【推し活と脳汁デフレ】担降りブログでバズった著者が当時の探索行動をもう一度振り返ってみた

【推し活と脳汁デフレ】担降りブログでバズった著者が当時の探索行動をもう一度振り返ってみた


 

出待ちで友情が育まれる理由

出待ちが単独行動より圧倒的に楽しいのは、友情が美しいからではない。構造の問題である。

まず、LINEのグループチャットそのものが小さなガチャになっている。通知が鳴る。開くまで、それが「出た」なのか「まだ動きなし」なのかわからない。

第六回で書いた「確率が五分五分の時にドーパミンが最大化する」という話を覚えているだろうか。あの通知は、待機中の四時間にわたって、五分五分の賭けを何十回も供給し続けてくれる装置なのである。

単独で出待ちをすると、脳汁は「出てきた瞬間」の一回しか出ない。だが四人でやると、LINEの通知のたびに小さい脳汁が出る。圧倒的にお得だ。……お得とは?

さらに、集団には「手柄」が発生する。最初に見つけた人間には、その日一日分の称賛が与えられる。「◯◯ちゃんが見つけてくれたおかげ」と言われるあれである。これは推しからもらう報酬ではなく、仲間からもらう報酬だ。だから推しが出てこなかった日ですら、この報酬だけは発生しうる。

出待ちのグループが異様に結束が固いのも、人徳ではなく仕様である。共同で狩りをして獲物を分配する集団の構造が、そのままLINEのグループチャットに移植されているだけだ。

 

出待ちがエスカレートした先の怖い話

しかし、ここからが怖い話である。

第六回にも同じことを書いた気がするが、今回のほうが怖い。
前に私は「脳汁デフレ」という話をした。同じ刺激を繰り返すと脳が慣れてしまい、もっと強い刺激が必要になる、というやつだ。

今回の出待ちにおける脳汁デフレは、非常に明確な形をとる。場所が移動していくのである。
最初は劇場の裏口で足りる。しかし何度も成功すると、劇場の裏口は「予測できる場所」になる。予測できるものに脳汁は出ない。だから次を探す。稽古場に行く。稽古場は劇場より情報が少なく、当たる確率が低い。つまり不確実性が高い。よく出る。稽古場が読めるようになると、次は最寄り駅になる。その次は自宅である。

私は以前、ストーカー的行為をするオタクたちに連続インタビューをしたことがある。あの時、複数人が判で押したように同じ経路をたどっていた。

列に並ぶ→楽屋口→稽古場→学校→家。誰も最初から家に行っていない。全員、劇場の前から始まっている。
当時の私はこの経路を「エスカレート」という曖昧な言葉で説明していた。だが今なら、もう少し正確に言える。

アルカロらが2021年に発表したレビュー論文に、依存症についての整理がある
依存とは、SEEKING=探索の衝動が強迫的な習慣に「固着」してしまい、本来持っていた柔軟性と、新奇なものに向かって自発的に立ち上がる性質を失った状態である、というものだ。

(※)「Pub Med Central」Alcaro A, Brennan A, Conversi D.
The SEEKING Drive and Its Fixation:A Neuro-Psycho-Evolutionary Approach to the Pathology of Addiction. Front Hum Neurosci.
2021 Aug 12;15:635932. doi: 10.3389/fnhum.2021.635932. PMID: 34475816; PMCID: PMC8406748.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8406748/

つまりリアスト(実生活にまで踏み込んで追う者)は、探索が上手くなりすぎた人ではない。探索先が一箇所に固まってしまった人なのである。

健康な探索系はあちこちに向く。推しも探すが、新しい店も探すし、面白い本も探す。
だが固着した探索系は、一つの対象しか探せなくなる。世界が狭くなっていくのだ。強くなっているように見えて、実は選択肢を失っている。

町厨(出待ち)とリアストを分けているのは、良心の量ではない。
探索系がまだ他所に向けるかどうか、である。けっこう怖い話ではないだろうか。

で、結局何が言いたいかというと。

出待ちの脳汁は、会えた瞬間にだけ出ているのではない!

探している間、ずっと出ていた。会えた瞬間というのは脳汁のクライマックスではなく、終了通知なのである。SEEKINGは、見つけた瞬間に終わる。

だから会えた直後に、あの猛烈な虚無が来る。推しに会えたはずなのに帰り道でぼんやりしてしまう、あれだ。あれは満足ではない。探索の終了である。

この順番を知っておくと、少しだけ楽になることがある。「会えなかった日は無駄だった」と思わなくて済むのだ。会えなかった日も、探している間ずっと脳汁は出ていた。

そして、もし自分の探索先が一箇所に固まりかけていると感じたら、これは説教ではなく脳の仕様の話として、探す対象を増やしたほうがいい。同じ回路で、別のものを探せばいいのである。古本屋に行ったり、めじるしアクセサリーのガチャガチャを探してみたりね。あれも立派な探索だ。当たった時にちゃんと脳汁が出る。

……とはいえ。
こんなに偉そうに書いておきながら、私は今でも、街で見覚えのある車種のワゴンを見かけると反射的に目で追ってしまう。

探索系というのは、そう簡単には配置を解除してくれないのだ。

※オタク文化のリアリティを追求する本連載の特性を鑑み、表現の意図を尊重して掲載しております。本文は著者の見解に基づく内容であり、著者及び弊社が読者の皆さまに推奨する行為、意向ではございません。

illust./イラストAC

*次回の更新は10月28日(水)予定です。

山野萌絵(めりぴょん)

ライター/コラムニスト。オタク。はてなブログや文学フリマで好き放題書いていたところ、なぜか2019年に商業連載デビュー。普段はnoteや同人誌で活動中。

X(旧Twitter) @_a030
note https://note.com/13weekslaterep


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