高校卒業して以来、バイトしかして来なかった私が本を出版した

高校卒業して以来、バイトしかして来なかった私が本を出版した



ゆとりフリーターの「ぬるい哲学」みんな違って、みんな草


「みんな違って、みんないい」の精神で育てられ、
経験至上主義な大人、自由すぎる価値観を持った年下、
年が近いはずなのに分かり合えない同年代に囲まれても
「ふっ(笑)」とあしらうだけのぬるい地獄に浸ってます。

そんな環境でも日々を生き抜くため模索中の
「ゆとりフリーター」が綴る、ぬるい哲学と
想像以上にしんどい!人間図鑑


どうも、ゆとりフリーターです。
2023年3月30日、私の初の書籍『平成初期生まれは人間関係がしんどい』が刊行されました!

ドン ドン ドン パフパフ~!(めでたい音を脳内再生してください)

この本は、私ゆとりフリーターがこれまでに遭遇してきた様々なしんどい人間をぬるく哲学していくイラストエッセイとなっており、また、現在掲載していただいているWANIBOOKOUTでの連載コラムを(大幅に)加筆修正したものであります。

ひとえに、応援してくださった読者の皆さま、
版元であるワニブックスさま、関係者各位、あとは~
頑張った私のおかげですね(!!)

と、自分で自分を奮い立たせておかなければ、私は「本を出版する」その事象すべての非日常さに飲みこまれてしまうおそれを感じているのです(今も指を震わせながらキーボードを打っている)。

なんせ、高校卒業して以来、コンビニやラーメン屋、レンタルビデオ店、スポーツクラブなど店員としてのアルバイトしかして来なかったので……

部屋で一人、スマホに話しかけることが趣味で、毎月ポストに入った請求書を確認するのが億劫なごく普通のフリーターが、「ご執筆をお願いします」と言われ「作家さん」と呼ばれ、スーツを着た大人と一緒に歩き、名刺を渡し、ゆとりフリーターと書かれた本が知っている本屋さんに並べられているなんて……

よく分からなくないですか(!?)

正直なところ、今も現実味がありません。
もはや普段の自分自身とは切り離して、他人事のようなスタンスで見守っているような気さえします。

はい!
というわけで今回は、夢なのかもしれない出版後にあった出来事について書いていきたいと思います。

 

出版記念イベントと書店回りで東京へ

人は「ペルソナ」といって環境や場面に応じて仮面を付け替えて過ごしているという。
考えてみれば、仕事のとき、家にいるとき、友達といるとき、家族といるとき、恋人といるとき、で態度や言葉遣いが変わっていることに関して、今更意識するまでもないほどに当たり前のように過ごしていた。

仮面、というとまるで腹黒そう、闇が深そうに感じるかもしれないが、これはごく日常的に多くの人が実践していることなのだ(ということで以下、親しみを感じるようにお面と言い換えてみる)。

普段は意識することのない「お面」の付け替えだが、出版を機に東京へ訪れたことによって、私はその自然に行われていた「お面」のぎこちなさを感じざるを得なかった。

書籍が発売して一週間後、私は「書店回り」と出版記念イベントを行うべく東京に出た。
「書店回り」とは、作家が自身の本を並べてくれている担当の書店員さんにご挨拶に回るものだ。
今回は、私だけでなく、編集さんと担当営業さんも一緒に回ってもらえることになっており、何から何まで初めての私にとって大人数で向かえることは大変心強かった。

訪れた街は渋谷、新宿、池袋の三か所で、平日でありながらどこも目まぐるしいい人混みとあらゆる広告で溢れていた。

これが渋谷のスクランブル交差点……!

「そりゃここでMVでも撮れば映えるわな!」と、田舎から出てきた私はよくわからない悪態をつきたい気分に駆られていた。

東京という街は人が多いが知り合いが少ない。
なんだか急に友達に会いたくなってきた。
なるほど、だから東京に越した友人たちはよく集まっているのか……?
などと考えをめぐらせてホームシックに陥りかけていたところ、今回唯一の知り合いともいえる編集さんと合流できた時はホッとしたものだった。まもなくして営業さんともお会いでき、パーティは完成された!

経験値ゼロ、装備:段ボールの被り物(顔隠し用)の勇者パーティとなった一行はダンジョン(書店)へ向かう……

すると見えてくるは、平積みの我が書物!!
おおふ…本当に実在したんだ……(?)

