
【ペルー国境封鎖足止め日記】そして誰も居なくなった
人生初の中南米一人旅の真っ最中に、新型コロナウイルスが蔓延。
国境は封鎖され、飛行機はキャンセルになり、異国の地でのロックダウン生活。
街中がパニック、一人心細く、早く帰国したいと願う毎日……になるかと思いきや、
彼女は「いっそのこと、ここに住もう!」と決め、ペルーで生活を始めた。
ペルーで暮らして、早2年。
現地からお届けする、予想外で刺激的な日々。
住み込みだったオーナー夫妻はそれぞれの実家に戻り、全部で5室程しかない小さなホテルでの一人暮らしが始まった。宿代は、コロナ特別価格で一泊S.20(600円)。
異国の地で一人というのは怖い気もするけど、一人っ子で独身なので、一人で居ることには慣れている。むしろ、他人からコロナに感染するリスクも低いし、もし具合が悪くなってもオーナー夫妻は英語が話せるし、助けてくれる人はいる。そんな安心感さえあった。
速度は遅いけど一応Wi-Fiはあるし、洗濯機もキッチンもあるから、特別不自由なことはない。何より、このホテルの屋上から見える夜景が最高なのだ!
クスコの街は静かで、よく眠れそうと期待していたものの、夜中には野良犬同士の抗争が始まる。日の出前には、真向かいの家で飼われている鶏が必ず鳴くし、7時頃にはパンを売る人が鈴を鳴らしながらやってくる。クスコの朝は早くて騒がしく、耳栓が必須になった。
そして、クスコで過ごす間の観光プランはすべて白紙に戻った。行く予定だったレインボーマウンテンも当面の間は閉鎖され、「今日はボゴタ(コロンビアの首都)に行くはずだったのに……」「メキシコから帰国するはずだったのに……」と呆然としながら日々が過ぎ、航空券もクーポンになって溶けていった(使えず終了)。だけど、この程度で済んでよかったのかも、もっと大変な状況の人はたくさんいると、何とか自分を保つようにしていた。
ここで感染したら最悪だなぁ。クレジットカード付帯の保険も90日を過ぎたら切れるし、外国人は治療も後回しだろうな。クスコでの隔離生活の不安は、考えだしたらきりがない。
なるべく楽しく過ごすほうが心身ともに健康でいられると思い、それからは映画と読書三昧の暮らしをしていた。MacBookを持ってきていたからリモートワークも出来るし、時々絵を描いたり、切り絵を作ったり。
外出時はマスクが必須で、身分確認のためにパスポートを携帯しないといけない。公園でのんびりすることも許されず、観光名所で立ち止まって写真を撮るだけで注意されるらしい。
「銀行に行くという前提で、中心部にあるアルマス広場に行ってみたら?」とオーナーに助言をもらい、ドキドキしながら出かけた。
歩いていて怒られないか緊張しながら、片道15分の道のりを行く。しかし、人ひとりすれ違わない。初めて訪れた世界遺産でもあるクスコ市街地は、美しいゴーストタウンのようだった。木製のバルコニーや石造りの建築が素敵で感動するも、警察官が巡回しているので、じっくり眺めてはいられない。
人が居ない分、街には野良犬や猫が目立つ。道端で犬が倒れていて、死んでいるのかと心配で近づくと、どれも昼寝しているだけだった。のびのび暮らしているようだ。
本当にコロナなんてあるのかと思うほどクスコの街は穏やかだったけど、首都のリマでは暴動が起きたらしく、ついにはペルーのコロナ死者数は人口比で世界最多なってしまった。
今月のスペイン語
*次回は9月9日(金)更新予定です。
イラスト・写真/ミユキ