『元・中国人、日本で政治家をめざす』

『元・中国人、日本で政治家をめざす』


新宿駅東口から歩いて数分で、日本一の歓楽街である歌舞伎町にたどり着きます。
角にドンキホーテがある中央通りから線路側に進むと、すぐ見えてくるのが「歌舞伎町一番街」。

生々しい欲望を極彩色の看板で無理やり隠したような一番街を少し進むと、左側に風俗店の紹介所が現れます。渋谷の百軒店などにもある紹介所といえば、歓楽街の代名詞ともいうべき怪しいスポットですよね。

しかし一方、同じビルの4階には、とてもレベルの高い中国料理店もあるのです。

中国8大料理のひとつである「湖南料理」が食べられる、「湖南菜館」。
激辛な本物の湖南料理を食べられるのは、どうやら東京ではここだけのようです。
実は先日もお邪魔したのですが、本当においしいんですよ、ここ。

そして今回のポイントがここ。このお店のオーナーの李小牧(り・こまき)さんは、紹介所よりも歌舞伎町を知り尽くした「歌舞伎町案内人」として有名な人なのです。

数々のメディアで取り上げられているのでご存知の方も多いかと思いますが、1988年に中国を脱出して歌舞伎町にたどり着いて以来、27年にわたり、外国人客たちのために歌舞伎町を案内し続けてきた人物。
歩いているだけで、黒服のキャッチも挨拶をしてくるというほどの有名人です。しかも後ろ指を指されるようなことはせず、人当たりのよさを武器として、友好的にクリーンに、街をまとめている。

『元・中国人、日本で政治家をめざす』(李小牧著・CCCメディアハウス)は、これまでにもベストセラーとなった『歌舞伎町案内人』(角川書店)をはじめ多くの著者句を残してきた李さんの最新刊。
文化大革命のあおりを受けた少年時代のことから、現在に至る歌舞伎町での暮らしまでが描かれています。

印南さん連載用text

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まるで映画かドラマのようにリアルかつスリリングなので、アクション大作でも見ているような感覚ですぐに読めてしまうはず。しかも本書には、もうひとつの大きな意味があります。クライマックスというべき後半には、日本人に帰化し、新宿区議選に出馬した李さんの戦いの日々が描かれているのです。つまり、タイトルの意味もそこにあります。

残念ながら落選してしまったのですが、その誠実な姿勢には心を打たれました。落選が決まった翌日の朝、新宿の街や大久保駅前で「ごめんなさい」と通行人に頭を下げる姿はYouTubeでも確認できますが、そこまでできる政治家が、果たして日本に何人いるでしょうか?

あの選挙戦のさなか、「湖南菜館」でお話を聞いたときのことは、いまでもはっきりおぼえています。日本人になったこと、そして区議選に出馬したことについて、李さんはこう話してくださったのです。

「日本に来て実感したのは、民主主義の素晴らしさ。日本みたいに自由にものが言えたりするなんて、中国じゃ考えられない。だから、民主主義を体験したことがなかった私が民主主義の素晴らしさを伝えれば、中国人に、そして日本人に、なにかを伝えられるんじゃないかと思ったんです。それに私以上に歌舞伎町を知っている人間はいないから、区議会議員になって、私を育ててくれたこの街のために働きたかったしね」

この話をお聞きしたとき、正直にいえばドキッとしました。この国に生まれてからずっと民主主義しか知らなかった自分は、本当の意味で民主主義の素晴らしさを実感したことなどなかったかもしれないと感じたからです。そして、日本がおかしな方向に向かっているいまだからこそなおさら、僕たちは民主主義のありがたみを感じなければいけないのではないか? どれだけ誹謗中傷されようが意志を曲げない李さんを見ていると、そう感じずにはいられないのです。

というわけで今回の「神フレーズ」は、

日本の若者に言いたい。民主主義にとって大事なのは、選挙。選挙に行くことです。
あなた方が投票に行かなければ、この国は変わらない。
(242ページより)

区議選のときの演説からの引用ですが、来年7月の参院選のためにも、選挙の、いや、民主主義の本質をとらえたこのメッセージは記憶にとどめておく必要があると思っています。

 

『元・中国人、日本で政治家をめざす』

 

Written by innami atsushi
innami atsushi

印南 敦史(いんなみ・あつし)/作家・書評家・ライター 1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は、「ライフハッカー[日本版]」「マイナビニュース」 「ニューズウィーク日本版」「Suzie」など多くのメディアで連載。最新刊『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社刊)がベストセラー記録更新中。FMおだわら78.7Mhzで 毎週日曜日20:30~21:00(再放送:金曜22:30~23:00)、ラジオ番組「印南敦史のキキミミ図書館」のパーソナリティも。http://book-radio.net

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