【後編】柳下恭平さん、出版の未来は明るいって本当ですか?
そんな状況を鑑みて、柳下さん個人が立ち上げたのが“ことりつぎ”。本を全国の書店に届ける流通を「取次」と呼ぶが、その取次の規模を小さくして、『本を売りたい』と思う人が誰でも商品としての本を取り寄せることができるようになるサービスだ。
“ことりつぎ”は、かもめブックスをオープンして2日目で思いついたんです。要するに、本屋さんに来ない人に本は売れないなと思ったんですね。こんなにいい本屋さんなのに、来ない人がいるなって。来ない人を責めてるわけではないですよ(笑)。
ひと月に1回本屋さんに行かない人って多分沢山いるでしょうし、1年に1回も行かない人も意外に多いんじゃないかと思うんですよ。だから、“ことりつぎ”は、そういう本屋さんに来ない人に本を売るための仕組みにしたかった。
なぜかというと校閲したいし、編集したいし…本を作るためには本を売らなきゃいけないから。でも、変な話、日本中の人が本を買いまくっていて、『世界がもし100人の村だったら』じゃないですけど、100人の村の80~90人が本屋さんに行く状態だとしたら、市場飽和で伸び代がないですが、仮に10人だとしたら、あと9割のマーケットがあるわけですよね。9割もマーケットが残っている市場って営業し放題じゃないですか。
例えば、ロードバイク屋さんにツール・ド・フランスの本が置いてあったら、それは本じゃなくて自転車関連用品。本にお金は使わないけれども自転車にはお金を使う人のマーケットがあるならば、それは自転車関連の本を売ることができる。だから、そこにただ本を置けばいいはずなんです。
園芸屋さんが小さな書棚に園芸の専門書を置く、スポーツ用品店に競技のハウツー本を置く…。 “ことりつぎ”のサービスで、本を売るスペースが生まれる可能性は無限大に広がっていく。柳下さんの野望は、「コンビニと同じくらいの数」になるほど“ことりつぎ”を全国規模にするということ。
長い年月をかけて“ことりつぎ”の規模を大きくしていけば、ひょっとしたら版元さんも仕入れ値を下げてくれる可能性もゼロではないと思うんですね。それこそ“ことりつぎ”のサービスを受ける店を4万店、5万店と増やしていくことで、出版側にも小売店側にも全員メリットがある形で仕入れ値を変えられたらいいなと。
それから、アプリがあればGPSを使って『この本、近くにないかな?』っていう検索もできるようにもなります。
例えば、東京の阿佐ヶ谷に住んでいて大手町に勤めに行く人が“定期の区間内の高円寺で降りれば手に入る”という使い方もできる。
そうやってユーザーレベルの使い方ができてくると、さっき言った後継者問題も解決できるような気がするんです。つまり、閉店情報がユーザーのもとに届くことで『この本屋さん、僕が跡を継ぎたいな』と思う人が出てくる。もともと本屋さんになりたい人とそういう店とを結びつけるサービスにもなるんじゃないかと。
“ことりつぎ”は今の本屋さんが抱えている問題の全てとは言わないまでも、かなりのことを解決できるツールになるんじゃないかなと思っています。結局、新規参入がしにくいっていうだけで、それはハッピーじゃないですよね。まずはそこから解決していきたいですね。現在は流通のスキームを、エリア・業種・流通倉庫という点で最終調整しているところで、もうすぐ、リリースから一年経つあたりで、やっと、実用版を本格的に動かせそうです。仕様は1日で作ったのに、実現に1年もかかってしまった!