「平積み」とは、書店の本棚手前で本の表面を天に向けて積まれる、お客さんに手に取ってもらいやすい位置の一つである。
長年のバイト経験から売り場陳列には少し詳しいつもりでいた私は、この展示をしていただけたということに、感謝と、身の引き締まる思いで、どうか売れますようにと祈っていた。

その後、ふわふわした気持ちのまま装備品を頭に装着し写真撮影を行い、ポーズのバリエーションを考えておけば良かったな……と思ったり、サインに添える一言もよろしくお願いします以外の気の利いたセリフ考えておけば良かったな……と思ったりしていた。

移動中の混んだ電車内でかさばる装備品の大きさに謝罪を繰り返し、到着した書店では写真撮影である。気が付けば汗だくだった。
私にとって書店回りは写真撮影大会といっても過言ではない。
そして初めてつける、著者というお面に少しだけ「パトラッシュ、私はもう疲れたよ」の気持ちになっていた。

やはり人は急には勇者になれないものなのだ。

だがそれでも現実は無慈悲なまでに続いていく……。翌日開催された出版記念イベントでは、トークショーと書籍へのサインを行うことになっていた。

肩書がラジオクリエイターであるように、普段私はポッドキャストをやっている。
今回のイベントは私がポッドキャスターとしても初となるトークイベントでもあった。つまり、お客さんの大半がリスナーだったのだ。

前日の書店回りとは一変、ポッドキャスタースイッチがONになった私。
圧倒的ホームな環境で開催された当イベントはおかげさまで楽しく盛況のまま終わった。

イベントの様子は別の記事で紹介しているので、そちらもぜひ確認してみてほしい。

 

そして日常へ

本が出ても、バイトはある。

夢のような東京での時間を過ごした後、いつものバイト先へ出勤するときの気持ちは意外にも「現実に引き戻される」というほど虚しいわけではない。

「私を“ゆとりフリーターである”と知らない人」と働くというのは気持ちが楽な部分も大いにあった。なぜなら、ゆとりフリーターとして本を出していくら褒められていようが、バイトではしょうもないミスをして凹んだりできるからだ。良いことがあるときほど、全然すごくないよ、自分! と思いたいのである(あまり共感得られない気がするけど)。

むしろ意図的に、書籍の情報を解禁する日、校了した日、発売日前日など、本人なら絶対にソワソワしてしまうであろう日に私はシフトを入れていた。
これは私が調子に乗らないためのただの保身かもしれない。
しかし、こういったお面付け替えの動作自体が心の健康を維持するためのエクササイズ(必要な運動)ともいえるのでは、とも感じているのだ。

 

発信するということ

今、新生活をおくる中でワクワクと一緒に不慣れな環境にどきまぎして疲れが出てしまうこともあるかと思う。
そんな時、新しい「お面」をつけて誰かに話してみるのも良いかもしれない。

これまで、バイト先の小さな嫌な話も嬉しかった話も、最近食べておいしかったものの話も、気分がふさいでいる時も、楽しすぎてうるさい時も音声に残してきた。
これ以上聞かれて恥ずかしいことはない、というほどにすべてを正直に話している。

そんな風に顔を見せることなく、様々な「お面」を付けた自分自身をさらけ出せるのがポッドキャストであると思うのだ。さらにいえば、お面をつけることで本体に一番近いものになったのがポッドキャストを発信している私だ。

書籍のもととなった連載コラムにお声がけいただいたのも、
ポッドキャストを聴いてくれていた編集さんが「コラム書いたらいけるのでは……!?」と見出してくれたからだった。

これは全くの予想外の展開だったが、
自分が誰にも見られていない・応援されていない、と感じている時でも、きっと誰かが見ていてくれる、というのは本当なのだと思う。
そして「ポッドキャストを聴いてくれていた人が」「提案してくれた」という事が私に自信を持たせてくれたのだ。

だから私も今、新しい「お面」をつけることに踏み出せずにいる人にエールを送りたいと思う。
「お面」があると大都会でこんなことしちゃうくらい心が強くなるぞ!

以上、ゆとりフリーターでした。

※連載は今回で最終回となりますが、『ゆとりフリーターのぬるい哲学~みんな違って、みんな草~』は新たな形でお届けできるようパワーアップ予定! 続報をぜひお楽しみに!

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平成初期生まれは人間関係がしんどい
著:ゆとりフリーター

文・イラスト/ ゆとりフリーター


Written by ゆとりフリーター
ゆとりフリーター

1995年生まれの高卒フリーター、音声配信者。21歳の頃、実家の押し入れから音声配信活動を開始。
配信中の番組『ゆとりは笑ってバズりたい』ではバズるにはどうしたら良いか試行錯誤している。現在の番組フォロワー数は3万人。
JAPAN PODCAST AWARDS 2020 ベストパーソナリティ賞ノミネート。
Radiotalk番組『ゆとりは笑ってバズりたい』:https://radiotalk.jp/program/1877
X(旧Twitter):@yutori_radio_ 
Instagram:@yutori_radio_

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