【INTERVIEW】映画『ONODA 一万夜を越えて』で主人公・小野田の青年期を演じた遠藤雄弥に作品について話を聞いた。

【INTERVIEW】映画『ONODA 一万夜を越えて』で主人公・小野田の青年期を演じた遠藤雄弥に作品について話を聞いた。


10月8日より公開となる映画『ONODA 一万夜を越えて』。太平洋戦争終結後、終戦を知らずに約30年間フィリピンの島で孤独に生きていた小野田寛郎の物語を綴った今作で、遠藤雄弥は、主人公の小野田の青年期を演じた。フランス人のアルチュール・アラリ監督と共に、作品にどう向き合ったのか、話を伺った。

撮影/山下深礼(PROGRESS-M) 文/渡邊美樹


――作品を拝見しました。監督がフランス人であるアルチュール・アラリ監督というのもあったと思いますが、日本人が描く戦争映画とは少し雰囲気が違って、人間ドラマの方にフューチャーして描かれている印象がありました。
「そうですね。まさにおっしゃる通りで、歴史的事実を忠実に再現して伝えるというよりかは、観る方々に問いかけるようなタッチというか、僕も最初にシナリオ読んだ時にそう思いました。歴史的事実を伝えたいというよりかはそっちなのかなと」

――オーディションの段階で脚本をご覧になられたんですか?
「はい。もうオーディションの時にはシナリオは完成していて、オーディションの前に読んできてくれということで脚本を拝見しました。それまで僕、小野田寛郎さんのことを全然知らなくて、そのシナリオ読んで初めてこんな方がいらっしゃったんだって衝撃がありましたけど」

――シンプルに驚きますよね。
「そうですね。これが事実なんだと驚きました。そして、これをフランス人のクリエーターが映画にしようと思ったのが凄く興味があったというか」

――オーディションは、直接監督と対面して行なわれたんですか?
「そうなんです。ちょうど監督が来日されている時に実際にお会いして、監督から言って頂いたシーンを実際に監督の前で演じてディスカッションするみたいな感じでした」

――オーディションの時、自分が抜擢されるっていう感覚はあったんですか?
「いやー、このオーディションに限らず、これまで(オーディションを)何千回と受けて何千回と落ちてるので、やっぱりそんな簡単に受かるもんじゃないっていう気持ちはありました。でも、オーディションで監督とディスカッションした時間が凄く心地良くて、芝居を見る集中力がホントに高いというか…。だから、オーディションの時から、アルチュール監督と映画を作ることが出来たら凄く幸せなんだろうなとか、自分のポテンシャルをより引き出して頂けるような、そんな気持ちになりました」

――オーディションの時から監督に対して、期待感があったんですね。
「もうホントに素晴らしいクリエーターだなと、オーディションの時点で思いました。この人とやりたいって強烈に思いましたね」

――小野田さんは実在された方ですが、遠藤さんは小野田さんについて資料見たりしてある程度調べられてから臨まれたんですか?
「そうですね。小野田さんご自身が書かれた文献などを読みました。ただ、監督が小野田さんを忠実に描きたいというよりかは、ひとつのモチーフとして描きたいんだってとおっしゃっていたので、心と頭の隅に小野田さんについての情報を置いておくというか、ここぞという時にそれが少し滲み出たらいいなくらいな感じで考えていました」

――なるほど。今作では、会話を描くシーンが印象的だと感じました。監督からはどんな演出があったのでしょうか?
「監督からは、“新しいものが見たい”っていうオーダーが多かったです。共同脚本で、監督も脚本制作に携わっているんですけど、やっぱりストーリーはわかってる訳じゃないですか、幾度となくそのシーンのことについて考えてるだろうし。手に取るようにわかっているストーリーだからこそ、撮影現場では新しい発見が欲しいんだっていうことを凄くおっしゃってました。ここでは悲しくなるだろうなって想定だけれども、怒りに向かっていったらどうなるかな? とか。実験的な演出というか、僕らのパートではそれが多かったですね。実際やってるとやっぱりこうなるんだとか多々ありましたし」

