【ダイエットの落とし穴】う◯ち女の末路(後編)

【ダイエットの落とし穴】う◯ち女の末路(後編)



「読めば痩せる!?」笑えるダイエットストーリー第12話。
ついに、ジムデビューするの巻、後編。


 

《第12話》「う◯ち女の末路(後編)」

学生時代、あまりの運動のできなさから

「全米が泣くほどの運チ」

と呼ばれていた。
そんな空前絶後の運チの私が、筋トレをするためトレーニングジムにやってきた。

学生時代からの友人、モッちゃんがジムで何をしたら良いかを教えてくれるという。
ただ、モッちゃんは学生時代、私についで運動の出来なかった、全米2位の運チだ。

そんな全米2位のモッちゃんが……
モッちゃんが……

 

やべーやつになっていた。

 

なんだかとっても重たそうなバーベルを、スイスイと手慣れた感じで10回ほど上げ下げしてしまった(表情がやべー)
「絶対安静」という意味の英文の書かれたTシャツを着ながら(表情がやべー)

私は思わずモッちゃんに
「……あんたそれ……何キロ持ってるの……?」
「ん? 30キロ」

 

30キロ!!???

え、30キロ!? 待って待って、30キロって……何キロ!?(30キロ)
2Lのペットボトル何本分!?(15本分)

「あんたマジか!!」
「調子よかったら32.5キロを10回はいける」

それ何キロ!?(32.5キロ)
2Lのペットボトル何本分!?(えーっと……しらん!)

まあ正直30キロと32.5キロの何が違うんだとも思いつつ、
いやそんなことはもはやどうでもよくて、

「あんたすごいね! いつの間にそんなことできるようになったのよ!」

するとモッちゃんは若干唇を尖らせつつ、

「大したことないよ〜。ちょっとジム通ってればこれくらいは誰でもあげれるようになんじゃ ないの。知らんけど」

と、満更でもない顔で言う。
その顔に若干の苛立ちを覚えつつも、やはりそんなことはもはやどうでもよくて、

「てか待って待って待って! 私こんなの絶対無理!」

と、私は人生でこんなにも首を横に振ったことがないというくらい首を横に振った。
するとモッちゃんは、

「いやいやあんたはこれやる必要ないよ〜」
「え? そうなの?」
「別にやってもいいけど……え、やりたくないでしょ?」

モッちゃんは私に、至極当然なことを聞いてくる。
私は、人生二度目のこんなにも首を横に振ったことがない動きを見せつつ

「やりたくないやりたくないやりたくないやりたくない!」
と全力で伝えた。

こんなの持ったら絶対怪我する! 明日会社行けなくなる!
モッちゃんは「じゃあやらなくていいよ」と笑顔で答えてくれた。

 

……

「ん? じゃあなんで30キロ上げるところ私に見せた?」
「……ドヤりたかったから?」

と、また唇を尖らせ、満更でもない顔をした。(腹たつな、その顔!)

「これは筋トレの中で“フリーウエイト”っていうらしくて、ちょいむずいから、“マシンウエイト”でやる方が良いらしいよ」
と、モッちゃんのドヤりタイムが終了し、ウエイトマシンのあるところに移動する。

移動しながらモッちゃんは、少し前まで通っていたパーソナルトレーニングの話を始めた。
モッちゃんのトレーナーさん曰く「筋トレは、やりたくないことは、やらなくていい」のだそう。

そんなトレーナーさんは話の“圧”が強いらしく、
モッちゃんは“アツオ”と呼んでいるんだとか。

——-(そんなアツオとモッちゃんの初トレーニング時の会話がこちら)——-
アツオ「実はね……びっくり情報なんですけど……筋トレの動きでは、大して痩せないですよ!」
モッちゃん「……ん?」

アツオ「1時間筋トレしても消費されるカロリーは大したことないんです。だから筋トレでは大して痩せません!」
モッちゃん「じゃあなんで筋トレ? 私痩せたいんだけど?」

アツオ「痩せるのに必要なのは……筋肉なんですっ!」
モッちゃん「……ごめんなさい、全然わからないんだけど」

アツオ「筋トレをして、身体につけた“筋肉”が、ダイエットには必要なんです!  筋肉は、すごく食いしん坊なので、いてくれるだけでカロリーを消費してくれます! だから、筋トレをして筋肉をつけて、その筋肉に沢山カロリーを消費してもらうことで、痩せていくんです! 筋トレの動きで痩せるんじゃなくて、筋トレをして筋肉がつくから痩せるんです!」
モッちゃん「……」

ツオ「だから、やりたくない筋トレはひとまずやらずに、やりたい筋トレだけする。それで筋肉がつけば、その筋肉が痩せやすい体を作ってくれるんです!」
モッちゃん「なんか……わかったようなわからんような……」

