『ヒップホップ・ドリーム』

『ヒップホップ・ドリーム』


これまで生きてきたなかで、さまざまなカルチャーに触れてきましたが、なかでも特に影響を受けたのがヒップホップです。

ヒップホップについて語らせたら、おそらくこのサイトすべてを使い切る自信があるのですが、いずれにせよ、よくも悪くもヒップホップは僕に変革をもたらしてくれました。「よくも悪くも」と書いたのは、悪い部分も含めて愛せるから。

というわけで今回は、『ヒップホップ・ドリーム』(漢 a.k.a. GAMI著、河出書房新社)という書籍をご紹介したいと思います。

著者の漢 a.k.a. GAMI(以下、漢)は新宿を拠点とするヒップホップ・ユニットであるMSCのリーダーで、現在は“鎖GROUP”というレーベルの代表でもある人物。その自伝である本書では、借金を抱えて没落した父親、アル中になった母親を横目で見ながら新宿で育った彼の半生が語られています。

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当然のことながら、ヒリヒリとした街の雰囲気が伝わってくるような、緊張感にあふれた内容。だから「不良の成り上がり物語」のように誤解されるかもしれませんが、読んでみれば漢が、「いわゆる不良とは違う」というスタンスに基づき、冷静な立場を取り続けていることがわかります。

ここに書かれていることに、ラッパーでない人でも共感できる部分が少なくないのはそのせい。つまり、人として筋が通っている。

ところでラップのリリック(歌詞)には多くの場合、パンチラインと呼ばれることの多い決め台詞が出てきます。「そのひとこと」でどこまでキメられるか、相手を納得させられるかに、表現者としてのラッパーの実力が現れるということ。

それは漢も例外ではなく、というよりも彼は淡々とことばで斬っていくスキルに長けていると個人的には感じています。

だから本書も、グッとくるフレーズの宝庫。僕は感銘を受けた本の感銘を受けたページの角を折り曲げておくことが多いのですが、読み終えたときには本書は折り目だらけになっていました。ということで、取り上げたいフレーズはいくつもあるのだけれど、そんななかからあえてチョイスしたい今回の「神フレーズ」はこちら。

ラップは論文やレポートじゃない。(147ページより)

リリックについての考え方を述べた箇所に出てくるフレーズで、つまりラップは、本で調べたことばで書くべきものではないということ。ここは非常に重要なので、もう少し引用してみましょう。

俺は自然に生活しながら思い浮かんだ言葉やフリースタイル(筆者注:即興のラップ)で出てきた言葉をリリックに使うし、その言葉の正確な意味がわからないときに初めて辞書を引いて調べる。

凝り過ぎた比喩や捻り過ぎて少し笑えないと理解できないようなユーモアではなく、その場にいる人間がパッとわかるシンプルな比喩やユーモアを操らなければならない。(147ページより)

かなり前、あるサイトで「なぜラップの人は、よくYO-YOと言うのですか?」という質問に答えたことがあって、そのときにも「ヒップホップって、その程度にしか理解されてないんだろうな」と感じたことがあります。

それはそれで当たり前のことで、「だからオメーラ理解しやがれ」なんてことをいう気もさらさらありません。

けど、漢に代表される真摯なラッパーが、ここまで真剣に考えているということは知っておいても損はないかな。
ラッパーではないけれど、同じように「ことば」を商売道具としている身として、そんなことを感じたりもしたのでした。

『ヒップホップ・ドリーム』

 

Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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