――小野田のフィリピンでの30年間の姿だけじゃなく、回想シーンとして日本にいた時の姿が描かれるというところが、作品をよりドラマチックにしていると思いました。
「この映画における小野田は、コンプレックスの塊でもあるんです。僕の中の解釈ではあるんですけど、父親から自害しろと言われてるのもそうですし、冒頭に高所恐怖症で航空兵になれなかったってことも、出来のいいお兄さんがいることもあったりして、そういうコンプレックスの塊だった小野田が、谷口に出会って、彼に心酔していく。コンプレックスと裏腹に、俺は特別なんだと教育され、その地続きに物語が尾を引いてくというか…。非常にドラマチックで人間味に溢れた人物の描き方をしていますよね。なので、フィリピンでのシーンは、弱いところとか強がってるところ、優しいところ、厳しいところ、まさに主に監督とカトウ(シンスケ)さんと松浦(祐也)さんと井之脇(海)君とみんなで探していったような現場でしたね」

――撮影の順番的には日本のパートが先にあって、その後に森の中のシーンという流れだったんですか?
「そうですね」

――そうなると演じやすいというか、過去がわかった上で演技が出来ますよね。
「ホントにやりやすかったですね」

――森でのシーンは、長期ロケだったと思いますが、撮影当時はいかがでしたか?
「全体のクルーは4ヶ月くらい、僕は2ヶ月くらいカンボジアに滞在しました。海外ロケなので、食事とか大丈夫かな? と考えていたんですが、僕らが滞在していた場所は、首都のプノンペンから車で大体5〜6時間かかるカンポットという町で、思いの外いい町でした。観光地の側面もある町で、洋食レストランや中華料理屋、ステーキ屋とか、ショッピングが出来る市場もあったりして、過ごしやすい町でした。撮影も週休2日制で土日は完全に休みのスタイルで平日の5日間で撮影をする。しかも1日に3シーン程度を朝から夕暮れまでたっぷり時間を使って撮影をするスタイルで、身体的にリセット出来る時間がちゃんとあって、それが逆によかったです。ただ、もちろん現地の水に慣れていないので、僕も含めてみなさん一度は体調は崩しました(笑)」

――それは仕方ないですね(笑)。
「スタッフさんもやっぱ熱出してたりしてましたし」 

――大変な現場でしたね。でもよかったです、笑って話せる感じの話で(笑)。
「ホントに面白かったです」

――この作品は、カンヌ国際映画祭でも上映されましたが、当初から、海外の賞を意識されていたのでしょうか?
「おそらくアルチュール監督は、カンヌ国際映画祭ってのは視野に入れていたと思いますね」

――実際、上映されると初めて聞いた時はどう思いました?
「もう夢のような話でしたね。お客さんとして現地に行くのも勿論簡単ではない映画祭だし、そこで、自分が携わらせて頂いた作品が「ある視点」部門のオープニング作品になるというのは、やっぱり信じられないと思いました。そして、監督が長編映画2作目にして、異国の役者と異国の戦争をモチーフにした映画を撮るって攻めの姿勢でしかないというか…。1作目で監督も新人監督賞を獲られていて、2作目はプレッシャーがあったと思うんです。そんな状況で、こういった題材をモチーフにしてやるっていうのはホントにこの作品にかけていたと思いますし、監督のことを思うと、いい結果になってよかったなと思います。あとは監督は勿論ですけど、みんなの力が合わさって、いい結果になったっていうのをみんなでハグして喜びを分かち合いたいと思いました」


●プロフィール
遠藤雄弥/えんどう・ゆうや
1987年3月20日生まれ、神奈川県出身。2000年に映画『ジュブナイル』でデビュー。近年の主な出演作にKTV『青のSP』、日本テレビ『ボイスⅡ 110緊急指令室』などがあり、主演映画『辰巳』(小路紘史監督)、映画『ハザードランプ』(22/榊英雄監督)の公開を控えている。



●作品紹介
『ONODA 一万夜を越えて』
監督・脚本/アルチュール・アラリ
出演/遠藤雄弥 津田寛治 仲野太賀 松浦祐也 千葉哲也 カトウシンスケ 井之脇海 足立智充 吉岡睦雄 伊島空 森岡龍 諏訪敦彦 嶋田久作 イッセー尾形 ほか
配給/エレファントハウス

第二次世界大戦の終わりが間近に迫っていた1944年。小野田寛郎(遠藤雄弥/津田寛治)は、上官・谷口(イッセー尾形)から、任務を託され、フィリピン・ルバング島にてゲリラ戦の指揮に当たることに。必ず生き延びるという命令に従い、過酷なジャングルの中で生き延び続ける。そして、30年後、ひとりの青年の登場によって、その生活に終わりが告げられる。
10月8日(金)公開
https://onoda-movie.com/