚手黒鍋に、翡翠色のひとり用の小さめタイプと縦長のポトフ鍋も。あまりの便利さにどんどん増えてしまった。
土楽窯の土鍋は熱に強い特性を持つ伊賀の土を使って高温でしっかりと焼いているのでとても丈夫だ。米を炊いたり、鍋ものをつくるのはもちろん、ステーキを焼いたり、蓋をしめてローストしたりと使い勝手もいろいろ。
以前、土楽窯を取材する機会があり、土鍋についていろいろと話を聞き、その高機能ぶりに驚かされた。土鍋を直火にかけ、じゅうじゅうと肉を焼く様子を実際に目にして信じられない思いがしたのを覚えている。
土鍋で焼いた牛肉や鴨肉はしっとりと柔らかくてジューシー。それまで土鍋で肉を焼くなどという発想がなかったが、正しい使い方をすればもっと土鍋の幅が広がることを実感させられた。それからはハンバーグを焼いて、そのあとドミグラスソースと野菜ジュースを合わせて作る煮込みハンバーグもすっかり我が家の定番になった。
肉を焼いても野菜を蒸しても美味しい土鍋だから、それこそ米を炊くのはお手のもの。そこで改めて、土鍋ごはんの美味しい炊き方をご紹介してみたいと思う。
まず、土鍋で炊くときの米はよく浸水させること。その際は土鍋に入れてではなく、別のボウルで浸水させること。必要以上に土鍋が水気を含むのを防ぐことができるという。
しっかりと浸水させた米を土鍋に入れて、水は400~420mlと炊飯器よりも少し多めに。蓋をして、中火から強火でまず沸騰させる。時間にして8~10分くらいだろうか。赤子泣いてもふた取るなともいうが、沸騰したかどうかふたを取って確かめるぶんには全く問題ない。それよりも気をつけたいのがふたに付いた空気穴はそのままにせず、丸めたキッチンペーパーでしっかりふさいでおくことが大切だ。
湯気が抜けすぎることを防いで、鍋内の圧力を保つことができる。ペーパータオルのかわりに空気穴に菜箸を刺して炊く人もいるそうだ。
さて沸騰したら、火を弱めて12~13分ほどそのまま加熱する。鍋の縁から上がる湯気が見えなくなって、鍋に耳を近づけてパチパチと小さな音がし始めたら炊き上がりだ。最後に10秒ほど再び中強火にしてから火を消し、10分ほど蒸らせばピカピカの銀シャリが炊き上がっているはず。しゃもじでさっくりと混ぜ合わせれば幸せなひとときが待っている。
基本の白米が炊けたら、炊き込みごはんもいろいろ炊いてみたい。今の時期ならやっぱり松茸。ちょっと贅沢だが、家で炊く松茸ごはんは格別。家族が大喜びすること間違いなし。国産には手が届かなくても、少しだけお手頃な外国産なら手に入りやすい。先日もカナダ産で作ってみたら、香りもよく、十分満喫することができた。
松茸は香りが落ちないように洗わずにぬれタオルなどでさっと汚れを拭いてから、石づきを包丁でこそげ落とし、スライスする。そのままでもいいが、さっと熱湯をかけて油抜きした油あげを細かく刻んだものを加えるとコクがでる。2合の米に360ml の出し汁(水に顆粒のだしの素でも)、酒大さじ2、醤油小さじ2、塩小さじ1を加えて油揚げと松茸をのせて、白米と同じように炊く。最後に中強火にするときにもう少し長く加熱すればおこげもできる。
ほかにも栗やさつまいもを炊きこむのもこの時期ならではの楽しみ。
その際は醤油をつかわず、水に酒と塩だけでシンプルに。そのほうが甘さが引き立つような気がする。その代わり炊き上がりにバターをひとかけら落として、ごま塩をかけてカッコめば箸がとまらないはず。栗といえば、もち米を使って炊く中華風のおこわも土鍋で炊くことができる。甘くてモチモチでたまに食べたくなる。
もう旬が過ぎてしまったが、とうもろこしやたけのこで作っても最高に美味しい。
炊きたての白米に炒めた具をのせるのっけめしも炊き込みごはんとはまたひと味違う美味しさ。ひと口大の色紙切りにしたエリンギとさっと湯通しした豚バラ肉をバターと少々のにんにくをバター炒めにして最後に塩胡椒、醤油で味付けしたものは松茸ごはんに負けないほどの人気ものだ。これは豚バラの代わりにベーコンでもいける。
ほかにも薄く衣をつけて揚げ焼きした牡蠣と万能ねぎや、香ばしく焼いた秋刀魚と梅干し、春になればやわらかくみずみずしいキャベツとグリーンアスパラ、そこにたけのことコク出しのコンビーフを合わせたものも。
具材を後のせする場合には水の代わりにだし汁で炊いたもののほうがしっくりとなじみやすい。
炊けば炊くほど土鍋ごはんは上手に炊けるようになる。鍋ものをするときだけでなく、ふだんの食卓に登場させてはどうだろう。
*次回は11月9日(月)更新予定です。
『arikoの食卓』