将来のためではありません #それでも女をやっていく

将来のためではありません #それでも女をやっていく



会社員、フリーライターであり、同人ユニット「劇団雌猫」として活動するひらりささんが、「女」について考えるこの連載。
今回は鍼治療を通して考えた身体のこと、将来のことについてつづっていただきました。


 

この冬から、鍼に通い始めた。

都内某駅近くの鍼灸院なのだが、インターネットに情報が一切載っておらず「駅名 鍼灸院」でググっても、名前すら出てこない。都内に山ほどある、お客さんの口コミで成り立っている個人経営の鍼灸院のひとつで、すでに5年通っている同僚に教えてもらった。
彼女は、新卒で働いていた企業に出入りしていたマッサージの先生から「あなたは本当に具合悪そうだから、ここに行きなさい」と紹介されたのだそうだ。激務のせいもあってか、通勤中に倒れてしまうような生活だったのがだんだんと回復し、途中足が遠のいた時期も挟みつつ、今は再度のメンテナンスで通い直しているのだという。

わたしはというと、体調が悪い時には西洋医学に頼ってきた身の上で、30歳前後になるまでマッサージにすら金を払うのを躊躇っていたタイプなので、それまでの鍼経験は人生に一回だけ。ステイホーム始まりたての昨年初夏、在宅デスクワークで根をあげた腰のケアをあれこれ試す中で、最寄駅の鍼灸院に駆け込んだのみだ。
たしかに施術中、鍼がもぐった先にある筋膜?がぴくりと反応する感覚を初めて体験し、「#☆@%!?`$」と文字にできない驚きの声が出て、一種のアハ体験ではあったのだけど、そのおかげでその後腰痛が良くなったかというと自信がなかった。いろいろな手法を複合的に試したせいもあっただろう。その中でマッサージへの支出を優先してしまったので、続けて通うには至っていなかった。

(イメージ:写真AC)

そんな経緯があり、鍼で劇的に健康になったという同僚の体験談を聞いても半信半疑だったのだが……「先生は昼間医者をやっていて、鍼は夕方からの慈善事業」「鍼の先生とお灸の先生一人ずつが、5〜6人を同時に施術していくため、予約していても2時間は待つ」「でもその間先生手作りのカレーと焼き芋が食べ放題」「猫が5匹いる。先生の自宅にはもっといる」など、なかなかエキセントリックな情報が盛り沢山で俄然興味が湧いてしまい、正月休み最後の日に連れて行ってもらった。

民家の二階をまるまる鍼灸院として使っているその院内は、エキセントリックさと地域密着感があいまった「実家」としか言いようのない雑多な空間で、玄関にはボロボロに読み古された『あさきゆめみし』『神の雫』が並び、居間にあたるスペースでは、常連らしき女性たちが手馴れた手つきで、石油ストーブの上におかれた焼き芋をひっくり返しつつ、冷蔵庫を開けてはカレーを食していた。備えつけのテレビではワイドショーが流れ、カウンターキッチンの前には、ずいぶん前の男性誌から切り取られたらしい真っ青な表紙の上で、薄れつつある印刷の高橋一生の顔がニコニコと微笑みかけてくる(先生が好きらしい)。
施術室は、居間からつながる3つの部屋を5つに仕切ったもので、使い古されてせんべいみたいになった布団に横たわって服を脱ぎ、先生が巡回してくるのを待つという仕組みだ。

この「実家」感と、それを作り上げているこの道数十年の先生たちのトークがわたしの心にスマッシュヒットし、定期的に通うことを決意した。もはや「面白い占い師のところに通う」に近い出費なのだが、施術自体の効果も歴然とあった。生理周期がおそらく人生で初めて、「正常」と呼ばれる範囲に収まり始めたのだ。

調子が上向いているように感じる今だから、エッセイに書こうという気になったのだが、わたしの生理周期は「正常」とされている25〜38日より長めな上に日数がぐちゃぐちゃである。
そもそも、生理が始まってから数年、半年に一回くらいの時期があって、人生で初めて婦人科に行ったのはそれが理由だった。今でも覚えてるほど痛いホルモン注射を筋肉に打たれたらその後すぐ生理がきて、「人体ってすごいな」とびっくりした。その注射以来、1ヶ月半に一度ほどは来るようになった。
周期的には「稀発月経」と診断されて治療を受ける場合もあるらしいのだが、周期が長くとも、基礎体温の上下があり、止まらず定期的に来ているのであれば、問題ないのだという。
「そろそろ来ないとやばいかも……?」と思い始めると数日で生理が来ることの繰り返しで、たまに「それにしてもだんだん長くなってるかもな……平均周期が赤穂浪士の人数(47人)と同じに……早く討ち入ってくれ……」とそわそわして病院に行っても、「半年来ないとかだと治療もすすめるんだけど、そういうわけじゃないし妊娠もしてないようだから、様子を見るのがいいかと思います」と言われて帰されるだけだった。
低容量ピルを飲めばきれいな周期で生理を発生させることができるのは知っていたが、毎日決まった時間に薬を飲む、ができない性分なのが過去のあれこれから分かっていたので、その選択肢は取れなかった。

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Written by ひらりさ
ひらりさ

ライター・編集者。平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル「劇団雌猫」メンバー。 劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。 個人としてもアンソロジー同人誌『女と女』を発行するなど、女性にまつわるさまざまなテーマについて執筆している。

»https://twitter.com/sarirahira

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