ありのままの自分を受け入れた先に見えるものとは? 中山咲月さん『無性愛』発売記念インタビュー後編


――自分が無性愛者であることが分かった時は、わからない感情に名前がついた安心感があったとおっしゃっていましたが、自分がトランスジェンダーだと分かった時も、安心感があったんでしょうか?

いや、それが、どちらかというと、ショックだったんですよね。
その映画を観るまでは気づいてなかったのですが、多分……気づきたくなくて、自分自身をごまかし続けていたんだろうなっていうのはすごくあって。「普通」への憧れみたいものが、やっぱりあるので。
当たり前にみんなと恋愛の話や恋愛ができて、生まれた性別のままで生きていけるって、今より全然苦しまなくて済むんだろうなっていう思いがあったんです。
だからこそ、トランスジェンダーだと気づいた時は、またひとつ、普通から離れてしまったというショックがあって、つらかったです。

――自分の中でも、気づかないようにしていた部分だからこそ、受け入れるのはつらかったんですね……。それでも公表しようと思われたのはなぜなのでしょうか?

公表しないことを選ぶということは、この先も女として扱われ続けるということになりますよね。これまでは自分をごまかし続けてなんとかなっていましたが、自分が男だとはっきり認識した後は、その扱いを我慢することはさらにつらくなると思ったんです。
実際、自分がトランスジェンダーだと自覚した後にいくつか仕事をしたんですが、明らかにつらさの重みが違ったんですよね。「ボーイッシュな女性ですが」のようなことを言われた時に、「あれ。つらいな、前以上に苦しいな」って。「これ言わないとダメになるな」って思いましたね。

――今回、トランスジェンダー(自分は男性)であることを発表してから、なにか気持ちに変化などはありましたか?

はい。やはり、生きやすくなりましたね。苦しんでいた気持ちが、発表することによってすごく軽くなりました。
これまでもファンの方々には多少伝えてはきましたが、こうして書籍で発表することで、ファンの人だけじゃなく、自分のことをまだ知らない人にも届けられたら、さらに生きやすくなるんじゃないかなって思っていますね。

――中山さんは、無性愛者かつトランスジェンダーであるということで、いわゆるセクシャルマイノリティの一員であると思うのですが、同じように、なにかしらのセクシャルマイノリティで悩んだり苦しんだりしている人が、残念ながらまだ多くいると思います。そんな人たちに、中山さんからかけてあげたいメッセージがあれば、ぜひお願いします。

こういうお話になると、「セクシャルマイノリティの方に向けて」っていう話になりがちですよね。
もちろん、その方達にも伝えたいことではあるんですが、極論を言えば、セクシャルマイノリティでなくても、人間なら誰しも、なにかしら悩みを抱えていると思うんです。男性だからこうしろ、女性だからこうしろという世間からの理不尽な扱いであったり、自分は他の人とは違うかもしれないという違和感であったり。
その悩みの重さは、自分たちと変わらない。いわゆる「普通」と言われる人たちも、生きていく上で悩み苦しんでいると思うんですよね。

今回、本を出させてもらった時に、セクシャルマイノリティじゃない人にも届けられたらいいなって思ったんです。
自分はテレビや舞台に出るという、いわゆる表に出る仕事をしているので、外から見ていると、笑顔で楽しそうだなって、ちょっと遠く感じると思うんですよ。でも、芸能の仕事をしている人も同じ人間で、みんなと同じように悩みを抱えていて、苦しみながらも一生懸命生きているんだということが伝わればいいなって。
がんばっている姿は見せない方が素敵だっていう人もいるけど、自分は、格好悪くて惨めに見えても、もがき苦しんでもがんばっている姿を、みんなに見て欲しい。そうすることで、みんなも嫌なことや大変なことを乗り越えていけたら……。そう思ってこの本を作りました。本を読んだ方に、そう感じていただけたら嬉しいですね。


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