アツオ「まあとりあえずやりたいなって思う筋トレを探しましょう!」
モッちゃん「……まあ痩せるって言うなら、やりますわ。よーわからんけど」
アツオ「OK OK! 騙されたと思ってついてきてくださいっ!」
——————————————————————————————————–

モッちゃんは、このアツオの言っていたことが未だによくわかってないらしい。

知らないことをそんなフル笑顔で自信満々に言うなよ、と思いつつ
でも……これ……
私、ちょっと理解できたかもしれない。

つまり、筋肉がより多くある方がメンテナンスカロリー(太りも痩せもしないカロリー)が上がるんだ。だから、筋肉をつけると、痩せやすい体になる。

なるほど、今までの食事の知識と合わせるとちょっとわかった気がする。(いやなんとなくだけど。知らんけど)

今までの経験(メンテナンスカロリーとか選ぶもの大作戦とか)と掛け合わせて考えると、
筋トレは確かに痩せるのに効果がありそうだ……。

やりたくないことはやらなくて良い。

でも痩せるなら……まあ確かにやる気が出ないこともない。

などと考えていると、モッちゃんが
「アツオが言ってたんだけど、『まず、筋トレを始めるところから始めるべき』なんだってー。
全身鍛えた方がいい〜とか、効率的に〜とか、本当は色々あるらしいんだけど、まずはなんでもいいから“やりたい”って思うことから始めるのが大事! って圧強めに言ってた!」

なるほど。まずやることが大事か。

モッちゃん「はい! じゃあやりたいことある!?」

私の目の前にはいくつかのウエイトマシンが並ぶ。
私はモッちゃんに全力で伝えた。

「……ないないないない!」
本日3回目の首振り。

うん、説明されたところで、やりたいもんなんてあるわけねー。

するとモッちゃんは「じゃあ、一番痩せるってやつ行くか!」
と、なんか重たいものを足で押すマシンの前にいく。

モッちゃん「足って、筋肉が大きいから、さっきの理論で行くと一番痩せるらしい! 知らんけど!」

また知らない情報を堂々とひけらかすモッちゃんと共に、足を鍛えるマシンを試してみる私。とりあえず一番軽いので。

……

全米が泣くほどの運チな私。
できるか不安で仕方がなかった。

が、

まあよく考えれば足で押す動作くらいは、できないこともない。

「よし、できるな。じゃあ重くするねー!」

と、モッちゃんが重くしようとする。
「無理無理無理無理!!」
と、もはや何度目かわからん首振りをしつつ、無理なことを伝えるが、
とりあえずやってみ、というモッちゃんに促され──

ぬぉおぉおお!!(と、心の叫び。ジムで大声出すのは迷惑だから)

と、まあなんとかできた……。(ちなみに同じ重さをモッちゃんもやるのだが、やつはスイスイやりおるのよ。すげーなモッちゃん)

そんなふうに、モッちゃんに促されるまま、いくつかのマシンをこなし、
何度も何度も無理無理と首を横に降りつつ、なんとかやり遂げ、
モッちゃんは私と同じことをスイスイと涼しい顔でやり遂げ、
気がつけばなんだかんだ1時間ほどが過ぎていた。

「じゃ、そろそろ終わるか! 帰りに銭湯でも寄ろーやー」というモッちゃん。
そんなモッちゃんを見て、ふと疑問に思ったことをぶつけてみた。

「そう言えばさ、なんで『一緒にジム行こ』って言い出したの?」

モッちゃんは痩せることを目的にジムに通っているのだろう。
モッちゃんが、30キロ上げ下げできるようになってたりとか、いつの間にかジムで出来ることが増えているのもわかった。
でも、わざわざ私を誘ったのは……なんでなんだろう?

するとモッちゃんは
「そりゃ楽しいからに決まってんじゃん」と。
そんなモッちゃんに「……ほお」と気の抜けた返事をする私。

モッちゃん「筋トレってさ、やるまでは億劫なんだよね。でも、やり出すと結構楽しくて。
で、アツオが『一人じゃなくて誰かとやる合トレは、もっと楽しい!』って言ってたの思い出して。で、『こいつと一緒にやると一番楽しいだろうなー』ってヤツを誘ったの」

……こいつは、こんな感じで、昔からたまに恥ずかしいことを平気で言う。

モッちゃん「楽しくなかった? なんだかんだで」

そういうモッちゃんに私は「……まあ」とちょっと変な顔をして答えてみた。
モッちゃんは「腹たつな、その顔!」と笑う。

まあ、確かに、
楽しかったな、と思うのは事実だ。

そしてこの感覚は……昔こいつと行ったスポッチャに似ていた。
できないなりに笑いながらやるスポーツは……まあそこそこ楽しい。

そう思うと、ジムに行くのも……まあ悪くないか、と私は思ったのだった。
(怪我せず無事に終われたし)

