【生きづらさを活かすヒント】「甘え上手」になってみよう!

【生きづらさを活かすヒント】「甘え上手」になってみよう!



HSPや発達障害、精神的ストレスなど――
ごく身近な“生きづらさ”を活かすためのヒント。
そして、繊細だからこそ見える、世界の美しさについて。
書籍や映画など、さまざまな知恵や芸術に学び、ご紹介しながら、
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、つらつらと、つづります。


 

「ひとりで生きていける」って、思っていない?


大人だからこそ忘れないでほしい45のこと』(ワニブックス刊)
著:齋藤孝

編集協力として携わらせていただいた、明治大学文学部教授・齋藤孝先生の『大人だからこそ忘れないでほしい45のこと』という一冊の本がある。お子さんのいるご家庭ではNHK(Eテレ)の人気番組「にほんごであそぼ」の総合指導としてもおなじみの齋藤先生とは、2011年の震災直後に緊急出版した『かなしみはちからに 心にしみる宮沢賢治のことば』(朝日新聞出版)以来、10年以上にわたり、仕事でのお付き合いを続けさせていただいている。

わたしにとって、もっとも身近に感じる“知識の泉”のようなお方。いくら掘っても尽きることなく、コンコンと湧き続ける先生のお話をすぐそばで聞けるのは、まさに、この仕事の醍醐味といえるだろう。

そんな齋藤先生が、冒頭でご紹介した『大人だからこそ忘れないでほしい45のこと』の取材中、「『自分はひとりで生きていける』と思い込んでいる人ほど、じつは、他人に迷惑をかけやすいんですよね〜(笑)」「ときには他人に甘えるということも、悪くないんですよ」というお話をはじめられたので、他人に迷惑をかけてばかりのわたしは、思わず耳をそばだて、胸を高鳴らせたことを覚えている。

先生が、なぜ「他人に甘えることは悪いことではない!」というお話をされたのか――くわしくは本をお読みいただくとして――じつは、甘えるということも他人に好感を持たれるひとつの要素になり得ること、TPOに合わせた「甘え」の線引きがポイントであることを引き合いに出しながら、『学問のすゝめ』(福沢諭吉)、『「甘え」の構造』(土居健郎)を例にとりつつ、「甘えることの大切さ」について言及されたのだ。

実際、ストレスに弱い人、いつも不安な人、他人の目線ばかり気になる人……。そんな繊細な人ほど、「だれにも頼らず、頑張らなきゃ!」→(やっぱり、頑張れない)→(極端な白黒思考に陥る)→「私ってダメな人間だ!」といった具合に、みずから“自己肯定感”を削りがちではないだろうか? 少なくとも、わたしは、削って、削って、削りまくってきたけれども。

では、その貴重な“自己肯定感”を削らないためにも、私たちは、いったい、どう他者に頼り、甘えればいいのか――? 自立した大人だからこそ、心得ておきたい“甘えの作法”について、以下、ご紹介していきたいと思う。

 

「甘え上手」になるための“作法”とは?


「甘え」の構造』(弘文堂〈増補普及版〉刊)
著:土居健郎

精神分析家・土居健郎は、ベストセラーとなった著書『「甘え」の構造』(増補普及版/弘文堂)のなかで、「人間は誰しも独りでは生きられない。本来の意味で甘える相手が必要なのだ」と、甘えをポジティブに説いている。ただし、「『甘え』は親しい二者関係を前提とし、相手が自分に対し好意をもっていることがわかっていて、それにふさわしく振る舞うことが『甘える』ことなのである。今日的な『甘やかし』『甘ったれ』とは、似て非なるもの」とも、述べている。

わかりやすくいえば、「他人に甘えることは悪いことではない。ただし、ただ闇雲に甘えるのではなく、まずは、適度に甘えられる関係性を築くこと、そして、(齋藤先生もおっしゃるように)TPOに合わせた『甘え』の線引きが必要だ」ということだろう。つまり、その作法を守らなければ、ただの「甘ったれ」になっちまうよ……という警告でもある。

言うまでもないが、土居のいう「親しい二者関係」とは、自己と他者という「自他境界」がはっきりした、あくまで自立した人間関係を指している。つまり、甘えにも「自分は自分、他人は他人」という、良い意味での線引き(=諦め=明らめ)が不可欠というわけだ。

わたし自身、以前、カウンセラーから「甘えられる先を、複数もつように」とアドバイスを受けたことがある。つまり、困ったときに甘える先が親だけでもいけないし、パートナーだけでもいけない。ひとりの親友だけというのも、相手に「こいつ、重い……」ととられる可能性が高いだろう(笑)。加えて、親しい相手であればあるほど、先ほどの「自他境界」の線引きが曖昧になりやすく、いわゆる“メンヘラ化”する恐れもある。

実際、わたしの場合は夫に対して、ただの「甘ったれ」になった挙句、「ぼくは、キミのお母さんじゃない」と諭されたことをきっかけに、「このままでは家族崩壊!」と焦り、奮起した。そして、遅まきながら、個人として自立しようと努力するプロセスの中に、あらためて「甘え」について向き合う必要性があったというわけである。

そう、自己肯定感を削りがちな繊細な人ほど、頼り、甘えられる相手を、複数人もっておくべきなのだ。ただし、ただ、幼児が母を求めるだけの「甘ったれ」や「メンヘラ」にならぬよう、大人として、しっかりと相手との関係性を構築しつつ、それを見極めなければならない。もし、自立した個人として、関係性を見誤らず甘えることができたなら、それは逆に、人として成熟していることの「証」ともいえるのではないだろうか――?

人間は、誰しもひとりでは生きられない。もちろん、自分でできることは自分で片づければよい。しかし、どうしても心が弱ったとき、どうしても他人の手が必要になったときは、ぜひ「他人に甘えることも、そう悪いことではない」と、思い出してみて欲しいのだ。すべては「適材適所」。苦手なことは他人を頼り、甘え、得意なことは自分が担当する。もちろん、人生のすべてを効率化させる必要はないけれども、そちらの方が、心の”摩擦係数”がグッと下がるのみならず、双方にとってプラスになることだろう。

ちなみに、ご自身も生まれつき脳性麻痺という障害を持ちながら、小児科医として活躍。現在は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎先生も、とあるインタビューでこうおっしゃっている。
「『依存先を増やしていくこと』こそが、自立なのです。これは障害の有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだと、私は思います」と。

それでも「わたしはひとりで大丈夫!」を貫きたいのなら、他人に迷惑をかけぬよう、くれぐれもお気をつけあそばせ。

さあ、みなさん。願わくば、ともに「甘え上手」にならんことを!

*次回は11月24日更新予定です。


Written by 国実マヤコ
国実マヤコ

東京生まれ。青山学院大学文学部史学科を卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスに。
書籍の編集、および執筆を手がける。著書に、『明日も、アスペルガーで生きていく。』(小社刊)がある。
NHK「あさイチ」女性の発達障害特集出演。公開講座「大人の生きづらさを知るセミナー」京都市男女共同参画センター主催@ウイングス京都にて講演会実施。ハフポストブログ寄稿。
Twitter:@kunizane

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