
杏仕事
ジャムのなかでいちばん好きなのはあんずかもしれない。自家製のあんずジャムは口に含むときゅんと甘酸っぱくて、それでいてさっぱり。
塩気の効いたバタートーストにとてもよく合う。もちろんヨーグルトにもぴったりだし、カレーの隠し味に加えると味わいに深さが増してぐんとおいしくなる。これからの時期にはミルクで作ったかき氷にシロップ代わりにすると抜群だ。
最近のお気に入りは行きつけのイタリアン、オルランドのデザートで知ったリコッタチーズとの組み合わせ。お店ではルバーブやキンカン、パイナップルなどを使っていたが、甘酸っぱさつながりであんずも美味しいだろうと試してみたら、まさに大正解。まろやかでちょっぴり塩気のあるリコッタチーズにあんずの甘酸っぱいジャムの相性が絶妙でたまらない美味しさ。ただチーズにジャムをのせただけなのに、手のかかったムースのような食感と味わいにすっかり病みつきになった。
あんず色はどこかノスタルジックで子どもの頃を思い出させてくれる。実家の庭には、祖父のいいつけで食べられる実がなる樹木がたくさん植えてあった。杏、梅、梨、柿、枇杷、無花果、花梨…。とはいえ、小ぶりの梨は酸っぱくて渋くて食べられたものではなかったし、枇杷は食べごろを狙う鳥との競争に敗れてしまうことがほとんどだった。ちゃんとした栄養も与えず、ほったらかしにしているのだからお店に並ぶように美味しくなるわけがない。
それでも梅と杏だけは毎年、実っただけ収穫して果実酒にしたり、梅干しやジャムにして楽しんでいた。息子も小さな頃は梅の収穫の手伝いを楽しみにしていて、長い棒でたわわに実った枝をたたいて落とし、地面に敷いた大きなシーツに落ちた実をせっせとかごに拾っていたのを思い出す。
熟したあんずはみるからに美味しそうな色だが、生で食べてもぼやっとした味でそれほど美味しいものでもない。それが熱を加えるとどこにそんな酸味が隠れていたのかと思うほど、鮮やかに激変する。砂糖を加えてジャムやコンポート、シロップ煮にするとなんとも爽やかな甘酸っぱさを楽しむことができる。この時期は青果店やスーパーに並んでいるのを見つけると素通りすることができない。3パック、4パックとまとめて買っていそいそと持ち帰る。
あんずは縦にぐるりと包丁を入れてねじると、アボカドのように簡単にふたつに割れる。
種を取り除いて砂糖と少量の水と一緒に煮るだけで簡単にコンポートができる。その際に、種をひと粒かふた粒放り込んでおくと風味がよくなると先日教えてもらった。
あんずの実はももよりずっとしっかりしているのに、熱を加えるとあっというまに柔らかくなる。まだまだかなと思っていても煮崩れてしまうので、気をつけていないとグズグズのコンポートともジャムともいえないものができ上がってしまう。それでも美味しいから無駄にはしないのだが。「あんずは思ったよりも短時間で」ということを肝に銘じて煮るようになった。
いつものあんず熱に加えて、今年はこちらも行きつけのかき氷のお店、喫茶ベレーで長野にある相澤農園の立派なあんずを分けていただく機会を得た。しかもジャムとシロップ漬けは相澤農園の特製レシピ付きというありがたさ。今回入手したのは酸味が爽やかな新潟大実ときれいな紅色が差した信州大実の二種類。文字通りの大粒で、ジャムにしてしまうのが惜しいほど。
まずコンポートとシロップ漬けにして、最後に思い残すことなくたっぷりとジャムを仕込んだ。きれいなあんず色が詰まった保存瓶がずらりと並ぶのを眺めながらにんまりしてしまった。これならあんずの時期が終わってもしばらくは楽しむことがきる。たっぷりと仕込んだシロップ漬けは手土産にしても喜んでもらえるかなと今から思いもうけている。
あんずジャム
あんずは洗ってからふたつ割りにして種を取り除く。鍋にあんずを入れ、ひたひたの湯でやわらかくなるまでゆでてザルに上げ、水気を切る。ホーロー鍋にゆでたあんずとあんずの半量の砂糖を入れて、強火で10~15分ほどゴムベラで混ぜながら中火強で煮る。熱いうちに熱湯消毒した瓶に詰める。
あんずのシロップ漬け
あんずは洗ってからふたつ割りにして種を取り除いて、熱湯消毒した瓶に詰め、同量のグラニュー糖と水を煮溶かして作ったシロップを熱々のうちに注いで軽く蓋をし、瓶が縦に入る深めの鍋に水を少量沸かし(底から2~3㎝の深さ)、瓶を並べて8分間蒸したら(空気抜き)、蓋をきつく締めて1分間蒸す(消毒)。
冷めたら、瓶をさかさまにし、冷暗所で保管する。2カ月ぐらいで食べごろになる。
*次回は8月10日(月)更新予定です。