そして翌日──。

「痛っ」

私はある痛みで目を覚ました。
それは、筋肉痛……ではない。

いやもちろん筋肉痛もなくはないのだが、それよりももっと痛い場所がある。

……首だ。

動かない。動かないほど痛い。

でも、昨日、ジムで首を鍛える種目なんて一つもやっていない。
考えられる原因があるとすれば……

私は筋トレ中、
何度も何度も、人生でこんなにも首を横に振ったことがないというくらい首を横に振った。

うん。それしか考えられない。

……まさか筋トレ以外の痛みで、モッちゃんのTシャツの文字
「絶対安静」
を体現することになるとは。

とりあえず私はその日、会社に行かないことにした。(リモートでは仕事したけど)

10キロ痩せるまで、あと6.5キロ──

 

“知識”を身につけた未来のわたしから一言二言

アツオの話で出てきた「筋トレの動きでは痩せない」とか「筋肉が痩せる」とかの話。
正直「なんのこっちゃ」と思っている読者様もいらっしゃるのでは、と思ったので、ここでは前回予告していた通り、それについて少し詳しく(でもなるべくわかりやすく)解説してみます!

要は、前々から話に上がっている
“運動は対して痩せない”ってやつ(その理由は第2話参照)と同じで、筋トレの動きでは大して痩せません。

あくまでダイエットの主役は食事管理。
自分のメンテンアンスカロリーを把握して、そのメンテナンスカロリーから、いかにアンダーカロリーを作るか。これがメインです。

ではこの「メンテナンスカロリーってやつの正体はなんなのか!」って話なんです。

メンテナンスカロリー、簡単にいうと自分が一日に消費するカロリーのことだと思ってください。
じゃあこの1日に消費するカロリーは、どう構成されているのか。

人間の消費エネルギーの割合は、

・何もしなくても、生きているだけで代謝される“基礎代謝”ってやつが7割。
・動くことによっての“生活活動代謝”が2割。
・食事を消化することによって起こる“食事誘発性熱代謝”が1割。

で、大体構成されています。

なんと、人間は1日の中で“何もしていない時”が一番カロリーを消費してくれるって言うんです。なんか意外ですよねー。

じゃあこの“何もしていない時”に消費するカロリーをどう増やすか、がダイエットには重要になってくるわけで。

その“何もしていない時”に“筋肉”が多い方が、消費カロリーがより多くなるってことなんです。

つまり!!

筋トレすると“筋肉”がついて、
“筋肉”が多いから“基礎代謝”が上がって、
“基礎代謝”が高いから、痩せやすくなる。

こういうロジックなわけです。

だから、“筋トレ”すると“痩せやすい”なんてことが言われているわけです。

「歳をとると、痩せにくくなる」なんて聞いたことがある人も多いかと思いますが、
それは歳をとって、筋肉が落ちたりなどの理由で “基礎代謝”が落ちて“痩せにくくなる”から。

逆にいうと、

歳をとったって
“基礎代謝”が高い状態であれば
“痩せやすい身体”を維持できる!

痩せにくい体、痩せやすい体っていうのは、要は基礎代謝が高いか低いか。
だから、ダイエットというのは、いかに基礎代謝を高めるかのゲーム。
このゲームを有利に進めるアイテムが“筋肉”。
と言うわけです。

(第13話につづく……2024年1月22日公開予定)

補足

私はモッちゃんと“公営ジム”にいき、モッちゃんに筋トレをレクチャーしてもらったのですが、基本“公営ジム”はパーソナルトレーニング行為が禁止であることが多いです。
なので、私たちもそうしましたが、教えてもらう人も一緒にトレーニングをする、いわゆる“合同トレーニング”でなければならないらしいです。
私と同じことをする場合、そのあたりご注意くださいませー!

作者/【体脂肪率3%の脚本家】の保木本真也
『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)『事件』(WOWOW)など
ベストボディジャパン2023松山大会 モデルジャパン部門ミドルクラス グランプリ

イラスト/藍沢みお、津和野諒


Written by 保木本真也

「日本一の脚本家」にはどうひっくり返ってもなれなそうなので、「日本一イイカラダをした脚本家」を目指す、日本で最も間違えた方向をひた走る脚本家。
コンテスト出場時は体脂肪率を3%にまで下げ、仕事のクオリティを下げたり下げなかったりするので、今、「日本一間違えた脚本家」であることは言うまでもない。
※体脂肪率は体成分分析装置InBodyによる測定。
X(旧Twitter) @HOKKII

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