【後編】柳下恭平さん、出版の未来は明るいって本当ですか?
“ことりつぎ”の次に、今新しく考えているのは“全く新しい形の漫画喫茶スタイルの本屋”“本が読めるシガーバー”“かもめブックスのECサイト”など、違う形での本の売り方。
そこでも、柳下さんの根っこにある「本を読まない人にも本の面白さを伝えたい」という熱い想いは変わらない。
今後少子化が進んでいくと、地方自治体が現在の図書館の規模を維持できなくなる可能性があります。それは資料散逸という観点から校閲として大変困るし、読者の接点という意味でも本屋として困ります。
図書館のマネタイズと、版元や著作権者にもどのようにマネタイズされていくかという問題は、そろそろ考えていかないといけないと思います。巻数が多いコミックをどのようにロングセラーとしていくかということを本屋としてやっていかなければ。まずは、コミックから新刊だけに頼らない本屋の形を作っていきたいです。
実は、古本にも同じことがいえます。ことりつぎで本の流通を考えていると、インターネットがマーケットを変えて、地方都市の古本を東京に一方通行に集めてしまっていることが見えてきました。
従来型、つまり地産地消の古書流通の崩壊がはじまっている。古本の流通を考えると、実は全国に流通倉庫の拠点が6ヵ所あるのがベストなのですが、地方在庫がドンドン枯渇してしまい、販売拠点よりも購入拠点が機能しなくなりつつあります。そして、古本も版元や著作権者への再配分を考えていく時期に来ているんじゃないかなって思っています。
本を読む時間をどのようにリッチにしていくかも大切な課題です。小売りとしての本屋はこれまで通り大切ですが、それを、いろいろな形で提案していけるのではないかなと思います。葉巻や画廊で「本を読むためのオフラインの時間」を作っていくというのが、かもめブックスの延長にあるように思います。
「本はどこで買っても同じ本である問題」という、僕が勝手に名付けた語呂の悪い命題があるのですが、それを解決したくて、かもめブックスでは「特集棚」という形で編集し、本をいろいろな角度で取り上げています。
でも、リアルショップでは、情報量が多くてなかなか棚のコンセプトをお客さんに理解してもらうことはむつかしいんですよね。僕も含めて誰でも、長い説明文が店内にあっても読みたいと思わないですから。
だから、ECサイトで「この特集はどのようなメインテーマで」「その中でこの本を読んでほしいシーンは」という段階ごとにきちんと明文化して、リアルショップとECサイトを結び付けていくということをしていきたいんです。
本への愛情がなせる技だとしても、次々にアイデアが湧いてくるその発想力には驚かされる。その秘密とは?
本当にバカバカしいんですけど、僕は一人遊びが大好きで。5分あったら“ジャッキーごっこ”をしたり…。それは、もし僕がジャッキー・チェンだったら、この場でどんなアクションシーンを作るかっていうのをひたすら考えるっていう遊び。敵がどこから来るのかとか、あの窓をどうやってガシャーンと割ればいいかとか。くだらないけどそういうことをひたすら考えてます。
あとは『おせちの重箱が20段あったら何を詰めようかな?』とか。『とりあえず2段くらいはカマボコ詰めとくか!』とか(笑)。そういう一人遊びって、どこでもできるんです。デパートでもできるし、新幹線でもできるし。結構トレーニングになってるような気がします。
彼の脳内は、まさに汲めども付きぬアイデアの泉。“本を読まない人に本を届けるためのアイデア”も、きっとまだまだ湧いてくるに違いない。「“本気になれば”という条件は必要ですが、出版業界の未来は明るいはず」と柳下さんは語る。
420円の文庫本1冊で1日楽しめるような、費用対効果に優れた娯楽ってほかにないと思うんですよ。デフレで可処分所得が減ってるんだとしたら、本に使ったほうが絶対に有意義だし、だから本が売れないわけないんですよね。だけど売れないという理由の一つに、“我々には本を読む時間がない”ということ。
だから、どうやったら本を読む時間を作れるのかっていうこともデザインの中に入れる必要はあると思います。ホテルを1つ任せてもらえれば、本を読むためのきっちりした環境を作るんですけどねぇ(笑)。
【PROFILE】
柳下 恭平(やなした・きょうへい)
1976年生まれ。世界を放浪したのち日本で校閲者となる。28歳で鴎来堂を立ち上げ、現場で本と向き合いつづける。会社近くの書店が閉店したのをきっかけに書店事業に参入。2014年末、神楽坂に「かもめブックス」をオープンし、店主として店に立つ。15年10月、誰もが書店を開けるようにするための流通サービス「ことりつぎ」の事業を始動する。
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