『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』
はじめまして。
書評家/ライターの印南敦史と申します。
今回から、「WANI BOOKOUT」で連載を担当することになりました。
どうぞよろしく。
僕は「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「Suzie」と、複数のウェブメディアで書評を書いています。
大半が毎日更新なので、単純計算でも1日1~3冊程度の本に目を通していることになります。
それだけ読んでいれば、ぶっちゃけ、いい本にも、そうでない本にも出会います。
だから、すべての本が記憶に残るわけでもありません。
しかし、記憶に「残らない」本があるなら、「残る本」もあるわけで、だったら「残る本」でなにかをやろうという思いがこの連載の発端でした。
では、「残る本」に共通してあるものとはなんでしょう?
いろいろありますが、突出しているのは「神フレーズ」があるかどうかではないでしょうか?
「助けられた」とか「感動した」、あるいは「この本に出会えてよかった」「この本は大切にしよう」と思わせてくれるような、ぐっとくる一文。それが、「残る本」にとって大切だということです。
そこでここでは、さまざまな「残る本」から「神フレーズ」を引き出そうというわけです。
さて、そんなコンセプトに基づく本連載で取り上げる1冊目の本は、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(佐々木典士著、ワニブックス)。
「断捨離からミニマリストへ」というサブタイトルからもわかるとおり、少し前に話題となった「断捨離」をさらに進化させ、「ミニマリスト」を目指そうと提唱する内容です。
その生き方は、「モノを自分に必要な最小限に減らす」というもの。著者自身が以前はモノにあふれた「汚部屋」の住人だったというだけあって、余計に説得力があります。
ただし最初にお断りしておくと、僕は本書の内容すべてを肯定できるわけではありません。
90%くらいは同意見なのだけど、「いくらなんでも、ここまで極端なことはできないだろう」と感じずにはいられない部分も10%くらいはあったから。
僕自身がかつて大量のモノ(おもに本とレコードとCD)に囲まれた生活を送っていて、そんな状態に嫌気がさして大量に処分し、ちょっと後悔した経験があるので、そのバランスは譲れないのです。
とはいえ、90%の肯定に大きな意味があることも事実なので、ぜひ紹介したいと思ったわけです。
で、そんな考え方に基づいて今回選んだ「神が宿る一文」はこちら。
『幸せは自己申告制』
(290ページより)
著者がいうとおりモノを捨てれば開放的な気持ちになれるし、視野は広がるし、そもそも「捨てなきゃよかった」と思ったモノも、たいていは買いなおせたりします。
また時代的に見ても、「所有することの意味」は明らかに変わりつつあります。
でも、人の目にはそれが「行きすぎ」と映る場合もあるわけで……。
上に「いくらなんでも、ここまで極端なことはできないだろう」と感じる部分もあったと書いた僕の意見が、まさにそれ。
しかし、それって本人からすれば「いわせときゃいいこと」なわけで、なにより大切なのは自分の感じた方。
人から見れば「ありえない」生活のなかに、どれだけ幸せを感じるかということが、なにより重要だということです。
つまり、「これはしあわせな生活です」と明確に自己申告できるなら、それは誰にも文句をいえるものではないということ。すなわち、それこそが本書の価値だということです。
そしておそらく、自己申告できる幸せって、数や量では推し量れない。そこが重要なのではないでしょうか?