【認知症の口座凍結トラブルに注意!】日本一シンプルな「相続対策」とは?(前編)


「うちの親が、もし、認知症になったら」……。
高齢者、後期高齢者の親をもつ人なら、一度は脳裏をよぎったことがあるでしょう。

「でも、まあいいや。認知症になったら、そのとき考えよう」――ちょっと待った!!
じつは、最近注目されているのは、親が認知症になる「前」の対策なんです。なぜなら、認知症になってしまうと、自分(親)の預金にもかかわらず口座から引き出せず、施設入居などの一時金のための自宅売却もできない「財産凍結」という憂き目に。そして、遺言書も書けなくなって……。

ここでは、NHK文化センター10年満員(!)の人気講師でもある、税理士・牧口晴一氏に、危険なトラブル回避のための日本一シンプルな「相続対策」について、一挙両得の対策をご紹介いただきます。

※本記事は、『日本一シンプルな相続対策 認知症になる前にやっておくべきカンタン手続き』(著:牧口晴一/ワニブックス刊)より一部を抜粋編集したものです。

 

認知症になると「法的な死」=「財産凍結」!

厳密な意味での「法的な死」は、もちろん医師の死亡診断書による死です。ですから、本書で「法的な死」というのは、生きているが自分自身の意思で法的な手続きや契約ができなくなることです。(中略)

認知症になると、同居家族でも認知症の方の預金を引き出せなくなります。まだ本人は生きているのですから、家族の財産ではなく、本人の財産だからです。
キャッシュカードで10万円程度なら、暗証番号を知っていれば出せます。しかし、まとまったお金を窓口でおろそうとすると銀行が認めてくれません

こうなると介護費用の支払いにも困ります。親の年金で足りない分は、子どもが立て替えなければなりません。ところが立て替えても、相続のときに返してもらえる保証はないのです。既に遺言書も書けませんから、介護という親孝行をした配慮もされません。
「長男の当然の義務だ」と言われ、大目に遺産を分けてもらえるとも限りません。

実際の介護をするのは多くのケースで、子どもの嫁がします。しかし、妻は相続人ではありませんので、法的な相続分はありません。遺言書で「嫁に遺贈する」と書くのがよいのですが、認知症になるともう書けません。
こうして、相続後の「争い」の種をたくさん作ってしまうのです。

 

アリ地獄の「成年後見制度」に陥る!

どうしても認知症になった親の預金の多く引き出したい、実家を売りたいときには、どうするか? 
そのときに、金融機関や不動産屋さんが勧めるのは「成年後見制度」です。
これに基づいて「法定後見人」(弁護士等)を付けるのです。もちろん、費用がかかります。最初に数十万円。月々3~6万円。しかも認知症の親が亡くなるまで。仮に月額5万なら、年間60万円、10年で600万円! これは途中で止めることはできません。

しかし、これでも結果としては、大金はおろせず、多くは自宅も売れないのです。
後見人は認知症になった方を徹底して守り抜きます。だから財産が減らないように、死ぬまでに使い切らないように、最低限の額しか引き出しを認めてくれません。

令和4年冬のNHKの『クローズアップ現代』で成年後見人制度の欠陥を報じていました。認知症になった親の唯一の楽しみであった「温泉に入りたい」も叶えられないのです。「温泉に行くのであれば認知症が治る診断書を持ってきなさい」との情けのない対応に唖然としていました。令和4年9月に国連は「日本の制度は差別的である」として廃止を勧告するに至っているのです

自宅の売却については、老人ホームの退去など、万が一のときに戻る所がなくなるので、これには否定的です。特に、預金があるときは、成年後見人の管理のもとで、その預金を使い切らないと自宅売却を認めてくれないのです。成年後見人のケチケチ支出で、預金を使い切るには、数年どころか10~20年かかります。その間、親に不自由な思いをさせて、預金を使い切る前に親は亡くなってしまいます。まさにアリ地獄です。

しかし、認知症になってしまったら、これを選択するしかなくなるのです。だから、繰り返しますが、認知症になる前に対策をしなければならないのです。

親が認知症になってからでは、時すでに遅し……。その危険性が、よくおわかりになったのではないでしょうか? 
後編では、これらを解決に導いてくれる「家族信託」のメリットについて、引き続き牧口晴一氏にご解説いただきます。ぜひ、お見逃しなく!

マンガ・イラスト/宇井野りお

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日本一シンプルな相続対策
著:牧口晴一

牧口 晴一(まきぐち・せいいち)

昭和28年生まれ。税理士・行政書士・法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人。慶應義塾大学法学部卒、名古屋大学大学院 法学研究科(会社法)修了。税理士試験5科目合格。昭和61年開業。2015年『税務弘報』9月号で「トップランナースペシャリスト9」に選出。税理士等の専門家向けに『牧口大学』、『丸の内相続大学校』などの講演をするほか、一般向けには「相続博士・事業承継博士」としてパフォーマンス豊かに、分かり易く、時には落語調に「楽しく」聞かせる第一人者として活動する。また地域ボランティア活動の一環としてNHK文化センターで相続・会計・事業承継の講座を10年余り担当している。主な著書に『非公開株式譲渡の法務・税務(第7版)』『事業承継に活かす納税猶予・免除の実務(第3版)』、『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第4版)』、<以上、中央経済社>、『図解&イラスト 中小企業の事業承継(第14版)』<清文社>等多数。