
2日干した大根
寒さが厳しくなるにつれて冬野菜が美味しくなる。白菜やほうれん草などの葉物はもちろん、大根もずっしりと水気を含んで甘くみずみずしくなる。今年はとくに豊作とのニュースをあちらこちらで聞く。
なかでも大根は生でよし、煮込んでよし、しかも保存も効く優等生。旬の時期以外はその重たさにひるんで1本買うのをためらっていたものを、この時期はその美味しさに負けて、よいしょと丸ごと買ってきたものを新聞紙にくるんで室内でも寒い屋上北側のパントリーに置いておく。
大根があると何かと使えてとても便利だ。生のままなら、大根おろしにしてしらすや茹で野菜と和えたものは毎日食べても飽きない。細く刻んでおかかや帆立の水煮缶で旨みを補ったシンプルなサラダ、一度塩を振って水気を絞ってから甘酢に漬けてもとても美味しい。おみそ汁なら、細切りにしてごま油で炒めてからだしで軽く煮て味噌と溶き入れたものは実家の母譲りの味だ。ごま油で炒めることで大根の独特の臭みが消え、コクがぐんと増す。
大きく乱切りにして骨付きの手羽先や牛のすね肉とこっくり煮込んだものも寒くなると作りたくなる味だ。
大根のサラダも定番だが、先日行きつけの和食店「池尻 浅野」で頂いた「2日干した大根としらすのサラダ」がとても美味しかった。調理場を囲む8席ほどのカウンターでご主人の浅野さんがひとりで切り盛りするのを眺めながら旬の素材を使った気の効いた一品がいただけるお店で、アイデアをもらうことも度々。
さてこの大根のサラダだが、メニューで見たときは「2日干した大根?」とイメージが湧かず、食べてみたいと思わなかった。それがおまかせコースのなかに組み込まれているものを食べてその美味しさに驚いた。皮をむいて3~4ミリほどのイチョウ切りにされた「2日干した大根」は生のままのものよりも少し口当たりがしっとりしていながら、さくさくとしてなんとも小気味よい。
みずみずしさは残しながら甘さも増している。干した大根と聞いてなんとなくかさっと干からびたイメージだったのだが、考えていたものとは全く違った。
店主の浅野さんいわく、皮のままころがしておくだけとのこと。
その2日間でほんの少し味が凝縮したような感じだろうか。これならすぐに真似できる。計らずしも家にそのまま転がっていた大根がある。すぐに試してみたくなった。
早速、同じように皮をむいてイチョウ切りにしてボウルに入れ、釜揚げしらすと合わせておろし玉ねぎを加えた和風ドレッシングで和えてみた。
仕上げに塩をぱらっと振って食卓に出してみたら、あっという間に売り切れた。2日干した大根は2日過ぎてもしばらくは楽しめる。1週間くらいは美味しく頂ける。これからは生で食べるときはあえて2日寝かしてからが定番になりそうだ。
同じ大根でも切り方を変えるとまた違った味が楽しめる。最近気に入っているのはピーラーを使って、薄くリボン状にする切り方。一本の半分くらいの長さがちょうどいい。皮をむいてからシュッ、シュッと剥いて行くとあっというまに山盛りになる。それを使った鍋が美味しい。
例えばだし汁に砂出ししたあさりと酒をたっぷり加えたものにリボン状の大根と豆腐を加えた湯どうふ。あっという間に火が通ってしゃきしゃきとした歯触りが楽しい。タレはポン酢でも、鰹節に刻んだ長ねぎと青のり、卵の黄身に醤油を加えたものでも。池波正太郎の料理帖にも出てくるちょっとオツな味わいを楽しめる。
もう一品はカレー鍋。こちらもとても簡単。だし汁に市販のカレールーを溶かしこみ、みりんと醤油を少々。そこに豚バラの薄切りとリボン状の大根を加えてひと煮立ちしたところに、牡蠣や青葱をさっとくぐらせて食べる。好みで黒七味をかけてもぴりりと引き締まって後を引く。
2日干した大根のサラダ
<材料>2~3人分
大根 8~10㎝
しらす 大さじ4
玉ねぎドレッシング 大さじ2
黒七味 少々
塩 少々
作り方
1 大根は皮のまま2日間放置する。
2 1の大根の皮をむいて、2~3mmの厚さのイチョウ切りにする。
3 ボウルに大根としらすを入れ、玉ねぎドレッシング大さじ2を加え、さっくりとあえる。
4 うつわに盛りつけ、塩と黒七味をふる。
玉ねぎドレッシング
<材料>作りやすい分量
玉ねぎ 1/4個
米酢 大さじ2
醤油 大さじ1/2
だし醤油 大さじ1
砂糖 大さじ1/2
塩 少々
胡椒 少々
米油(もしくは太白ごま油)大さじ3
作り方
すべてをフードプロセッサーにかける。もしくは玉ねぎをおろしてドレッシングの材料に混ぜ込む。
*次回は1月11日(月)更新予定です。
『arikoの食卓』